【関西の議論】論文不正なぜなくならぬ…研究者に立ちはだかる数々の壁  - 産経ニュース

【関西の議論】論文不正なぜなくならぬ…研究者に立ちはだかる数々の壁 

研究の不正が発覚し、謝罪する山中伸弥教授(左)ら=1月22日
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究でも論文データの捏造(ねつぞう)と改竄(かいざん)があった-。京都大iPS細胞研究所で起きた特定拠点助教による論文不正。ノーベル賞授賞の対象にもなった日本が世界に誇る研究分野での不正の発覚は、各方面に大きな衝撃を与えた。再生医療や創薬の分野で大きく役立つ夢の万能細胞をめぐる研究不正としては、理化学研究所などのチームが発表したSTAP細胞に関する論文の不正が記憶に新しい。なぜ、こうした行為が横行するのだろうか。(池田祥子)
研究者の多くが任期付き
 「また起きたのかと。STAP細胞のときを思い出した」。ある国立大医学部の男性助教(34)=生物学=はこう嘆息する。
 不正があったのは昨年2月に米科学誌「ステム・セル・リポーツ」に掲載された論文。血中に含まれた薬物や有害物質が脳に入るのを防ぐ「血液脳関門」の機能を持つ組織を、iPS細胞を使って体外で作り出すことに成功したという内容で、アルツハイマー病の治療に役立つ可能性があるなどとしていた。
 しかし、実際には論文通りの組織はできていなかった。学内からの指摘を受けた大学側が調査した結果、遺伝子発現量を示す値を大幅に書き換えるなど、論文を構成する主要な図6点全てと、補足図6点中5点で数値の捏造や改竄が認められた。
 不正を行ったA氏(36)は、平成26年11月、iPS細胞研の任期付き研究者である特定拠点助教に着任。任期は今年3月までだった。
 同研究所のスタッフの多くは任期付きだ。「目先の欲にとらわれてしまったのでは。焦りがあったのか…」と、男性助教は推察する。
 現在、国内の研究者を取り巻く環境は厳しくなっている。国立大学の研究資金は、国が大学に配分する運営費交付金を削減し続ける一方、他の研究テーマと競争して獲得する「競争的研究資金」の割合が増えているのだ。その結果、「短期間で結果を出すことが求められるようになった」と危惧する研究者も多い。
 この男性助教によると、教授であっても研究室にこもって研究に没頭する状況は皆無に等しいという。「競争が激しいので、他分野よりも注目されているiPS細胞でさえ、あの山中先生でも寄付を呼びかけるなど資金集めに奔走している」と指摘する。
険しい学内の道
 大学で研究者を目指す道も険しい。企業や民間の研究所などに進む選択肢もあるが、利益を追求する企業では自分の思い通りの研究をすることも難しい。
 男性助教は「大学の研究者は大学で研究することに誇りを持っている人が多く、企業などに進んだ者を“ドロップアウト組”と見なす傾向も強い」と語り、大学での研究にこだわりを見いだす層が一定割合あるとみる。
 国立大大学院の博士課程で化学を専攻した後に企業に就職した男性(27)は「ポストに就けるか分からなかったし、大学院まで出てフリーターのようにはなりたくなかった」と明かす。その一番の理由は、「自分の能力ではアカデミックでは生きていけないと思った」ことだったという。
 博士課程修了後も研究者として大学に残る道も考えたが、任期付きの助教になった先輩らの姿も間近でみてきた。「所属研究室は夜中までの勤務や土日出勤も当たり前で殺伐とした雰囲気だった。能力があったとしても、こうした中で教員・研究者として働くのは自分には無理だと思った」と振り返る。
「誘惑」に打ち勝つべし
 iPS細胞研究所は再発防止策として、これまで実施してきた実験ノートや論文データの提出をさらに強化するとした。ただ、これらに限界があることも事実だ。
 実験データの解析や図の作成は、筆頭著者のA氏が1人で行ったことを認めており、他の共著者の不正行為への関与は認められなかったと判断した。男性助教は、「このクラスの論文であれば、共著者はデータをみれば矛盾に気付くはず。データやグラフのチェックは1人で行うのではなく、複数の研究者ですべきだった」と語る。
 「データの見栄えを良くしたかった」。大学側の調査に対し、A氏はこう説明したという。男性助教は「思ったようなデータが出ず、『このデータさえあればなあ』という気持ちは研究者なら経験がある」と、研究者が一種の「誘惑」にかられる心境を吐露した。
 研究の世界は結果、いわゆる業績や論文が全てといわれる。それらは、将来のポストへのステップにも使われる“武器”だ。ただ、研究者が一つずつ地道に出すデータには、労力、資金、時間がかかっている。男性助教は「論文は研究者にとってはいわば宝物。それを捏造・改竄することは、自分の研究に泥を塗ることになる。研究がうまくいかないときに真価が問われる」と断言した。