失敗したら死…延暦寺の荒行「千日回峰行」、一日体験で“悟った”こと

関西の議論
比叡山の山中で急な坂道を登る一日回峰行の参加者ら=平成29年11月、大津市

 約千日間、比叡山の山中などを祈りながら歩き続ける荒行として知られる比叡山延暦寺(大津市)の「千日回峰行」。走破する距離は地球1周分の約4万キロに上り、9日間断食・断水・不眠・不臥(が)で不動真言10万回を唱える「堂入り」など、その過酷さで知られる。記録が残る元亀2(1571)年の比叡山焼き打ち以降、50人以上が達成。ひとたび行に入ったら投げ出すことは許されず、かつては失敗したら自死が求められたとされる。平成29年9月に、延暦寺一山善住院(大津市)住職、釜堀浩元さん(43)が満行したことは記憶に新しい。一体どんな修行なのか。一日体験できる「一日回峰行」が行われていると知り、参加した。(北野裕子)

参加に身震い

 昨年11月の夕方。比叡山の研修道場「居士林(こじりん)」へ向かった。山中は既に冷え込みが厳しい。寒さとここ数年の運動不足という不安を抱えての参加とあって身震いした。

 平成29年は今回も含めて、一日回峰行は計7回実施された。最終回の今回は96人が参加。案内してくれた僧侶は「こんなに多いのは珍しい」と話す。釜堀さんの満行という話題もあり、関心が高まっているという。

 参加者はOL、サラリーマンから他の寺院の僧侶までさまざま。一日回峰行ではさすがに「堂入り」はないが、夜間の比叡山中で行者と同じコースを約20キロ歩く体験をする。この日は参加者が多いため、男女2グループに分かれて歩くことになった。

 精進料理の夕食をとり、仮眠を数時間取った後の午前2時半、いよいよ山道へ。外に一歩出るとそこはまさに漆黒の暗闇。出発前まで雨が降っていたこともあり、より一層寒さが身に染みる。先に出発した男性グループに続き、記者ら女性グループは比叡山延暦寺教化部の小鴨覚俊部長(49)に続いて歩き出した。

漆黒の恐怖

 「自分を振り返りながら、他人を思いながら、歩きなさい」。小鴨さんに言葉をかけられ、懐中電灯だけを頼りに歩く。最初は比叡山ふもとの坂本地区を目指す下りのコースだ。

 修行中の私語は厳禁。どこまで行っても闇、闇、闇。比叡山中がこれほど暗いとは知らなかった。何かが潜んでいそうな恐怖にとらわれ、周りを見ることもできない。

 ようやく人が歩ける程度の広さの道には、無造作に転がる石やぬかるみが待ち受ける。何度も足を取られ、尻もちをついた。時には脇に崖のような場所もあり、転ばないように歩くことだけに必死になった。

 ただ、これは初心者が陥りやすい注意点だという。あくまで修行。お経が書かれた手のひらサイズの冊子を常にポケットに入れ、途中で何度かお経を唱えなければならない。

 また、一見何もないようにみえる場所で手を合わせて拝む場面が何度もあった。すべての場所に感謝する意味があるのだという。

頭をよぎるリタイア

 山道を下り続け、約3時間後の午前5時半ごろ、坂本の日吉大社へ。般若心経を唱えた。空もうっすらと明るみ始め、暗闇の山道を抜け出したためか、心なしか気が軽い。そのまま比叡山坂本の律院に到着すると、千日回峰行の満行者で、釜堀さんの師匠でもある叡南俊照・大阿闍梨(だいあじゃり)が迎えてくれた。

 「千日というと縁のない数字のようだが、一日を積み重ねて千日となる。皆さんが歩いた道は普通の人が歩いた道ではない」とのお言葉をいただく。

 残りの行程は登り坂。「登り道ほどかつて修行した先達(せんだつ)のお力を、足の裏からいただけるはずだ」と励ましをもらった。

 朝食のおにぎりと温かいお茶で体を回復。朝日を背にいよいよ登り道に入るも、本当の苦しみはここからだった。

 あたりはすっかり明るくなり、気温も上がってきたが、登り道は想像以上に厳しかった。急な斜面に引き続きの悪路。情けないことに出発して30分後には先頭集団から引き離され、何度も肩で息をして動けない状態に。リタイアが何度も頭をよぎった。

 自分の足下を見つめ、必死で一歩一歩足を前に進めることしか考えられず、祈る余裕はなくなる。

 1時間半ほど登り続けて着いたのが無動寺明王堂。千日回峰行の中で最も厳しい「堂入り」をする場所だ。お経を唱える。眼下に広がる琵琶湖と大津市の街並みに一息つく。修行も終盤だ。

 山道は抜けたものの、そこからも坂道は続く。午前9時ごろ、スタート地点の居士林にたどりついた。ここで解散。約7時間に及ぶ行程が終了した。

 群馬県から参加した50代の姉妹は「千日回峰行はテレビで見ていて、一度体験したいと思った。実際の回峰行では行者の方は山道を走ってたが、私たちは歩くので精いっぱい。登り道は特に厳しい。延暦寺の厳しい修行を垣間見た」と話した。

千日も一日から

 体験したのはほんの一晩だが、終盤は意識がもうろうとしてきた。回峰行に挑む行者はこの道を毎日歩き続けるのかと思うと、「どんな精神力なのか」とおそれを抱く。

 行者は素足にワラジ、蓮華笠(れんげがさ)を手に歩く。行が始まる3月はまだ雪が残っていることも多いが、素足。山道を一晩歩くと、足は血だらけになることもあるという。道中260カ所で拝むといわれている。

 蓮華笠は行を始めて400日目から許可される。600日目を過ぎると、足袋も履ける。

 今回の体験はたった数時間だったが、さまざまな感情が駆けめぐった。漆黒の闇を歩く恐怖、果てしなく続くように思えた登り道-。「祈るために歩く」。そのためにはあらゆる雑念を捨てなければ集中できない。

 「暗闇は怖くないのですか」。延暦寺の僧侶にそう問いかけると、「慣れるとそういった感情も整理できるようになるんです」と答えてくれたのを思い出す。

 千日も一日から。ひたすら続く道を一歩一歩進めば、いつかは終わる。それだけは感じることができた。

 今年の一日回峰行は、春以降に実施の予定。問い合わせは延暦寺((電)077・578・0001)。