「あいつらの会社は何でつぶれない」自虐&本音満載フリーペーパーが人気…大津北商工会の逆張り戦略

関西の議論
個性的なフリーペーパーを製作した大津北商工会議所の青年部のメンバーら=大津市

 大津市内の若手事業主や商店主らがつくったフリーペーパーが、ひそかな人気を呼んでいる。商品でなく、経営者の人となりをユーモラスに、ときには自虐的に紹介した一風変わった編集が受けているのだ。例えば、「劇的ビフォーアフター ヘビメタ出身リフォーム職人」(工務店)、「三兄弟で一番ブサイク(な自分が美容師に)」(美容院)-といった具合。創刊2年目の平成28年にはフリーペーパー大賞2016(日本地域情報振興協会主催)の「新創刊部門」優秀賞を受賞。取り組みは、高齢化や顧客離れなど苦境にあえぐ地域商店街のユニークな振興策として注目されている。(杉森尚貴)

あえてフリーペーパー

 企画、製作したのは、大津市北部の商工業者でつくる大津北商工会の青年部。量販店やインターネット通販の拡大により地域商業の地盤沈下が進んだことで、活性化策を模索。その中で思いついたのが、商店を幅広く店を紹介できるフリーペーパーの製作だった。山口雅史部長(39)は「僕らが商売できるのは地元のお客さんのおかげ。距離をもっと縮めようと思った」という。

 一般的に美容院の紹介など女性向けを対象としたものが多いフリーペーパーだが、同世代の30~40代の男性に狙いを設定。単なる店の広告でなく、読者が店に赴き、事業者を“いじって”会話のきっかけになる情報を盛り込むことにした。

 「一番の狙いは店に足を運んでもらい、店主と直に触れ合ってもらうこと。ネットでの発信が一般的な現代だが、情報を一方通行にしたくなかった」と山口さんは話す。

あえてコピーにこだわり

 有志が集まり、フリーペーパーづくりが始まった。だが、誰も経験がなくノウハウはない。「普通につくっても面白くない。とにかく目を引くものをつくろう」。そこで商品や店の宣伝はあと回しにし、キャッチコピーにこだわることにした。

 「指たて百回は余裕、鋼の整体術師」。これはマッサージに必要な「指の強さ」をPRした整体院のコピー。業務とは無関係の事業主のPRも考えた。ある保険代理店は、辛い食べ物が大好物で食べた翌日はお尻の穴が痛むとの自己紹介とともに「バックファイヤー」とのキャッチフレーズを。「いかつい顔して恋のキューピッド」というのは掛け軸の修復店だ。

 商工会の内部からは「ふざけすぎ」「やめた方がええんちゃう」と非難もあったが、それでも押し通し、企画から約2年後の平成27年に「ちょっとペッパー創刊号」という名で発刊。地域のコンビニや銀行に置いてもらうと、すぐに反響があった。

 「見たで。めっちゃおもろいやん」「店長そんな一面があったんや」-。常連客とも会話が弾むようになった。「次のやつ(フリーペーパー)はいつ持ってきてくれるん?」という店主もおり、話題作りは成功。店からは「顧客との繋がりの重要性を再認識した」との声が聞かれた。

 これが、「新規顧客の獲得を目的とはせず、既存の顧客と仲良くなることを目的としている」と評価され、フリーペーパー大賞での受賞につながった。

あえて逆張り戦略

 28年発刊の第2号では、27事業者が参加し「地元活性化総選挙」と題した企画を実施。「電気の原理を使ったマジックショーをやります」(電気工事店)、「店頭をフリードリンクのあるカフェにします」(水道・ガス工事店)など各事業者が公約を掲げ、興味をもった公約に投票してもらった。

 投票総数は約1300票にのぼり、1位になった整体院は公約通り、店の意見や感想を述べる無料モニターの数を増やす取り組みを実行した。

 29年2月発刊の第3号は「あいつらの会社はなんでつぶれないんだろう」と一転、経営について取り上げた“まじめな路線”に変更。「ほんとうに大事なものは、ネットなんかでは売っていない」「地域の方のお叱りこそが、経営方針」と事業主らが経営理念を語り、顧客への向き合い方を真剣に訴える内容となっている。

 型破りなフリーペーパーは地域を超えて話題を呼び、他県の商工団体などからも問い合わせが入るようになった。

 また、経営者らの意識も変わり始めた。外部講師を招いた商工会の経営セミナーへの参加者は従来数人程度だったが、30人前後に増加。受け身だった経営者らはサービス向上に意欲的になったという。

 地域活性化に火を付けた青年部は、新たなステージを目指している。「おふざけもまじめな内容もやり尽くした」とフリーペーパーは30年で休止し、代わってが電柱広告の製作を手がける。「地域を歩けば嫌でも目に入る」点に着目し、フリーペーパー同様に型破りなキャッチコピーの広告をつくっていくという。

 グローバル化の進展、インターネットの普及で、どこに住んでいても一定のサービスを受けられる現代にあって、あえてアナログな手法を取る逆張り戦略。「目先の利益ではなく、商売を通して地元を盛り上げたい。商品以外にも地元が話題になって、まち全体が盛り上がれば」と山口さんは話している。