【関西の議論】天才中学生、藤井六段が身を置く将棋プロの世界 棋士にどうすればなれる? 収入は? - 産経ニュース

【関西の議論】天才中学生、藤井六段が身を置く将棋プロの世界 棋士にどうすればなれる? 収入は?

朝日杯オープン戦本戦準決勝で、羽生善治二冠と対戦する藤井聡太五段(当時)
朝日杯オープン戦本戦準決勝で、藤井聡太五段(当時、左)と対戦する羽生善治二冠
朝日杯将棋オープン戦で、対局に臨む藤井聡太五段(当時、左)と羽生善治棋聖
国民栄誉賞授与式で、安倍晋三首相と記念撮影に応じる羽生善治棋聖(右)と井山裕太十段(左) =13日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
引退会見を終え、手を振って会場を去る加藤一二三さん=6月30日、東京都渋谷区の将棋会館(春名中撮影)
年齢制限を迎える三段リーグに挑戦する里見香奈女流五冠=大阪市福島区(平成29年10月撮影)
「野村IR資産運用フェア2017」で設けられた将棋棋士で個人投資家の桐谷広人氏の株主優待の展示コーナー=22日、大阪市北区
 将棋界初の29連勝を達成した最年少プロ、藤井聡太六段(15)の登場や、第一人者、羽生善治棋聖(きせい)(47)=竜王(りゅうおう)=の「永世七冠」達成、国民栄誉賞の受賞と、注目を集める将棋界。一方で、「どうすればプロになれるのか」や「年間どれぐらい対局しているのか」「収入はどれぐらいなのか」などわからないことも多い。意外と知られていないプロ棋士の世界とは…。(中島高幸)
プロ棋士への道は狭き門
 プロ棋士は、日本将棋連盟から認められた四段以上の棋士。現役は、羽生棋聖のようなタイトル保持者を筆頭に約170人いる。いずれも男性で、今のところ女性で四段に昇段した人はいない。プロ棋士と「女流棋士」の制度は別だ。
 引退した棋士は約60人で、「ひふみん」の愛称で人気の加藤一二三・九段(78)や、株主優待券を使うため、自転車で激走する「桐谷さん」として有名になった桐谷広人七段(68)らがいる。
 プロ棋士になるためには、日本将棋連盟の東京・将棋会館(渋谷区)と関西将棋会館(大阪市福島区)にある養成機関「新進棋士奨励会」に入会し、原則として26歳までに四段に昇段しなければならない。
 奨励会は6級から三段までで、対局などの試験を受けて入る。小学校高学年から中学生で入るケースが多い。会員同士の対局で、規定の成績を挙げて昇級・昇段し、三段になると、プロへの登竜門「三段リーグ」を戦う。
 約30~40人の三段が半年間に18局指し、成績上位者2人だけが四段に昇段でき、年間では4人しかプロになれない狭き門だ。26歳までに四段にならなければ退会となり、これまで何人もが涙をのんできた。ただ、26歳の年齢制限を迎えても10勝8敗以上の成績で勝ち越すと、次期も参加でき、29歳までは延長できる。
 藤井聡太六段(15)は初めて参加した平成28年4~9月の三段リーグで13勝5敗の成績を収め、わずか1期でプロ入りを決めた。四段になって29連勝を達成した藤井六段でも、5敗するほど三段リーグは熾烈(しれつ)な戦いだ。
 女流棋士で6つの女流タイトルのうち5つを保持する里見香奈女流五冠(26)も、女性初の棋士を目指して三段リーグで戦ってきたが、26歳の年齢制限を迎えた今期(昨年10月~今年3月)で9敗目を喫して負け越しとなり、退会が決まった。実力者にとっても、プロへの壁は厚い。
 大阪商業大学アミューズメント産業研究所の主任研究員、古作登さんは約30年前に奨励会で三段まで上がったが年齢制限で退会した。古作さんは「秀才が集まる中で三段に上がるのも大変。プロ(四段)と変わらないレベルの戦いでなかなか昇段できず、年齢制限が迫るのは言いようのないプレッシャーだ」と話す。
 一方、奨励会を退会しても、道は残されている。瀬川晶司五段(47)や今泉健司四段(44)は三段リーグを突破できずに奨励会を退会し、アマチュアとして活躍。しかしプロへの道をあきらめず、プロ編入試験で規定の成績を収めて合格した。
平均年収は500~700万円
 プロ棋士の収入は主に、公式戦での対局料と賞金だ。公式戦は、8大タイトル戦と一般棋戦があり、棋士には対局料が支払われる。勝ち進めば、その分対局数が多くなり、収入も増えるという実力社会なのだ。
 棋士の年間平均対局数は20~30局だが、藤井六段は今年度は70局を超える見込み。歴代最高は羽生棋聖の89局(平成12年度)だ。対局料には、段位や名人戦の予選にあたる順位戦のクラスも反映されるという。
 タイトルを獲得したり、棋戦で優勝したりすれば、賞金が入る。今年2月に発表された昨年の獲得賞金・対局料ベスト10では、上位の5人は、1位渡辺明棋王(7534万円)▽2位佐藤天彦名人(7255万円)▽3位羽生棋聖(5070万円)▽4位久保利明王将(3019万円)▽5位丸山忠久九段(2908万円)-だった。藤井六段はトップ10に入っておらず、収入も公表されていない。
 こうした賞金ランキングに入るようなトップ棋士はひと握りで、全体の平均年収は、500万~700万円とされる。棋士の仕事は対局だけではなく、将棋の普及の活動も行う。また将棋教室での指導、大盤解説会への出演、本の執筆なども収入源だ。
中学生の藤井六段が深夜まで対局してもいいの?
 公式戦で棋士が重視するのがタイトル戦で、棋聖、竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将の8つある。毎年1回、タイトル保持者と予選を勝ち上がった挑戦者が五~七番勝負を行い、勝者がタイトルを名乗る。一方、一般棋戦は、藤井六段が優勝した朝日杯将棋オープン戦など7棋戦ある。全棋士参加型と、年齢や段位に制限を設けたタイプがある。
 棋戦ごとに持ち時間があり、例えば棋聖戦の1次予選は1時間、2次予選は3時間。五番勝負は4時間だ。順位戦は6時間で、名人戦七番勝負は2日制で9時間もある。
 対局は、ときには深夜、未明に及ぶこともある。昨年、当時四段だった中学生の藤井六段に深夜労働させてもよいかどうかが話題となった。棋士は「個人事業主」で、事業主から雇用された「労働者」ではなく、労働基準法の適用外となる。このため、中学生の藤井六段が深夜に対局することはできるのだ。
負け続ければプロ引退
 プロ棋士の段位は九段まであり、棋士のステータスのようなもの。段位ごとに昇段する条件がある。四段の棋士が五段に上がるには、「公式戦100勝」などの条件一つを満たす必要がある。
 負け続ければ、引退につながるのが、名人戦の予選にあたる順位戦だ。上からA級(今期は11人)▽B級1組(11人)▽B級2組(25人)▽C級1組(37人)▽C級2組(50人)の5クラスある。各クラスで1年間に10局または総当たり戦を行い、成績上位の2~3人が次年度で上位に上がる。成績が悪ければ降級する。A級で優勝すれば、名人に挑戦できる。四段はC級2組からのスタートで、順調に昇級しても名人挑戦まで5年かかる。
 C級2組で成績下位10人に「降級点」がつく。3回つくと、「フリークラス」に降級する。フリークラスの棋士は原則60歳で定年となり、引退だ。また、10年以内に規定の成績を挙げてC級2組に復帰できなかった場合も、定年を待たず引退となる。
 一方、自らフリークラス転出を宣言する制度もある。宣言すれば、定年を60歳から65歳に延長できる。昨年6月の時点でフリークラス棋士は25人で、順位戦以外の公式戦には参加できる。
 加藤九段は、昨年1月にC級2組で3回目の降級点がついたため、フリークラスに降級したが、その時点で60歳を超えており、引退が決定。昨年6月の対局をもって引退した。当時77歳は現役最高齢記録だった。