長距離バスが高速道路逆走、勤続20年超のベテラン運転手がなぜ?

衝撃事件の核心
逆走した高速バスの運転手が勤務する全但バスの本社=兵庫県養父市八鹿町

 舞鶴若狭自動車道を走行中の高速バスが昨年12月、降りる予定のインターチェンジ(IC)を通過し、ミスに気づいた男性運転手がバスを約560メートル逆走させてICに入り直していたことが判明した。男性運転手は勤続24年のベテランだったが乗務を外れ、道交法違反の疑いで兵庫県警の捜査を受ける事態となった。危険と知りながら、なぜ男性運転手は逆走したのか。捜査関係者は「『時間厳守』という日本人気質が判断を誤らせた可能性がある」と分析する。一般的には“下車勤務”などのペナルティーを恐れてミスを隠そうとするケースもあるが、専門家は「一歩間違えれば大事故につながる。交通産業全体に意識の変革が必要だ」と指摘している。

匿名電話で発覚

 「運転手さん。ICを通り過ぎてるんじゃないんですか」

 平成29年11月3日午後8時40分ごろ、大阪・梅田のバスターミナルを出発し、兵庫県豊岡市内に向けて、夜の舞鶴若狭自動車道を走行していた高速バスの車内。乗客の一人が降りる予定の春日IC(兵庫県丹波市)を通過したことに気付き、運転手に伝えた。

 男性運転手はバスをゆっくりと路肩に寄せた上でいったん停車。ハザードランプをつけて約560メートルをバックで逆走し、春日ICに入り直したのだ。

 バスは数分の遅れで目的地の豊岡市街地に到着。大きな混乱はなかったが、男性運転手は逆走の事実を勤務先の全但バス(兵庫県養父市)に報告しないまま、次の日以降も乗務を続けた。

 ところが、約1カ月後に同社に匿名の電話があり、逆走が発覚。同社が事実確認したところ運転手は逆走を認めた。

 後日、兵庫県警高速隊が道路交通法違反の疑いで捜査し、男性運転手に交通反則切符を交付。また、近畿運輸局も監査を実施し、男性運転手の健康状態や社内教育に問題点がなかったかどうかを調査している。

ベテランに何が

 「お客さまからの指摘でミスに気づきパニックになった」

 逆走の理由について、男性運転手は同社側の調査にこう説明したとされる。

 春日ICを通り過ぎたバスがそのまま高速道路を走行すると、次の福知山IC(京都府福知山市)で降りることになるが、両IC間の距離は約20キロ。豊岡市街地の到着が大幅に遅れることは必至だった。

 同社担当者は「乗客の方に対しては停留所に着いた際にミスを謝罪し、安全第一に運行するのが正しい対応だった」と話す。

 男性運転手は勤続24年のベテラン。これまでに大きな事故や違反行為もなく、同社は「運転技術がしっかりしており信頼していた」と評する。後輩運転手の模範ともいえる存在だった男性運転手が、なぜ基本中の基本とも言えるルールに違反してしまったのか。

 捜査関係者は「何よりも“時間厳守”を優先させるという日本人らしいきまじめさが、逆に運転手の判断を誤らせたのではないか」と指摘する。

 また、交通産業の安全運行システムや事故調査の仕組みなどに詳しい関西大の安部誠治教授は「会社から受ける罰則を恐れ、ミスを隠蔽したいと考えたのではないか」と推測する。

ペナルティーの恐怖

 平成17年4月に発生し、乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故では、ダイヤの遅れを取り戻そうとした運転士が速度を超過した状態で電車を走行。カーブを曲がりきれず脱線し大惨事へとつながった。運転士は事故直前に停車した駅で、規定位置を通り過ぎるオーバーランをしてしまい、ミスを軽減して報告するよう車掌に求めていた。

 運転士がオーバーランをした場合、JR西日本では、運転業務を外れて「日勤教育」と呼ばれる懲罰的な研修を命じられる恐れがあった。このため、運転士はミスを取り戻そうとしてスピードを出しすぎたと指摘されている。

 男性運転手が勤務する全但バスでも、同社の運転手が事故や違反などのミスを起こした場合、ペナルティーが科せられることになっている。一時的に下車勤務を命じられたり、高速バス路線から一般道の路線に乗務変更となる可能性があった。あるバス会社の元運転手は「ミスで勤務形態の変更を命じられた運転手は、同僚の間で肩身の狭い思いをすることが多い」と心理的な影響を説明する。

 近畿運輸局は今後、「同社の従業員教育や運行管理の体制に問題がなかったかどうかを確認した上で指導を実施する」としている。

“逆走事案”全国でも

 通行する予定のICやジャンクション(JCT)を通り過ぎた高速バスの運転手が、高速道路を逆走しICやJCTに入り直す“逆走事案”は全国で報告されている。

 新幹線や高速バスといった公共交通機関の事故原因などの調査を行う「交通事故総合分析センター」によると、昨年10月、宮崎県の九州自動車道でICを通り過ぎた高速バスが高速道路上を約70メートル逆走。28年1月17日には愛知県の東名高速道路で、小牧JCTを通り過ぎた高速バスが26メートル逆走した。いずれも40~50代のベテラン運転手で、同様の逆走事案は判明分だけで毎年数件あるという。

 昨年12月には、新幹線のぞみで、JR西の乗務員らが異常に気づきながら3時間運行を続けた結果、台車に亀裂が見つかった問題が発生。JR幹部は会見で、運行を止めなかった背景として、早い新幹線を止める難しさがあることにも言及した。

 安部教授はミスを犯した運転手への会社側の対応について、「過渡なペナルティーを科して運転手を追い詰めると、逆にミスや違反の隠蔽を招く事態になりかねない」と懸念する。ミスや違反などは、どんな運転手にも起こりうると考えるべきだとした上で「ミスや違反の原因を社内で明らかにできる環境づくりが安全運行にとって最も重要だ」と話している。