東京化する大阪弁「してまう」から「しちゃう」へ…府民3分の2使用「関西的思考」消滅、“ネオ関西弁”も拡散

関西の議論

 大阪弁が東京弁に近づきつつある。かつて違和感があった「しちゃう」「やっちゃう」などという東京の言葉が、若者の間でごく普通に使われるようになった。大阪の繁華街で、10~40代の大阪府民50人に聞いたところ、ほぼ3分の2の32人がこの「~ちゃう」を「使う」と答えた。大阪弁では本来「してまう」「やってまう」と表現するが、東京由来の言葉が定着していることが浮き彫りになった。関西の若者の間では、東京弁の影響を受けて変化した「ネオ関西弁」も広がっている。専門家は「今後、東京弁に言い換えられない『けったいな』や『なんぎや』など独自の関西弁は使われなくなり、関西的な思考様式も消えていく」と予測する。(張英壽)

ソフトで女の子が使う「若々しい」も

 大阪の街中で近年、若者らが話す「やっちゃう」「しちゃう」という言葉が耳に入るようになった。

 実際に人々がこの言葉を使っているのかどうか-。大阪・梅田と難波で、大阪府内在住の若者らを対象に街頭調査を試みた。

 梅田、難波でそれぞれ25人ずつ計50人にアンケート。年齢層別では10代2人(18、19歳)、20代33人、30代9人、40代6人。性別では男性24人、女性26人に聞いた。質問では、「違う」を意味する関西弁「ちゃう」と区別するために、「『しちゃう』『やっちゃう』『買っちゃう』を使うか」などと尋ねた。

 「使う」と回答したのは全体のほぼ3分の2にあたる32人で、「使わない」のは「~てまう」などと表現する18人だった。

 「~ちゃう」を「使う」と答えた堺市中区の男子大学生(22)は「子供の頃から使っている。言われて初めて気付いた」と反応した。

 ただ、大阪本来の「~てまう」も根強く使われており、「~ちゃう」と併用するという回答が26人を占めた。ニュアンスに違いがあるのだろうか。

 「『買っちゃう』はかわいい子ぶるときに使う。また出会って間もない女性や男性と話すときで、よそゆきの雰囲気を出したい場合にも使う。『~てまう』は、ふだん着感覚」と大阪市都島区の女性公務員(31)は言う。

 また大阪市淀川区の男性会社員(27)は「『買っちゃう』のほうがかわいい。失礼ではない言い方のような気もする。目上の人と話すときは、『買っちゃう』です。仲がいい男同士だと『買ってまう』になる」と打ち明けた。

 「~ちゃう」についてこのほか、「やさしい口調」や「若々しい」「女の子が使う」など、プラスかソフトなイメージを持つとする回答が目立った。

 ただ、「~てまう」を「使わない」と断言する人もおり、吹田市の女子大学生(19)は「『買ってまう』はコテコテすぎで、使わない」。若い世代では、「~てまう」が発する「大阪弁臭」に抵抗を感じる人も出てきている。

「~ちゃう」東京由来とは知らず

 一方、「~ちゃう」を使う32人のうち29人が「しちゃうねん」などと、大阪弁・関西弁の「~ねん」をつけると回答した。

 「『しちゃうねん』は、普通に使います。『~ねん』をつけないと東京っぽい。友達も同じような使い方」と高石市のフラダンス講師の女性(46)。

 このほかの回答者からも、「~ちゃう」だけで使うかどうか尋ねると、「違和感がある」という声が多く聞かれた。「『買っちゃう』やと改まった感じだけど、『~ねん』をつけると友達同士感覚になる」(大阪市旭区の20代後半の女性)という回答もあった。

 「~ねん」は大阪では本来、「やってまうねん」「してまうねん」のほか、「行くねん」「あかんねん」などと使われ、東京の「~ちゃう」を大阪弁の“文法”に乗せて使っているともいえる。

 この「~ちゃう」は東京由来だが、驚くことに、そのことを知らないとする回答が目立った。50人全員にこの質問はできなかったが、それでも21人が東京由来であることを知らず、分かっていたのは6人だった。「~ちゃう」を使う32人の中でも、15人が東京由来であることを知らなかった。

 豊中市の飲食店勤務の男性(46)は「~ちゃう」について「ええっ!大阪弁やないんですか。『~ねん』もつけて使うので大阪っぽいと思っていた」と驚いた。

 数十年前、大阪で「~ちゃう」と言えば、代表的な東京弁の言い回しとされたが、今や大阪弁、関西弁の中に定着し、その由来がどこかはっきりしなくなっている。

 ところで、この「~ちゃう」はいつごろから東京で使われているのだろうか。ちなみに、「~ちゃう」は、「並んじゃう」「泳いじゃう」というように、「~」の部分が「ん」や「い」になると、「~じゃう」に変化する。

 日本国語大辞典第二版(小学館)によると、「ちゃう」について「『てしまう』が『ちまう』を経て変化したもの」「東京方言などのくだけた言い方」とあるが、使われ始めた時期については記されていない。

昭和から平成にかけて東京弁の俗語が関西へ

 「標準語の成立事情」(PHP文庫)や「方言は絶滅するのか」(PHP新書)などの著書があり、方言に詳しい真田信治・大阪大名誉教授(日本語学)によると、「~ちゃう」や「~ちゃった」は江戸時代の文献に使用例はなく、明治時代以降に、東京の周辺部の千葉や北関東の方言から流入したとみられるという。ただし、標準語とはみなされず、東京弁の一つとして俗語的に使われるようになった。

 その「~ちゃう」がいつごろ、大阪や関西に入ったのか。真田名誉教授は1980年代後半から90年代、昭和から平成に変わる頃だったとみている。

 真田名誉教授は「各地の若者には、東京の俗語は魅力的で影響を与える。『~ちゃう』は関西では、当初多くの人には違和感があったが、徐々に広がっていった」という。拡散するうえで、中心的な役割をしたのが、東京などからの転勤族が多く、東京志向が強い大阪府北部の北摂地域や兵庫県西宮市、同県宝塚市などとみられ、そこから大阪府内のほかの地域、奈良県などに広まった可能性があるという。

 東京で「あのさ」という場合の「~さ」も同様の経路で関西に広まったとみられ、現代では「あのさ」のほか、「ほんでさー」「行ってさー」などという形で使われている。

 真田名誉教授は昭和62年に「ネオ方言」という概念を提唱した。関西弁では、「ネオ関西弁」と表現する。東京弁の影響を受けながらも完全に東京化せずに独自に変化した新関西弁のことで、こちらも兵庫県西宮市や同県宝塚市、北摂地域が発信基地となった。従来は大阪や京都、神戸で微妙に異なっていた関西弁の共通語的な役割も果たしている。

 たとえば、本来の関西弁「ゆ(言)うた」が東京の「いった」の影響を受け「ゆった」に変化。また大阪では「せなんだ」「せえへなんだ」と表現していたが、「しなかった」の影響を受け「せんかった」「せえへんかった」に変化し、「~なんだ」はほぼ使われなくなった。「行かなんで」が「行かなくて」の影響を受けた「行かんくて」という表現も生まれた。

 さらに「来ない」を、大阪では「けーへん」、京都では「きーひん」と言い表していたが、「こーへん」という言い方が広がった。

 ただ「~ちゃう」の大阪弁、関西弁での使用について、真田名誉教授は、「~てまう」の代わりに当てはめているだけで、東京の影響を受けながらも独自に変化した「ネオ関西弁」とはいえず、「借用に近い」と指摘する。

「けったいな」「なんぎや」は消えていく?

 いずれにしても、大阪弁、関西弁に対する東京弁の影響は大きい。大阪人や関西人は、マスメディアやインターネットなどあらゆる媒体を通して東京弁と接触している。大阪弁、関西弁は生き残るのだろうか。

 真田名誉教授は「東京弁に対応する関西弁は今後も残るだろうが、東京弁に対応しない独自の言葉は消えていく」と予想する。「対応する」とは「翻訳できる」と言ってもよく、ネオ関西弁の例のほか、「だめ」「あかん」、「捨てる」「ほかす」、「面倒くさい」「じゃまくさい」などの関係だ。

 真田名誉教授が挙げる独自の言葉は「はんなり」「けったいな」「なんぎや」などで、東京弁、標準語に翻訳できないニュアンスがある。真田名誉教授は「アクセントは大阪弁、関西弁でも、東京弁か東京弁で言い換えられる言葉で話をするようになり、東京弁に対応しない言葉は使われず、その概念は消えていく。そして考え方も東京と同じになり、関西的な思考様式は消えていくだろう」と展望している。

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