住めない・売れない・建て替えられない…「空き家率日本一」大阪市、治安悪化の危機に立ち上がった住民たち

関西の議論

 空き家戸数が政令指定都市ワースト1の大阪市で空き家の活用、再利用を図る動きが広がっている。3年前に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家法)が施行され、国や自治体が解決に向けて躍起になる一方で、地域住民らも街の再生を目指してプロジェクトに参画。市内でも有数の長屋の街といわれる生野区を舞台に、「官民一体」で取り組むまちづくりの現状を追った。(今村義明)

「物置として」放置…犯罪の温床にも

 平成25年の総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家住宅は約820万戸にものぼる。うち大阪市は約28万戸もあり、空き家率も17.2%(全国平均13.5%)。いずれも政令市の中で最悪だ。特に賃貸にも売却にも出せない空き家、いわゆる不動産として流通していない「放置空き家」は約4分の1を占め、大きな問題となっている。

 大阪市の調査では、所有者が「空き家にしておく理由」で最も多い回答が、「物置として必要だから」で、次に「解体費用がもったいない」。以下、「特に困っていない」「将来使うかもしれない」…と続く。

 空き家が多いとなぜ問題なのか。

 市によると、管理されていない空き家の多くが老朽化しており、地震や火災が発生すると周辺に大きな被害を与えかねない。このほかにも、屋根瓦が落ちたり、塀が倒れたりして通行人が巻き込まれるリスクも指摘されている。放火などの犯罪や非行の温床になる怖れもあり、「環境や衛生の観点からも、街全体のイメージタウンや活力低下になっている。その結果、人口減少にもつながりかねない」(市都市計画局建築企画課)という。

戦災逃れた昔ながらの長屋が“足かせ”に…

 大阪市の中で、空き家問題が深刻になっているのが生野区だ。空き家率22.4%は市内24区中ワースト3位だが、放置空き家率は8.7%(市平均4.5%)と極めて高い。

 特に古い長屋住宅の空き家が多いのが特徴で、昭和55年以前に建てられた長屋は区内の住宅全体の12%を超える。大阪市全体でみても、生野区は30.5%を占めており、2位の東住吉区(9.9%)を大きく上回っているのが実状だ。

 その最大の理由は、同区周辺で太平洋戦争中の空襲被害が少なかったことが挙げられる。焼け野原になるのを免れた昔ながらの下町風情の街並みが、皮肉にも空き家が増える原因にもなっている。

 長屋の場合、4軒長屋、6軒長屋といわれるように、複数の権利者が絡む。そのうえ、「相続で代替わりすると連絡も取れなくなり、改築もリフォームもままならなくなる。これが、空き家活用の障壁になっている」(中村優三・地域まちづくり課長)。

 それならば賃貸マンションに建て替えることも考えられるが、市内で最も平均家賃収入が低い同区では、採算性から二の足を踏む所有者もいるという。また、長屋に隣接する道路が狭いため、建て替える際には現在の建築基準法では道路からさらに後退して建てる必要がでてくる。もともと小さな敷地に、さらに小さな家しか建てられなくなるわけだ。解体費用や税制面からも、「このまま放置しておいた方が得だ」と指摘する声もある。

下町風情の街並みを生かした活用法を提案

 権利関係が複雑な長屋を何とか活用しようと、生野区は住民と情報を共有し、まちづくりのきっかけづくりに乗り出した。

 空き家所有者に対しては、母子家庭を対象にした「シングルマザーシェアハウス」や海外からの留学生や実習生を対象にした「インターナショナルハウス」など、入居者支援や地域の特性を生かせる住宅への建て替えを提案。後者のケースでは、海外からの旅行者や短期滞在者のための民泊としても機能できる。

 また、24区で最も製造業の事業者が多いことに着目し、就職に不安を持つ若者を対象に職場体験を提供する「ものづくりチャレンジハウス」も提案している。「ものづくりの街をアピールすると同時に、若者の定住、後継者不足の解消にもつながると思う。下町の長屋だからこその魅力を発信したい」と中村課長は意気込んでいる。

立ち上がった市民、自ら「実験台」に

 2年前からは、地元住民有志による「空き家活用プロジェクト」がスタート。工務店代表や建築家、デザイナーらが参加し、月に1回「空き家カフェ」と名付けた意見交換会が開かれている。

 今年1月に開催された会合では、空き家所有者のほか、福祉、保育、不動産、飲食の関係者ら約40人が集まり、空き家の活用法について議論された。その盛況ぶりに、島根県や鳥取県からも見学者が訪れたほどだ。

 そのメンバーの一人、橋爪大輔さん(32)は長屋の魅力を伝えるため、平成28年秋、自らを「実験台」として生野区内の長屋に移り住むことを決断した。

 「このままでは大好きな街の景色が消滅する。空き家を買うとはどういうことか、リフォームするには何が必要か。議論よりも自分で先例を見せることで、空き家に関心を持ってもらおうと考えました」

 借地権付きの空き家を200万円で購入し、リフォーム費用は親から借りた。メンバーらの協力を得て設計や工事、DIYを行って昨年4月に完成。親子3人で引っ越してきた。

 隣近所は「若い人が来てくれてありがたい」と歓迎の声があがった。表通りはガラス張りで、「ピンポンを鳴らさずに挨拶できる」という自宅は、一部をオープンスペースとして無料で地域に開放。こども食堂やこどもプログラム教室、音楽会などを開催し、リフォームの経緯とあわせてSNSで発信している。

 「発信していて初めて気づいたが、空き家は若い世代の方が圧倒的に関心も持っている。古くて暗いというイメージではなく、若い人にはおしゃれで温かい住まいかもしれない」

 現在、橋爪さんに続く第2号、第3号の空き家移住計画も進んでいるという。