北朝鮮攻撃は避けられないのか 先送りすれば死者は5倍以上との説も…。米外交専門誌が示す「認めたくない未来」

軍事ワールド
4日、米韓合同空中訓練のため韓国・光州の空軍基地から飛び立つ米軍の最新鋭ステルス戦闘機F22。戦争が起こった場合「一番槍」となる可能性が高い(AP)

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への対応について、米外交専門誌「ナショナル・インタレスト」(電子版)は、「選択肢は予防戦争しかない」との衝撃的なレポートを発表した。近く北朝鮮を攻撃し戦争が始まった場合の死者は約140万人だが、開戦を回避してもいずれ「偶発的核戦争」が起こり、5・5倍の約770万人が犠牲になる恐れがあるというのだ。同誌の「戦争への計算式」は、誰もが認めたくない未来を示している。(岡田敏彦)

 140万人が…

 レポートでは、北朝鮮対応の選択肢を「核抑止」と「予防戦争」の2択だと指摘する。「核抑止」とは、北朝鮮と米国が互いに核兵器を持つことで戦争を回避する考え方だ。敵対する2国の間で核戦争が始まれば、先制攻撃を受けた国でも地下などにある極秘の核ミサイル発射基地が複数生き残り、そこから報復の核ミサイルが発射されて2国とも壊滅するとの考え方(相互確証破壊)が基礎にある。一方の「予防戦争」とは、北朝鮮が核弾頭搭載の弾道ミサイルを実戦配備するなど核兵器による攻撃能力を持つ前に、軍事的攻撃で核を無力化しようというものだ。

 どちらを選ぶべきなのか。レポートの著者のケビン・ジェームス氏は、まず現在の北朝鮮の核攻撃能力を分析。米シンクタンク、科学国際安全保障研究所のデビッド・オルブライト氏によるデータから「北朝鮮が2018年時点で持つ核兵器は、20キロトンの核弾頭25発」とし、以降毎年4発を製造し増えていくと想定した。また今後数年間で250キロトンの核弾頭を搭載した、米国にも到達する大陸間弾道ミサイルの実戦配備も可能になるとの考え方を基礎としている。

 これを前提に、2018年に予防戦争を行った場合はどうなるか。

 ジェームス氏は「金正恩政権の破壊を目的に予防戦争を行った場合は、北朝鮮が韓国と日本へ核攻撃を行う、もしくは攻撃を試みることにつながる」とし、20キロトン弾頭のミサイルは半数が韓国を、残る半数が日本を標的に発射されると想定。一方で韓国に配備された高高度防衛ミサイル(THAAD)や日米のイージス艦に配備されたSM-3、空自の迎撃ミサイルPAC3などで迎撃される可能性や、機械的な故障もふまえ、半数が失敗、残る半数が目標上空で爆発したとの仮定で死者数を算出した結果、日本と韓国で140万人が死亡すると予測する。

 第二次大戦時の広島と長崎での原子爆弾による死者数(広島14万人、長崎9万人)を遙かに上回る大惨事となる。「予防戦争」など決してあってはならない、と誰もが思うだろう。しかし予防戦争を行わなかった場合の結果は、さらに悲惨な事態につながるとジェームス氏は強調する。

 判断ミスが核戦争に

 予防戦争を行わない場合、北朝鮮は核・ミサイル開発を放棄せず“話し合い”も空しく北朝鮮の核保有・核開発が続くとジェームス氏はみる。これはもうひとつの選択肢である「核抑止」の状態だが、大きなリスクが潜んでいる。偶発的に核戦争が始まる危険性だ。冷戦時代、米国とソ連は核抑止の状態にあったが、危機一髪の事態を何度も経験している。

 今年9月20日、「核戦争を防いだ旧ソ連軍人死去」とのニュースが報じられた。旧ソ連軍中佐のスタニスラフ・ペトロフ氏が今年5月、モスクワ郊外の自宅で死去していたことがわかったのだ。ペトロフ氏は米弾道ミサイルの警戒任務中の1983年9月26日、5発のミサイルが発射されたとする警報を受信したが、ミサイルの数の少なさなどから警報システムの誤作動と判断し上官に報告しなかった。実際にミサイルは発射されておらず、同氏の判断により米ソは核戦争に突入する危機を免れることができたとされる。

 より緊迫した事態が、1962年のキューバ危機の際に発生している。

 米国とわずか150キロしか離れていないキューバにミサイル基地を建設しようとしたソ連(現ロシア)が、4隻の潜水艦を近海に派遣した。潜水艦には強力な米空母艦隊を葬り去ることのできる核兵器(核魚雷)が搭載されており、発射の権限は艦長に一任されていた。艦長の階級は中佐。日本の企業でいえば課長級にあたる士官が、核兵器使用という世界の運命を左右する攻撃の権利を“握らされた”のだ。

 ピーター・ハクソーゼン著「OCTOBER FURY」(邦題「対潜水域」)などによると、米海軍は4隻を無力化(浮上)させようと公海上で模擬爆雷による“攻撃”を実施。ソ連の潜水艦は無線交信不可能な潜水状態を余儀なくされ、外界の情報は途絶える。4隻のうちの1隻「B-59」の艦長は、すでに米ソの戦争は始まったと判断。しかしB-59には艦長のほかに政治将校と、副艦長にして部隊司令のヴァシリイ・アルヒーポフの3人が乗っており、この艦だけは核兵器の使用に3人全員の意見一致が必要だった。

 艦長と政治将校が核兵器使用を主張するなか、アルヒーポフだけが使用を拒否。浮上してモスクワに指示を仰ぐべきだと主張した。結局、米艦隊が蝟集(いしゅう)する海域に浮上し“降参”する形となったが、乗組員は核戦争が起きていないことを知り安堵する。もしアルヒーポフが何らかの事情で乗艦していなかったら、キューバ危機が米ソの核戦争に直結した可能性は否定できない。

 警報システムの誤作動という技術的問題、あるいは軍事的な状況の誤認、またヒューマンエラーなどが偶発的核戦争の原因となる。

 問題の先送り

 ジェームス氏によると、システムの信頼性を分析する工学手法である「信頼性工学」に基づいて専門家が推定した、偶発的な米ソ核戦争の発生確率は「年間2%」で、ジェームス氏もこれを妥当と判断する。つまり「核抑止」を選べば、年間2%の核戦争の危険を甘受しなければならないということだ。

 一方で北朝鮮の核兵器は年に4発ずつ増え、戦争となった場合の日韓の被害も甚大となる。さらに数年後には、北朝鮮は米本土に到達する250キロトンの核弾頭を搭載する大陸間弾道弾も開発する可能性が高い。ジェームス氏は「2020年の戦争では360万人、2048年の戦争では3420万人が(日米韓で)死亡する」と指摘。「今後30年間の年平均では750万人の死者につながる」との結果を導き出した。また、今後30年間で偶発的核戦争の起こる可能性を25%と仮定した場合、年平均で死者数は440万人としている。

 無謀な賭け

 この「計算」にジェームス氏は注釈をつけている。予防戦争の場合の死者数は「非常に悲観的な見積もり」で、核抑止を選んだ場合の死者数の推定値は「極めて楽観的」だというのだ。例えば核兵器が目標に到達、爆発する確率を50%のまま計算していることなどで、実際には確率は高まり、威力も増す可能性がある。

 さらに「2%」は米ソ間での確率であり、相手が北朝鮮の場合は「偶発的な核戦争が起こる確率はおそらくはるかに高い」と分析。予防戦争を行わず、核抑止の道を選ぶことは、「北朝鮮の早期警戒システムが決して故障しない方に賭けること」であり、「核兵器を扱う北朝鮮軍将校は米国のミサイル攻撃の警報を受けても命令に従わず、あいまいな本能で真偽を判断すること」に賭けることだとしたうえで「継続的な幸運を必要とする賭けは無謀で愚かだ」と指摘する。

 そのうえでオバマ前政権の無策を批判し「米国の政策の目標は、今後より強力になる北朝鮮による偶発的核戦争のリスクを除去すること」で「予防戦争はその目標を達成できる唯一の方法」と結んでいる。