“雪の妖精”を追いかけ北海道へ…写真家になった元京都府警警察官

銀幕裏の声
木の枝の上で翼を休めるシマエナガ(山本光一さん撮影)

 北海道やサハリンにしか生息しない、日本で2番目に小さい野鳥「シマエナガ」の写真を撮り続けている“異色カメラマン”がいる。元京都府警の警察官、山本光一さん(52)。主な撮影地は、綾瀬はるか主演のNHKの大河ファンタジー「精霊の守り人」や渡辺謙主演の映画「許されざる者」のロケ地としても知られる北海道の阿寒摩周国立公園。シマエナガの1年を追いかけ、シャッターでとらえた初の写真集「シマエナガさんの12カ月」(河出書房新社)が刊行された。「雪だるまのように白く、モフモフとしたかわいい姿から“雪の妖精”と呼ばれ、そのつぶらな瞳に見つめられると心が癒やされるんです」。シマエナガに魅せられ、酷寒の地に住み着いた山本さんは熱く語った。   (戸津井康之)

雪の妖精

 木の上に止まって、ちょこんと首をかしげるシマエナガ。雪と同化したかのようにじっと動かないシマエナガはふっくらと丸いまんじゅうのよう…。

 山本さんが北海道の大自然の中で、とらえたシマエナガの愛らしい姿は純真無垢(むく)な赤ちゃんのようであり、まさに雪の妖精だ。

 エナガは世界に広く分布するが、頭部が真っ白い毛で覆われているのは、日本では北海道に生息する亜種シマエナガのみという。

 「シナエナガの“シマ”の意味は“縞(しま)”ではなく“島”。つまり北海道を示しているんですよ」と山本さんは説明する。

 全長は約14センチ。体重は10グラムにも満たないほど軽い。

 「日本で最も小さい鳥は全長約10センチのキクイタダキといわれていますが、実はシマエナガは尾っぽが長く全長の半分ほどあるので、胴体だけなら日本で一番小さいんですよ」

 身長約180センチ、体重約130キロ。重量級の柔道選手としてならした元機動隊員の山本さんが、シマエナガの原寸大の小さなフィギュアを手にとりながら、こうムキになって説明する姿はなんともユニークで微笑(ほほえ)ましい。

警察官からの転身

 山本さんは昭和40年、京都府長岡京市生まれ。京都で育ち、龍谷大学卒業後、京都府警に就職した。

 柔道は5段。その腕前を生かそうと京都府警に入った山本さんは屈強な機動隊員として期待されていたが、30歳になった頃、転機を迎える。

 勤務中の同僚が暴力団抗争に巻き込まれ、射殺される事件が起こったのだ。

 「もしかしたら、射殺されていたのは自分だったかもしれない…」。山本さんはこの事件をきっかけに命、そして人生について改めて真剣に見つめ直すようになったという。

 「人生は一度きり。私は幼い頃から柔道ばかりやってきて、その力を生かそうと警官になったが、他に何もしてこなかった。果たしてそれでいいのだろうか? そう悩み始めたんです」

 そして、一人旅で訪れた阿寒湖で触れた北海道の壮大な自然が、山本さんの人生を一転させる。

京都から北海道へ

 平成9年、山本さんは住み慣れた京都を離れ、北海道への移住を決意する。32歳での一大決心だった。

 長年にわたり阿寒摩周国立公園を守ってきた阿寒湖畔にある財団法人「前田一歩園財団」の活動に共感した山本さんは同財団に就職することを決意したのだ。

 前田一歩園での山本さんの現在の肩書は自然普及課長。仕事の内容は、自然保護のためのパトロール活動や同園を訪れる子供たちの指導員。また、同園が映画やドラマのロケ地として撮影されるときには、撮影スタッフのガイドも務めている。そんな活動の一環として、山本さんは20年以上にわたり、写真を撮り続けてきた。

 「約4000ヘクタールもある広大な前田一歩園は、パトロールで1周するのにも最低で1~2カ月はかかる広さ。ほとんど道がない森林ですから。車で入れない奥深いところは、ひたすら歩くのです」と山本さんは苦笑しながら説明する。

機動隊員から“ネイチャーカメラマン”へ

 同園で働き始めた頃、山本さんは、「一日も早くこの広大な園について知るにはどうすればいいか?」と考えた。

 その結果、パトロール中に見つけた野鳥や野生動物を写真で撮ることで、動物たちの生態と同時に自然環境について学ぶことを思いついたのだという。

 さっそく、学生時代から好きで、よく使っていた一眼レフカメラを持ってパトロールへ出かけ、そこで野鳥や野生動物たちと出合うたびにシャッターを切っていった。

 「幼い頃から自宅で小鳥を飼い、動物も大好きだったので、パトロール中に遭遇する野鳥や野生動物たちを夢中で撮っていました。写真を撮りながらパトロールしたおかげで自然環境や野生動物たちの生態を楽しみながら学ぶことができたんです」

 その中で山本さんが特に惹(ひ)かれたのがシマエナガだった。

 「警戒心の強い動物たちと違って、人懐っこく、近づいても逃げないのですが、とにかく体が小さく、すばしっこいので、実は写真に収めるのが最も難しい野鳥といわれているのが、シマエナガなんですよ」と山本さんは言う。

 「例えばタンチョウはとても珍しい野鳥ですが、体が大きくてじっとしている時間が長いので、写真撮影に関しては、そんなに難しくはないのです」

情に厚くて我慢強い

 山本さんが、シマエナガの魅力について語り始めると止まらない。

 「シマエナガは可愛いだけでなく、社会性があり、とても我慢強い野鳥でもあるんですよ」

 厳しい自然界で、小さな野鳥が生き残るのは容易なことではない。天敵は多く、営巣の際、カラスやイタチ、ヘビなどに巣を壊されるのは日常茶飯だ。

 「ところが、シマエナガは営巣の途中、巣を壊されても同じ場所に作り直すんです。何度、壊されてもあきらめません。こんなに小さいのに…」

 さらに、ヒナを育てている途中、シマエナガの親鳥がカラスなど天敵に追われて巣を離れたとしても、他のシマエナガが親代わり(ヘルパー)となって巣にエサを運び、自分のヒナのように育てるのだという。

 「多くの野鳥は巣を壊されたら、その巣を放棄しますし、親鳥がいなくなったヒナを、他の親鳥が自分の子供のように育てることはとても珍しいんです。シマエナガはとても情に厚く社会的。本当に個性的な野鳥なんです」

 マイナス30度にもなる酷寒の地で、いまも山本さんはシマエナガの姿を追い、シャッターを切っている。