文化遺産「和食」の核「昆布」…だしがらも栄養満点

関西の議論
「だしがら昆布は醤油や酢につけるだけでもおいしい」と話すだし料理研究家のChieさん

 「だし」のうまみを生かす関西の食にとって、なくてはならない食材といえる「昆布(こんぶ)」。化学調味料を含んだだしの代用品が普及したことなどから、生産量は約30年前の半分ほどに落ち込んでいる。だが、昆布だしは水につけておくだけでうまみが染みだし、「世界一簡単」という声もある。最近、栄養素が大量に残っていることがわかった「だしがら」を使ったレシピにも注目が集まる。また、昆布の価値を見直そうと大手企業も食育に乗りだした。意外と知られていない産地や種類、漁の方法なども紹介する。(北村博子)

北海道で9割生産、海域で品種も異なる

 「昆布の漁期は7~8月。海底の岩盤にへばりついた昆布を、先端が二股になった『マッカ』と呼ばれる漁具で根こそぎ絡め取ります」

 大阪の老舗昆布店「こんぶ土居」(大阪市中央区)の4代目店主、土居純一さん(43)は解説する。

 昆布はだしがよく出る「真昆布」「羅臼(らうす)昆布」「利尻昆布」と食用に向く「日高昆布」「長昆布」などがある。約9割が北海道産だが、採れる海域によって品種も異なる。

 土居さんは毎年、高級品種・真昆布の産地で知られる北海道函館市の川汲浜を訪れ、現地で昆布漁の手伝いもしている。生産者と信頼関係を築き、昆布の品質を保持するためだ。

 実は、昆布漁は「水揚げしてからが本番」といい、家族総出で取りかかる。

 まず収穫した昆布を浜に並べて1~2日かけて天日干しする。現在では機械乾燥もできるが、こちらは昆布をつるす作業がある。特に高級な真昆布は、平らに成形する必要があるため、乾燥後は夜露で湿らせてしわを伸ばす作業(機械作業では蒸気を利用)もある。その後、さらに重みをかけて水分を飛ばした後、余分な部分をカットして選別、梱包(こんぽう)、結束する。これらはすべて漁師の仕事だ。

 しかし、どこの漁師も後継者不足は深刻で、昆布の生産量は長らく年間3万トン前後で推移していたのが、ここ30年ほどで半分以下にまで激減しているという。台風による不漁や生産者の高齢化などの影響が考えられるが、「食習慣の変化も要因」との指摘もある。最近、だしの代用品として化学調味料を使っただしが家庭や飲食店に普及しているからだ。

「だしがら」もミネラル成分豊富

 大阪の昆布文化が定着した背景には、江戸時代に北海道の産物を載せた北前船との関わりが大きいといわれる。こんぶ土居の先代店主、土居成吉さん(74)は、日本の水が「軟水」であることにも注目する。

 「昆布のミネラルは軟水に溶けやすく、逆にミネラルの含有量が多い硬水には溶けにくい。日本人は、海からのミネラルを積極的に補給する必要があったのではないか」

 人が必要とする栄養成分はタンパク質、脂肪、炭水化物の「三大栄養素」にミネラル、ビタミンを加えた「五大栄養素」が基本だ。

 「車にたとえると、三大栄養素はガソリンで、ミネラルとビタミンはエンジンオイルにあたる。エンジンオイルが汚れると車が不調になるように、人もミネラルやビタミンが不足すると、疲れやすくなってじわじわと不調を訴えるようになる」(成吉さん)

 海草類や小魚はミネラル成分の多い食材だが、昨年、だしの成分量を検査したところ、文部科学省が発表しているミネラル成分13種類のうち、特に不足しがちなカルシウムやマグネシウムの値が予想よりも低く、成分の半分以上がだしがらに残っていたことが判明した。

 これを予想して、同店では以前から自社製品の液体だしのだしがらを使った商品開発を進めてきた。そのなかでも、やさしい味わいのふりかけは採算度外視の安さもあって、子供や若い女性の間で大人気となり、売り切れを知って号泣する子供までいたほどという。「だしを消費して、だしがらも無駄にせず喜んでもらえる。これが私の目指していた一つの答えかもしれない」と成吉さんは考えている。

「捨てるのはもったいない」だしがらレシピ

 こんぶ土居の近所で、「だし料理研究家」のChie(ちえ)さん(43)が、昆布や煮干しのだしを生かした料理教室を定期的に開いている。だしの取り方からだしがら料理まで、だしの材料を余すところなく使い切るのが特徴だ。だしを効かした料理ほど「後に残るだしがらを捨てるのはもったいない」と感じる人も多く、だしがらレシピは参加者にも好評だという。

 「昆布のだしがらは一口大に切って、ポン酢やしょうゆ、甘酢につけるだけでもおいしい。刻んでサラダに入れると、食感も良くなります。冷凍したら食べる機会を逃してしまうので、すぐに調理してください」とChieさん。

 三角形に切るなどすれば存在感もアップする。また、一口大に切ってオリーブオイルを絡めて、フライパンでカリカリになるまで気長に炒(いた)めて塩をひとふりすれば絶品のおやつにもなる。

 煮干しのだしがらは、レンジでパリッと乾燥させて使うのがポイント。ごまめの要領で合わせ調味料(砂糖、しょうゆ、みりん、酒)をサッと絡めたものは、粉山椒との相性も抜群だ。

 一方、大阪ガスは昨年5月から、和食のだしをテーマにした食育に乗り出した。

 近畿2府4県の小学5、6年生が対象で、だしの取り方からだしの飲み比べ、だしを使った調理実習のほか、産地や健康面への影響などについてもわかりやすく指導している。

 同社担当の大石ひとみさんは「子供たちは化学調味料が入っていないだしを飲む機会があまりない」と指摘。濃い味を好む子供が多く、健康面への影響も懸念される。

 昆布とカツオのだしは、子供たちを大いに喜ばせており、保護者からも「これまでは粉末だしを使っていたけど、これからは子供と一緒にだしを取りたい」という声が数多く寄せられているという。大石さんは「驚くほどの評価です。今後は地産地消や郷土料理も取り入れて、料理と一緒に生まれ育った土地の魅力も伝えられたら」と意気込む。

 無形文化遺産「和食」の“命”ともいえる日本のだし。家庭料理から見直してみたい。