「池の水ぜんぶ抜く」人気特番ロケが中止になったワケ…舞台は“卑弥呼の墓”で反響大きく

関西の議論
水が抜かれた状態の箸中大池。奥に「卑弥呼の墓」とされる箸墓古墳が見える=奈良県桜井市

 テレビ東京の人気番組「池の水ぜんぶ抜く」の正月特番として、奈良県桜井市の箸墓(はしはか)古墳に隣接する箸中(はしなか)大池で予定されていたロケが昨年12月、中止された。箸墓古墳は邪馬台国の女王卑弥呼の墓という説もある大型前方後円墳。テレビ東京は「出るのはお宝か、それとも未知なる生物か」と告知していたが、「発掘が目的との印象を与えかねない」との意見が地元から出たという。ロケが中止になった経緯を振り返る。(藤木祥平)

絶滅寸前の希少生物も

 「池の水ぜんぶ抜く」はテレビ東京で昨年1月に始まった人気番組。不定期の特番として放映され、同11月26日放送の第5弾では、平均12・8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の高視聴率を記録した。

 番組の内容はいたってシンプルだ。タイトル通りに全国各地の池の水を抜き、そこにどんな生き物が潜んでいるかなどを調査するという企画で、「池の水を抜いてキレイにしたい」「迷惑外来生物を駆除したい」「巨大岩石を撤去したい」といったさまざまな依頼を番組公式サイトで募集。番組ではタレントがオファーを受けて依頼主の元に出向き、水が抜かれる様子を見守り、何が出てくるかを調べる。池の環境改善にも一役買っているという。

 過去には、佐賀藩鍋島家の家紋が描かれた江戸時代の軒丸瓦が見つかったほか、体長1メートルを超える北米原産の巨大肉食魚アリゲーターガーや、環境省のレッドデータブックで「準絶滅危惧種」に指定されているニホンイシガメを捕獲。お宝や希少生物が相次いで発見され、回を重ねるごとに視聴者の関心を集めるようになった。

“合法的盗掘”になる

 正月特番として放映予定だった1月2日の第6弾は「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜きましておめでとう2018」と銘打ち、箸中大池の水抜きが企画の目玉に。著名な箸墓古墳に隣接する池で、11月の前回の番組中に「出るのはお宝か、それとも未知なる生物か」と告知したこともあり、大きな反響を呼んだ。

 地元の関係者によると、テレビ東京は昨秋、このロケの企画を進めるため桜井市と交渉した。しかし、市側は当初からお宝目当てのロケに難色を示したという。

 陵墓に指定されている箸墓古墳は宮内庁が管轄し、墳丘への立ち入りが禁じられている。

 池の中心部や古墳から離れたエリアなら調査しても支障はない。だが、発掘を目的にロケが行われたとすれば、文化財保護法に抵触するかどうかは「かなりグレーゾーン。言い方は悪いが、『合法的盗掘』になる」と市の関係者は言う。

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反響大きく、ロケ中止

 市は市教委とも協議を重ね、「文化財を目的とする発掘には協力できない」との結論に至り、テレビ局側に伝えた。市の関係者は「タレントが文化財をほじくり返すという行為は、教育的観点からも問題がある。住民が清掃のために浚渫(しゅんせつ)する(土砂を取り除く)のと、テレビ局が発掘を目的に浚渫するのとでは意味が違う」と話す。

 こうしたことを受けテレビ東京は12月初めにロケの中止を発表。同社広報部は「反響が予想以上に大きく、『発掘が目的との印象を与えかねないのでは』などの意見が取材先から出た。地域の皆様にご迷惑をおかけしてしまう可能性も踏まえ、この部分の取材を見送る結論に至った」と説明した。

 ロケ中止について、地元の住民からは「結果的によかった」との声が聞かれたが、一方で市や関係各所には「協力すれば観光アピールになるのに…」などと不満の声も寄せられたという。

「魏志倭人伝」に一致

 箸墓古墳は、邪馬台国の有力候補地の纒向(まきむく)遺跡(同市)にある最古の大型前方後円墳。全長約280メートル、後円部の高さは約30メートルで、3世紀中ごろから後半の築造とみられている。後円部の直径が約150メートルで、魏志倭人伝(ぎしわじんでん)にある「倭国の女王卑弥呼の墓は径百余歩」という記述とほぼ一致することから、卑弥呼の墓ともいわれる。

 一方で、卑弥呼の後継者・台与(とよ)(壱与(いよ)とも記す)が被葬者との見方もあるが、宮内庁は第7代孝霊天皇の皇女、倭迹々日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)の陵墓として指定している。これまでの調査で、現存する最古の木製輪鐙(わあぶみ)(馬具の一種)が出土。4世紀初頭に乗馬の風習があったことを裏付けるなど、歴史の謎を解く上で大きな意義を持った古墳だ。

実際に水を抜いてみると

 思わぬ格好で注目を浴びた箸中大池は、農林水産省の「ため池百選」にも選定され、農業用水として周辺の農地を潤している。晴れた日には、常緑樹が茂る箸墓古墳が池に映し出され、スケッチに訪れる人も多い。

 その箸中大池ではテレビ東京の企画とは別に、毎年12月中旬から田植えが始まる翌年5~6月ごろまで、地元住民らによって水抜きが行われている。「水が腐らないように、土に酸素を触れさせるため」(住民)で、テレビの企画で意図された発掘や泥のかき出しなどは行っていない。今回のロケ中止後も普段通り水抜きが行われ、現在は干上がった池の全容をうかがうことができる。

 毎年一定期間、水が抜かれていることもあり、ごみは散見される程度で、生き物の姿は肉眼では全くうかがえない。水が満ちている時期はシラサギやカモなどを見ることができるそうだが、外来種が繁殖する可能性は低く、市の関係者は「もし出てきたとしても、せいぜいミドリガメやアメリカザリガニくらいでしょう」と話す。

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文化財の発見は望み薄

 仮にロケで水を抜いた池の底をあさった場合、「お宝」が見つかった可能性はあるのだろうか。同市埋蔵文化センターの担当者は「古墳に近いところなら、土器は出てくるはず」という。ただし、そうした場所は文化財保護法で調査が制限されており、番組の企画であっても発掘はできない。また古墳から離れたエリアになると、「泥が何層にもわたって堆積しているので、文化財があっても掘り起こすことは無理でしょう」と語る。

 ちなみに、箸中大池でのロケが見送られた正月特番は、内容を一部変更して放送されたが、これまでで最高の平均視聴率13・5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した。

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