【関西の議論】廃校寸前の小学校が蘇る…家族留学・自然PR・学区またぎ、大津の過疎山村学区の大胆試み - 産経ニュース

【関西の議論】廃校寸前の小学校が蘇る…家族留学・自然PR・学区またぎ、大津の過疎山村学区の大胆試み

葛川小・中学校では、学年にかかわらず、教諭も交えて給食をとる=昨年9月
葛川村づくり協議会が整備している空き家。積もった雪が家に入らないようにする「雪囲い」を設けた=昨年12月、大津市葛川坂下町
学校説明会で披露された葛川中学校の「書道」の授業。少人数を生かしきめ細かい指導を目指す=昨年9月
 過疎化に悩む全国の中山間地域。存続が厳しい学校もあるなか、大津市北部の比良山地にある葛川(かつらがわ)小学校と同中学校(同市葛川中村町)では、地域をあげて児童・生徒を呼び込む取り組みを始めている。学区外からの通学も可能にする制度を活用し、地域の空き家を格安で貸し出すなどして若い世代の家族にアピール。4月からの入学者も増え、過疎地の学校存続のモデルケースとしても注目されそうだ。(杉森尚貴)
「家族留学」、地域ぐるみで誘致
 《家の種類:古民家風、家賃:基本月3万円、畑希望:要相談、家の改造:要相談》
 昨年9月、葛川小への通学を希望する学区外の保護者を対象にした学校説明会で、こんな不動産物件紹介チラシが配られた。
 地域住民の有志で結成した「葛川村づくり協議会」がつくったチラシで、《春は山菜収穫、夏はアユつかみ、冬は雪かきも可能》と豊かな自然環境もアピールしている。
 「昔は林業が盛んだった地区。自然の中で想像力豊かな子供を成育することに生かしたい」。同協議会の空き家活用部会長、宮崎源之さん(47)は話す。
 学区の葛川地区の人口は約250人。ここ30年でほぼ半減した。若者が地区を離れ、高齢化・過疎化が進行し、空き家も目立ち始めた。その状況を食い止めようと4年前に発足した協議会は定住人口を増やす試みとして、空き家の活用に目を付けた。
 宮崎さんらは所有者や親族と連絡を取り、売却の意思がある家を売り出してもらう「空き家仲介事業」を開始。傷みがひどく雨漏りする家も多く、協議会のメンバーがボランティアでトタン屋根の張り替えや室内の掃除なども行った。
 「田舎暮らし」を考えている人などを中心に関心を呼び、これまでに10軒程度の仲介にこぎつけた。一方で、関心を示した若い世代からは「家を買ってまでの移住はハードルが高い」との声もあった。
 そんななか、葛川小と隣接の葛川中は平成30年度から、学区外からの通学を認める「小規模特認校」となることが決まった。住民らの要望を受け、大津市教委が昨年夏に指定した。
 葛川小の児童は現在、10数人で、約150人だった昭和30年代から約9割も減少。学区内からの入学者がゼロになる状況も見込まれていた。
 そこで協議会は若い世代に家族ごと移住してもらおうと、空き家を賃貸形式とすることも模索。「家族留学」との宣伝文句で、格安の「6DK、風呂、庭付き」など、都市部ではなかなか見つけるのが難しい物件を用意した。「地域の活性化は子供たちが戻ってくること」と担当者はいう。
 賃貸の手軽さが受け、編入を希望する家族からの問い合わせが増加。協議会によると、3月初めの時点で7軒に借り手がついた。幼稚園児のいる世帯もあり、今後、小学校への入学も期待できるという。
地域資源生かした独自教育
 「人数少ないんは、最初寂しかったけど、一人一人の責任感が強い。空気きれいやし、ええなと思う」
 京都市左京区から通う葛川中3年の椎葉大貴さん(15)は、学校生活をこう振り返った。
 葛川小中は小規模特認校の指定を受ける前から、比良山地を挟んで西隣の京都市左京区の一部地域から通学を認めており、数人が通っている。
 椎葉さんは生徒会長を務め、葛川地域の伝統行事にも参加。「地域の人との触れ合いはいい経験になった」と話す。
 葛川小中学校の中井明恵校長は「市街地から遠く、(ここでは)情報やモノがあふれていない場所ならではの工夫や生きる力が養える」と話す。
 小中学校では地域の森林資源を保護していこうと、杉の保全活動も実施。雪で倒れた杉を手入れしたり、枝払いをしたりと、地道に続けた取り組みは29年に農林水産大臣賞を受賞した。
 また、地域では特産品などの販売店を出店する計画も持ち上がり、児童・生徒たちがデザインしたサルのマスコットキャラクターをあしらったクッキーの企画、製造に着手。自然環境と子供たちの創意工夫を凝らしたユニークな取り組みとなっている。
魅力、じわりと拡散中
 葛川小中学校では昨年に3回、入学希望者を募る学校説明会を開催。延べ約90人の参加があり、一部授業も披露した。小4の娘を持つ大津市の40代男性は「書道では個々の児童の筆跡のくせに合わせて教えるなど、きめ細かな指導を行っていた。子供が生き生きし、先生との距離が近いと思った。遊ぶ環境がたくさんある自然豊かな立地も魅力的」と話した。
 これまでに4月から小学校で13人、中学校で5人の入学、転入が決定。学校側は学区外からの通学の利便性を図ろうと、ふもとのJR堅田駅からのスクールバス運行も決めた。
 宮崎さんは「若い世代が新たな魅力を発見し、伝統がつながることが一つの願いだ」と話す。住民と学校の相互努力が実を結び、新しい地域のあり方が生まれようとしている。