音楽映画の生命線“女優兼ボーカル”の系譜! 映画「覆面系ノイズ」で光る中条あやみの歌唱力

銀幕裏の声
苦手な歌を克服した中条あやみの笑顔は自信に満ちていた(安元雄太撮影)

 主題曲など映画にとって音楽は欠くことのできない重要なパート。描くテーマが音楽ならなおさらだ。公開中の映画「覆面系ノイズ」のヒロインは高校生にしてプロのバンドのボーカル。女優、中条あやみがヒロインを吹き替えなしで演じ、主題歌や挿入歌を歌っている。“ヒロインがボーカル”という音楽映画の生命線は女優の歌唱力に尽きるといっていいかもしれない。これまで「NANA」(平成17年)では歌手で女優の中島美嘉が、「リンダリンダリンダ」(同)では韓国の人気女優、ペ・ドゥナがボーカルを演じたが、いずれも吹き替えなしで歌い、映画を大ヒットに導いた。この“女優兼ボーカル”の系譜を受け継ぐべくCDデビューも果たした中条に音楽映画の撮影現場ならではの“ステージ裏の声”を聞いた。(戸津井康之)

オリジナル曲で勝負

 「覆面系ノイズ」の原作は現在も漫画誌で連載中の、漫画家、福山リョウコの同名のベストセラーコミックス。

 眼帯や包帯で素顔を隠し、プロとして活躍する高校生バンド「in NO hurry to to shout;(通称イノハリ)」の女性ボーカル、ニノ(中条)、ギターのユズ(志尊淳)たちバンドメンバーの青春が描かれる。

 「一度聴いたら忘れられない歌声」を持つニノを演じるために、中条は約半年間、ボイストレーニングを受け、歌唱力を磨き上げたという。

 映画のクライマックスのライブシーンは、東京のライブハウス「豊洲PIT」を貸し切って撮影が行われた。

 劇中で流れるのは、海外でも活躍する日本のロックバンド「MAN WITH A MISSION」がこの映画のために作った主題曲「Close to me」だ。

圧巻のライブシーン

 黒いゴシック調の衣装を身にまとい、眼帯を付けて素顔を隠し、イノハリのボーカル、ニノとなった中条が、満員のライブ会場のステージに登場。長い黒髪を颯(さっ)爽(そう)となびかせ、突き抜けるようなハイトーンの透き通った声でドラマチックにバラードを歌い上げる姿は圧巻だ。

 だが、中条は、ステージ上でのこんな撮影秘話を教えてくれた。

 「ライブシーンの撮影では、実はこの曲を歌う前に、もう一曲歌っているんですよ」と。

 練習シーンで、中条が歌うアップテンポの曲「カナリヤ」だ。

 中条は「感情を最高の状態に高め、ベストの状態で『Close to me』を歌いたい」と、三木康一郎監督に直談判し、撮影の予定にはなかった「カナリヤ」を歌いたいと自ら申し出たのだと言う。残念ながら映画では見ることができないが、ライブ会場に集まった約1000人のエキストラの前では、「カナリヤ」と「Close to me」の2曲が披露されていたのだ。

 「エキストラの人たちも、みんな演奏を真剣に聴いてくれ、ライブシーンを盛り上げてもらい、とてもうれしかったです」

 映画のクライマックスを飾る「Close to me」の中条の歌声が切なく胸に迫るのは、こんな目に見えない撮影現場での地道な努力の結果だと理解できる。ただ、撮影シーンの部分のみの歌詞を歌っているのではなく、イノハリのボーカル、ニノとしての覚悟で、ライブ会場のステージの上に立ち、歌っているのだから…。

女優兼ボーカルの系譜

 映画「NANA」の劇中、中島がロックバンド「BLACK STONES」のボーカル、ナナとして「GLAMOROUS SKY」を、「リンダリンダリンダ」でペ・ドゥナが韓国から来た留学生として、高校の文化祭で「THE BLUE HEARTS」の名曲「リンダリンダ」を歌う場面は、いずれも邦画史に残る印象的な音楽シーンだ。

 「リンダ-」の山下敦弘監督を取材したとき、この文化祭のライブシーンについてこう語っていた。

 「音楽がテーマの映画。ラストのライブシーンですべてが決まる、という覚悟で撮影に臨みました。ぺ・ドゥナは堂々と歌い上げ、地元の高校生たちがエキストラとして集まった体育館が、本物のステージのように盛り上がった。あのシーンは、本当に彼女の歌に聞き入っている観客たちの姿を撮っています」

 さらに山下監督はこんな事実も打ち明けた。

 「撮影のために来日した彼女に歌ってもらったんですが、実は彼女は音痴だったんです。これは困った。どうしよう、と迷っていたら、滞在中に彼女は日本語の歌を猛練習し、歌唱力を上げていきました。彼女には『吹き替えではなく自分で歌いたい』という強い意志があり、撮影期間中も一人で練習を続けていたんです」

 どんな難役でも演じてしまう実力派女優たちは、短期間でも自らに猛特訓を課し、名歌手になれる…。その女優魂に驚くばかりだ。

歌で“魅せる”新境地

 実は取材で中条も、こんな衝撃の事実を教えてくれた。

 「私は幼い頃からずっと歌うことが嫌いで苦手だったんですよ。ボーカルのニノの役を依頼されて、どうしようと、とても不安で…」

 中条は大阪市出身。14歳のときにモデルとしてスカウトされたことからも分かるようにスタイル抜群。“きっと歌もうまいに違いない”と想像する人は少なくないはずだが、その意外な答えに驚いた。長身でスタイル抜群。モデルとしてデビュー後、女優となり、ハリウッド映画など世界で活躍しているペ・ドゥナと似ている。

 彼女たちは華やかな舞台の裏で、人知れず猛特訓した結果、“女優兼ボーカル”としての新たな道を切り開いているのだ。

 中条は歌うことへの苦手意識を見事に克服し、イノハリのニノとしてCDデビューも果たしている。

 「今は歌うことが大好き。この映画に出るまではあんなに嫌いだったカラオケにも積極的に行っていますよ」

 “女優兼ボーカル”中条の自信に満ちた笑顔がはじけた。