暴言謝罪の兵庫・西宮市長、1期4年での退任を表明 今後の出馬「2万%ない」の真相は

関西の議論
定例会見に臨む兵庫県西宮市の今村岳司市長=1月19日

 「殺すぞ」。兵庫県西宮市の今村岳司市長(45)から、取材中だった読売新聞の男性記者に耳を疑う暴言がぶつけられた。今年1月4日、今村氏が仕事始め式で突然表明した次期市長選への不出馬表明について、男性記者が真意を確かめようとした際のことだった。読売新聞側には謝罪したものの、休暇中に自宅まで取材で訪ねた記者を「変質者」呼ばわりする発言も飛び出した。西宮市で市議を10年以上務め、満を持して市長に就任した印象もある今村氏。たび重なる問題発言で物議を醸してきたが、わずか1期で市長を退任する真意は何なのだろうか。(岡本祐大)

■「しゃべんな」「クソガキ」「ぼけ」…

 1月4日午前、市幹部約260人が参加した仕事始め式で、現在1期目の今村氏は突如、「市長としてこの5月で引退することを表明させていただきます」と述べた。

 4月の市長選に立候補するか注目されていたなかでの発言だったため、式終了後に複数の記者が真意を聞き出そうと今村氏のもとへ駆け寄った。真っ先に近づいた読売新聞の男性記者に対して、今村氏が発した言葉は「殺すぞ」。さらに振った手が男性記者の頬に触れた。

 エレベーターホールに向かう今村氏を追いかけ、さらに問いかける記者に、「しゃべんな」「寄るな」とたたみかける。エレベーターを待つ間も「このクソガキ、(取材で)俺の家まで来てんで」「支局長に落とし前つけさせるからな」と続けた。到着したエレベーターに記者が乗り込もうとすると、職員が制止。その横で「乗るな、ぼけ」といい、扉が閉まった。

 一連のやり取りについて報道各社は、同日中に会見を開くよう申し入れたが、今村氏側はスケジュールなどを理由に拒否。しかし翌5日朝になって急遽(きゅうきょ)会見を開き、自身の発言について「かっとなり、暴言を吐いた」と認めた。

 一方で、昨年末から今年の年始にかけての休暇中、男性記者が自宅を訪れたと指摘し、「私有地に無断で入ってきた」などと訴えた。「不法侵入」とまで主張(後に撤回)し、「読売新聞側から先に謝罪があれば、(自分も)謝罪する」と話した。

 結局、その日のうちに読売新聞大阪本社に謝罪文書を提出。1月19日に開いた定例会見では、市民から前日までに367件の苦情が寄せられたことについて「反省している」と述べた。

 ただ、この会見でも男性記者の取材方法は批判。「私有地に数十分間もとどまっているのは、性的関心があるか物取りのような、一般的には変質者だ」と主張した。

■「またか」市議らため息

 一連の言動について、西宮市議の一人は「『またか』という思いだ」とため息をもらす。今村氏の言動が物議を醸すのは初めてではないからだ。

 今村氏は京都大を卒業後、人材派遣大手のリクルートを経て、26歳だった平成11年に西宮市議に初当選。茶髪にピアス、ひげを生やして登庁し注目を集めた。以後は連続4選し、このうち3回はトップ当選だった。25年11月に市長選に挑戦し、自民など3党が相乗りして支援した現職らを破った。戦後の西宮市長では最年少だった。

 選挙戦で「文教住宅都市を取り戻す」とアピールしていた今村氏には市民からの期待が集まったが、その後は言動ばかりが注目されることになる。

 27年1月には「偏向報道をした」として報道機関に抗議し、改善されない場合にはその社の取材を拒否すると表明。会見で「偏向報道で市の政策推進に支障をきたすことがあってはならない」と主張した。

 さらに同年10月には市の重要施策は記者会見よりもホームページ(HP)での文書掲載を優先する方針を打ち出し、「(報道各社は)HPに載っている内容を記事にすればいい」と突き放した。

 この方針については周辺自治体の首長からも疑問の声が上がり、隣接する宝塚市の中川智子市長は「知る権利の侵害。自分中心の考えで怒りに震える」と批判。これに対し、今村氏は「市外の首長が西宮市のことに思いを持っているのか。驚きに震える」などと応じた。

 また、28年11月には中高生が参加したイベントで「おもしろくない授業を抜け出してたばこを吸い、マージャンをした」とかつての素行不良を自慢した。

 その場に居合わせた一色風子市議から後日、議会で「市長としての自覚を」と追及されると、自身のブログで「ピンクのダサいスーツに黒縁眼鏡で『お下品ザマス!』って言っている女教師みたいなことを言う」などとやり返した。市議会で非難決議が可決されるとブログの一部を削除したが、「きれいごとを言う大人ばかりではない、ということを伝えたつもりだ」と持論を述べた。

 かつて「女教師」と揶揄(やゆ)された一色市議は今回の「殺すぞ」などの発言について、「何回も繰り返されている問題で、本当に残念だ」と話した。

■市長選「不出馬」は、勝てないから?

 今村氏の言動について、同志社大名誉教授の渡辺武達氏(メディア学)は「たとえ取材過程で記者との確執があったとしても、相手を威嚇し、恐怖を与える『殺すぞ』は許されない」と指摘。脅迫罪にあたる可能性もあるとしたうえで、「これまでの政治家の問題発言とは質が異なり、言論弾圧につながりかねない」と批判する。

 西宮市議会の自民党系会派「政新会」幹事長の篠原正寛市議は「公人としての資格がない」と切り捨てる。田中正剛議長は「繰り返してきた不適切な言動の影響があり、もはや信頼を回復することは困難」として、辞職を促す声明を発表した。

 一連の騒動を受けて、市議会各会派は1月25日に開いた議会運営委員会で、辞職勧告や退職金の減額、所信表明の拒否などについて議論した。

 一方の今村氏は1月19日の定例会見で自身の4年間について、市立病院と県立病院の統合推進などを例に挙げ、「抜本的な改革ができた」と胸を張り、当初2期はかかるとしていた課題を「(残りの任期で)やりきれる」と強調した。

 ただ、ある市議は「行政改革を旗印にしていたが、この4年間でいったい何が進んだのか」と疑問を呈する。別の市議は「市長であるにもかかわらず市外に家を持ち、何が文教住宅都市の推進だ」とも話す。

 また、次期市長選への不出馬表明について、複数の市議は「勝てないと思っているからに違いない」と指摘する。4月の市長選には、元衆院議員、前副市長、兵庫県議の新人3人が名乗りを上げている。一方の今村氏の与党会派はすでに解散しており、組織の支援があるとは考えにくいからだ。

 今村氏は今後、選挙に関わることは「2万%ない」と明言しており、退任後については「しばらく仕事はしたくない。31年度までに何をするかゆっくり考える」としている。