「結婚夢見た」男性は「独身外科医」ではなかった…訴訟合戦の行方は

関西の議論

 インターネットを通じて知り合った独身の外科医は、妻子のある歯科医だった-。男性にだまされたとして、近畿地方の女性が慰謝料など825万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁であった。「お墓の中まで一緒に」とささやいてくれた男性は、「借金があるため結婚話を進められない」などと言っていたという。不信が募って提訴した女性に対し、男性は、ネット掲示板に名誉毀損(きそん)に当たる内容を書き込まれたとして女性に500万円の損害賠償を求めて反訴した。鋭く対立した男女の訴訟の行方は-。

「お墓の中まで一緒」

 訴訟記録や判決文から経緯をたどる。

 平成20(2008)年8月ごろ。大阪市内に住む30代前半の女性は、インターネットの交流サイトに登録した。当時離婚してから日が浅く、少しでも出会いがあれば、との思いからだった。

 そこで知り合ったのが外科医だという男性。男性は「独身で40歳の外科医。離婚歴はあるが、子供はいない」と説明し、2人は交際を始めたが、この説明が嘘だった。

 女性によれば、男性は「お墓の中まで一緒」など結婚を匂わすようなことを言っていた一方、同時に嘘の「借金話」を持ち出して、こう“牽制(けんせい)”もしていたとされる。

 「事業をしていた叔父が3億円の借金を残して失踪した。父親が連帯保証しており、自分たち兄弟が父親に代わって返済中。だから結婚の話を進めることはできない」

 女性は男性に手料理をふるまうなどのつき合いをしていたが、40歳を迎えるころになり、次第に将来への不安を募らせていった。

女性は“寿退社”

 「結婚を考えないのなら、年齢のこともあり、別れることも検討する」

 平成25年11月ごろ、女性はこう告げたが、進展はなかった。26年4月ごろ、外国人の男性と知り合って仲良くなり、同年7月に男性に別れを切り出すと、態度が変わったという。

 「『借金をつくった叔父』は実は暴力団関係者。失踪したのではなく、刑務所に服役中。正直に説明すれば女性の気持ちが離れると思った」

 これも嘘だったが、女性は信じた。「今年中には一緒になれるように頑張る」「一生かけて大事にする」などと熱心に言われ、2人の仲はまた近づいた。

 27年1月ごろ、結婚に向けた具体的な話し合いをするようになった。男性は将来は島で医師として働きたいと話し、女性に専業主婦になるよう求めた。同年5月下旬、女性は勤務先を辞め、「結婚する」と同僚や知人にも報告。祝儀も受け取った。女性は両親へのあいさつや結婚パーティーの日取りについて決めるよう、男性をせかした。

 だが…。

自宅に行ったこともなく

 27年6月下旬。男性はこんなことを言い出した。

 「実は叔父の借金の返済のため、資産家の未亡人と入籍したので、結婚はできない」

 女性はいくらなんでも変だと感じた。考えてみれば、男性の自宅に行ったこともなく、勤務先の病院も詳しく知らない。連絡はいつも携帯電話だった。だまされているのではないか-。

 同7月。「最後に会いたい」。真相を突き止めるため、こう告げて女性は男性と神戸市で会った。そして、問いただした。

 「あなた本当は誰なの」

 「結婚詐欺ではないのか」

 これに対し男性は「詐欺って、僕はお金を取っていないだろう」と開き直り、口論となった。

 その後、女性は2人で話し合おうとしたが、男性が弁護士を立てたため叶わなかった。

 さらに同7月下旬、女性の自宅マンションの入り口前に男性の車が止まっていたことがあった。恐怖を感じた女性が110番すると、男性は駆けつけた警察官に「知人に電話するため駐車していただけ」と説明した。

 怒った女性は同年9月、結婚の意志がある独身のふりをして交際した上、交際終了後もつきまとい行為を行ったとして慰謝料などの支払いを求めた訴訟を起こした。

「結婚前提ではない」

 訴訟で女性は「妻帯者と分かっていれば、交際を決意するはずもなかった。結婚、その後の出産を希望する女性にとって、かけがえのない7年間を奪われた」と主張。「(男性は)全てのプロフィルが虚偽で別人を演じきった。周囲に結婚を祝福されていたが、一転してだまされたことを説明する事態に陥り、強い精神的苦痛を受けた」と訴えた。

 これに男性は真っ向から反論。「結婚しようと述べたことは一度もないし、女性が結婚を求めたこともない。交際は結婚を前提とするものではなかった」と主張した。

 さらに男性は、女性が男性や家族を誹謗中傷するような投稿をインターネットの掲示板にしたとして、500万円の損害賠償を求める訴えも起こした。

賠償責任は約1年分

 迎えた判決で、大阪地裁は男性に110万円の支払いを命じた。

 判決では、男性について、実際は妻子がいる歯科医なのに、独身の外科医と嘘をついていたと指摘。「男性の言動がすべて偽りだったと突きつけられた女性の精神的苦痛は重大」と責任の大きさを認め、その上で、責任の範囲や度合いなどを検討した。その結果、男性が女性に求婚するようになったのは、外国人男性の存在を聞かされた26年7月ころと指摘。賠償責任が生じる期間は「結婚が具体化し、男性の求婚によって交際が継続した期間」として、実質1年足らずと判断した。

 それまでの交際期間については、「女性も男性の煮え切らない態度から、結婚は叶わないと別離も考えていた」と指摘。「男性は独身と偽ってはいたが、交際当初から女性と結婚を前提としていたとまでは認められない」と述べた。

 一方、女性のネットへの書き込みは「(男性の)社会的評価を低下させるものと言わざるを得ない」と認定。女性に対して30万円の慰謝料の支払いを命じた。

 2人ともこの地裁判決を不服として控訴。大阪高裁では男性が女性のマンション前に車を止めていたことも「私生活の平穏を侵害する違法な行為」と認め、1審判決から80万円を増額し、190万円の支払いを男性に命じた。一方、男性の控訴は棄却。判決は確定した。