後絶たない偽造ED治療薬の販売、危険なのになぜニーズあるのか

衝撃事件の核心
ED治療薬の模造品が保管されていたマンション=3月8日、大阪市中央区日本橋

 抱き合わせ、あるいはセット販売-。わいせつDVD販売業者の間では、ED(勃起不全)治療薬の模造品との組み合わせが最近のトレンドになっているようだ。大阪府警は2月、偽ED薬を所持していた商標法違反の容疑で、違法DVD販売店経営の男(67)と従業員の女(52)を逮捕した。こうした偽造品は一般に、中国やインドなどのヤミ工場で生産され、粗悪な作りで健康被害を引き起こす危険性も指摘されている。にもかかわらず、ネット上では盛んに取引され、摘発が追いつかない。なぜ怪しいクスリにニーズがあるのか。

涙型の錠剤

 1月24日、大阪市中央区日本橋にあるマンションの一室に、大阪府警の家宅捜索が入った。

 違法にコピーされた、わいせつDVDの製造拠点。アダルトビデオであふれかえった室内で、捜査員が容器のボトルを見つけ、手に取った。

 中には涙型の錠剤が多数入っていた。表面には「C100」の刻印。ED治療薬「シアリス」の模造品だった。

 現場から北に約120メートル離れた別のマンションの部屋からも、ED治療薬の模造品を発見。府警はこの2カ所から計約4千錠を押収した。

 逮捕されたDVD販売店経営の男らは、顧客に配布していたカタログで「シ○リス10錠4千円」「30錠9千円」などと宣伝。わいせつDVDとセットで購入するよう呼びかけていた。

 府警によると、シアリスの正規品の価格は1錠1700円ほど。本物であれば破格の値段といえるが、国内ではそもそも、ED治療薬は医師の処方箋がないと入手できない。

 押収物の成分は鑑定中だが、ED治療に有効な医薬品の成分が含まれていた場合は、医薬品を無許可で販売した医薬品医療機器法違反の疑いがある。

 現在のところ、購入者の健康被害は確認されていないというが、捜査関係者は「正規ルート以外で入手した偽造品には絶対に手を出してはいけない」と警鐘を鳴らす。

4割がニセモノ

 ED治療薬に処方箋が必要なのは、薬の効能に個人差があるからだ。心臓や血管に持病がある場合など、個人の体質や体調によって影響は異なる。そうした見極めのために医師の診察が欠かせないのだ。

 偽ED薬の中には、正規品よりも有効成分を多く含有していることを売りにしているものもあるが、成分の数値が大きければ効果が高いとは限らず、体格や体質によっては激しい副作用に見舞われる恐れもある。

 ファイザーや日本新薬など、ED治療薬を国内販売する4社が平成28年に発表した合同調査結果によると、ネット上で販売されている治療薬の約4割が偽造品だった。

 認可された量を超える有効成分を含有していたり、あるいはまったく含まれていなかったり、正規品にはない成分が入ったものもあったという。

 捜査関係者は「そもそもネットで買えること自体がおかしな話。ネット販売している治療薬は、全てまがい物と考えたほうが良い」と話す。

ニーズなぜ

 なぜ、リスクのある偽造品が出回るのか。

 ED治療に詳しい昭和大藤が丘病院(横浜市青葉区)の佐々木春明副院長は「国内でのEDに対する羞恥心が原因の一つ」と分析する。

 佐々木氏によると、勃起不全を人に知られたくないと考える患者は多く、医師を含めた他人への相談をためらう傾向があるという。

 海外では、患者自らEDであることをパートナーや周囲に打ち明け、周囲も治療に対して理解を示すことが多いというが、佐々木氏は「日本では、しっかり治療を続ければ治ることを理解していない人も多い。周囲に知られたら『男性として不全』という烙印(らくいん)を押されると不安になり、一人で抱え込んでしまう」と指摘する。

 1人で悩み抜き、最後にすがるもの。それがネット上で匿名で買える偽造品というわけだ。

 こうした羞恥心は服用後にもリスクを及ぼす。偽造品を服用した後に健康被害が出ても、患者がそれを隠して適切な処置につながらない恐れがある。

 国内でも偽造ED薬を飲んで意識障害を起こし、救急搬送された例が複数あり、中には殺鼠剤や麻薬の成分が検出されたケースもある。シンガポールでは、正規品には入っていない血糖降下剤が含まれたシアリスの偽造品で、服用患者が低血糖状態になり、死亡するという悲惨な事故も起きている。

 佐々木氏は「偽造品ではEDが治らず、男性としての自信を喪失したうえ、さらに他の病気にかかるリスクもある。必ず医師にかかり、正規品を使用してほしい」と訴えている。