建設ラッシュで沸く京都、その影で遺跡調査員の人手不足が深刻…開始まで4カ月待ちの異常事態 

関西の議論
無数の穴が出土する平安京左京域の調査現場。遺構の解釈や図面化はベテラン調査員でも難しい

 観光客の急増と宿泊施設の不足から、京都市内はかつてない建設ラッシュに沸いている。古都・京都では、平安京跡で建物を新しく建てる際には地中の調査が欠かせないが、発掘調査が始まるまでに、4カ月待ちの異常事態だという。これは発掘に携わる調査員が不足しているためで、さらに長い歴史が刻まれた複雑な遺構を正確に検出できるベテランの高齢化が進む一方、若手が少ないことが順番待ちに拍車をかける。後継者不足に悩む古都の発掘現状をリポートする。(園田和洋)

千年の都、地中は複雑

 平安京は延暦13(794)年の遷都以来1100年にわたり都が置かれた。その間に埋め立てと造成が繰り返された地中は各時代の生活の痕跡が複雑に絡まり、発掘調査は全国屈指の難しさといわれる。

 一つの層に一つの時代の遺構のみが刻まれているかといえばそうではなく、別の時代の遺構が混在することもあるため、解釈が難しい。検出した穴一つとっても、柱穴だけでなく井戸やごみ穴の可能性もある。

 わずか数百平方メートルに数百、数千の穴が現れ、どれがどう結びつくのか見当もつかないことさえあるという。そんな中で調査員は遺構の性格を見極めながら手際よく調査を進め、図面化することが求められる。

 京都市内の発掘調査をコーディネートする同市文化財保護課の馬瀬智光・埋蔵文化財係長は「他府県で発掘経験が豊富な人でも、平安京をいきなり調査するのは難しい」と指摘。調査を民間に発注する際は、平安京での調査経験を持つ調査員が所属する団体を使う“一見さんお断り”を採る。

 とはいえ、調査件数は半端ではない。京都市の遺跡地図に掲載された場所に建物を建てる場合、関係者は市に届ける必要があり、同課によると、28年度の届け出数だけでも1527件に上った。

 このうち同課が遺構確認のために小さな試掘溝を掘って調べ、本格的な調査に移ったのは47件。ホテル建設ラッシュに沸く29年度以降はこれ以上の数字になることが確実だ。現に試掘から発掘調査に移行するまで4カ月待ちの状態だ。

急がれる若手育成

 一方で、調査員の数はここ数年ほとんど増えていない。同課に登録する民間団体・会社は12で、調査員数は合計45人にとどまり、高齢化が進んでいる。

 大極殿を含む平安宮などの重要遺構の調査を長年担当し、現在も約20人の調査員を抱える京都市埋蔵文化財研究所(公益財団法人)も例外ではない。50歳以上が約半数を占め、このうち左京域(平安京の中心を通る朱雀大路=現在の千本通=より東)の調査が可能な経験豊富な調査員はもっと少ない。

 ベテランを含め5人の調査員がいる古代文化調査会(神戸市)の家崎孝治代表は「数百平方メートルを調査するにも平均で2~4カ月かかる。遺物整理や報告書作成に追われ、年間で5カ所こなすのが精いっぱい」と説明する。

 各団体とも60~70代の調査員が少なくないが、常にフル稼働の状態。一方で20~30代の若い調査員は少ない。京都市は体力的な面から、民間に「70歳定年制」を呼びかけているが、馬瀬係長は「強く言い出せず、やはり若い調査員の育成が急がれる」と話す。

 なぜ若手が少ないのか。夏休みなどを利用して調査体験を希望する考古学専攻の大学生を毎年募っている京都府教育委員会文化財保護課の石崎善久副課長は、大学の授業で発掘の体験を積むことが少なくなってきたことや、平成12年に東北地方で起きた旧石器捏造(ねつぞう)事件が、考古学に対し若者を幻滅させたことを要因に挙げる。

 京都以外も事情は同じだ。全国の各市町村は昭和50年後半ごろから発掘調査の必要性に迫られて調査員を採用していったが、その後に補充をしなかった自治体が多いという。「1人で十分」というのが理由だが、約30年経た現在、どの自治体の調査員も退職期にさしかかり、後継者問題に直面しているようだ。

動き出した育成策

 このため、京都市埋蔵文化財研究所は一つの現場でベテランと若手を組ませ、若手に技術を伝えることで、難しい左京域も調査できる技術の継承を図っている。京都市も近年、文化財保護課に若い調査員を積極的に採用。所属する9人のうち30代が3人、20代が4人とフレッシュな年齢構成になりつつある。

 授業の中に発掘調査を入れる大学関係者もいる。かつて京都府向日市の研究機関で長く長岡京跡などの調査を担当し、現場を熟知する龍谷大学の國下多美樹教授もその1人だ。

 國下教授は「現場のニーズは承知している。楽しく現場を学び、興味を持ってもらい、1人でも多くの学生に将来の考古学を担ってもらいたい」と話す。

 奈良市の元興寺文化財研究所(公益財団法人)は、京都市南区の4300平方メートルという広い現場で昨年4月から8カ月間にわたり実施した調査に、約10人の大学生を参加させた。佐藤亜聖・主任研究員は「主に遺構の図面を作成してもらったが、当初はおぼつかなかった技術も、後半にはかなりスキルアップして十分な戦力になり、こちらも助かった」と効果を認める。

 ようやく緒に就いたばかりの若手育成策。現場それぞれの工夫で明るい兆しが見えてきたが、現状を変えるほどの効果が現れているわけではない。まだまだ道のりは長そうだ。