「小包の中身」知らなければ無罪なのか 特殊詐欺「受け子」被告の供述 1、2審で判断分かれた訳

衝撃事件の核心

 「小包の中身は知らなかった」-。高齢者が500万円をだまし取られた特殊詐欺事件で、現金の受け取り役「受け子」として逮捕、起訴された男のこんな供述を、どう判断するだろうか。法律の専門家でも判断は簡単ではない。1審の大阪地裁は詐欺の被害金とは認識していなかったとして詐欺罪について無罪を言い渡したが、今年1月の大阪高裁判決は一転して1審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。判断の分かれ目はどこにあったのだろうか。

カネでなく「裏DVDと思っていた」

 事件は平成28年7月、80代の女性が、架空の介護施設建設にかかわる資金拠出を持ちかけられ、計500万円を大阪市西淀川区のマンションの一室に送付、だまし取られたというもの。被告の男(36)は仲間数人と共謀し、マンションで21日午前10時半ごろに200万円、23日午前9時25分ごろに300万円を受け取ったとして、詐欺罪で起訴された。

 公判資料や男の代理人弁護士などによると、事件直前に実の弟から「3万円でこんな仕事がある」と言われたのが、きっかけだった。“仕事”を受諾した男は伝えられていた日時、マンションでの一室で、送られてきた小包を受け取った。受け取る際は偽名でサインしていた。

 公判では、男が小包を受け取ったことに争いはなかった。問題は「中身を知っていたかどうか」だった。

 弁護側によると、男は「(中身を)裏DVDと聴いていた」という。実際に送られてきた小包の品物欄は2回とも「本」となっていた。こうしたことから、現金をだまし取る意図はなかったと無罪を主張した。

「犯罪がらみと認識」でも…

 一方の検察側は、男が小包を受け取った部屋が空室だったことや、受け取る際に偽名を使っていたこと、役割に見合わない高額の報酬(3万円)を約束されていたことなどをあわせ、「小包が犯罪がらみの品物であることは認識できた」と強調した。

 その上で、今回の事件と似たような手口の特殊詐欺が横行し、社会問題化していることはよく知られているとし、「(男は)詐欺の可能性を強く推認できた」と「未必の故意」を主張。詐欺罪が成立すると訴えた。

 昨年3月の1審大阪地裁判決は、検察側が明らかにした犯行状況に照らし、「(男は小包の中身を)犯罪がらみの物品と認識」していたと判断した。

 だが、「空室とは知らなかった」という男の供述の信用性を認め、受け取る際に使った氏名を「男が偽名だと認識していたとも認められない」と判断。「特殊詐欺の被害金を想定した可能性が相当程度ある」としたものの、「小包を受け取る行為のみで特殊詐欺の犯行と結びつけて考えるには無理がある」と述べ、詐欺の故意性は認められないとして無罪を言い渡した。

「有罪とすべき」と差し戻し

 当然、検察側は判決を不服として控訴。続く大阪高裁の控訴審でも、争点となったのは「詐欺の故意性」だった。

 控訴審の中で高裁は昨年12月、職権で被告人質問を実施した。裁判官は、小包を受け取った部屋の状況や小包の中身の認識などを質問。男はいずれも「黙秘します」と答えなかったが、高裁が1審判決をそのまま踏襲するのではなく、独自の判断を下す可能性が見え隠れした。

 そして迎えた1月12日の控訴審判決公判。樋口裕晃裁判長は、無罪とした1審判決を破棄、審理を地裁に差し戻した。1審とは異なり「詐欺の未必の故意が推認できる」とし、事実上有罪を言い渡したような判決だった。

 結論が“180度”異なったのは、どういう理由からだろうか。

 高裁判決は、男が指示役から「何かあってもヨンパチ(48時間)で出てこられる」と言われ、逮捕されても警察から検察へ送致される期限の48時間以内に釈放される-との説明を受けていたことを認定。

 さらに、小包の受取場所となったマンションの一室については、玄関ドアが施錠されておらず、室内に家具や電気がなかったことを指摘。男が偽名を使っていたとし、1審が信用性が認めた「空室とは知らなかった」という男の供述について、「通常の荷物の送り先として相当に不自然な場所だったと(男が)分かっていたと認められる」と否定した。

 その上で、男が想定した犯罪行為の中には当然、詐欺も含まれると判断。「小包の受け取り方法や場所など客観的な事実と男の認識を考察すれば、詐欺の未必の故意が推認できる」と述べ、男を無罪とした1審判決を破棄し、審理を大阪地裁に差し戻した。「有罪とすべき」とまで言及しており、事実上の有罪宣告のようなものだった。

「未必の故意」難しいボーダー

 控訴審で目立った新証拠が出されたわけではなく、1審と同じ証拠でまったく異なる判断を示した大阪高裁。ある検察幹部は「特殊詐欺事件は、どの程度なら“未必の故意”が認定されるのか、ボーダーが難しい」と打ち明ける。

 実際、特殊詐欺の受け子をめぐる別の事件では、昨年2月に東京高裁が「人を欺く行為がない」として、懲役2年4月とした1審判決を破棄し、逆転無罪を宣告したが、検察側の上告を受けた最高裁が、弁論を開くことを決定。弁論は原審を破棄する際には開く必要があり、判決が見直される可能性がある。

 甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「特殊詐欺事件では、犯罪事実の認識が立証上の問題となってくる。(今回の裁判のように)下級審で判断が分かれるケースもあり、最高裁が統一的な判断を示すことが求められる」としている。