堺の魅力全開!! “オール堺ロケ”の異色コメディー正月映画「嘘八百」、脚本家も学芸員もみな堺

銀幕裏の声
矢内学芸員そっくりの田中学芸員(塚地)から説明を受ける佐輔(佐々木)と則夫(中井)。右から (C)2018「嘘八百」製作委員会

 堺ゆかりの茶人、千利休(1522~91年)の茶器をテーマにした映画「嘘八百」が1月5日から全国で公開される。“利休の幻の茶器”をめぐり、中井貴一、佐々木蔵之介が“詐欺師”を演じる異色コメディーだが、同市出身の脚本家、今井雅子さんや同市学芸員、矢内(やない)一磨さんをはじめ多くの堺市民が“一致協力”し、歴史に埋もれた利休の謎に迫る本格ミステリーに仕上げた。大作映画が“オール堺ロケ”で製作されるのは初の試み。今井さんや矢内さんたちに製作秘話を聞いた。    (戸津井康之)

堺の一大プロジェクト

 「堺は歴史豊かな大都市なのに、これまで堺を描いた映画は少なかった。脚本家として、堺をメーンの舞台にした本格映画をつくるのが、長年の念願だったんです」

 こう語るのは今作の脚本を執筆した今井雅子さん。堺市生まれの堺育ち。同市内の小・中学校、府立三国丘高校に通った“堺っ子”だ。映画「パコダテ人」(平成14年)や「子ぎつねヘレン」(18年)の他、NHK連続テレビ小説「てっぱん」(22~23年)を手掛けるなど脚本家として活躍している。

 今作は共同脚本で、もう1人の脚本家は、映画「百円の恋」で、平成28年の日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した気鋭の脚本家、足立紳さん。そしてメガホンを執ったのは、「百円の恋」で監督を務めた足立さんの盟友、武正晴監督だ。

 《千利休が誕生した“茶の湯の聖地・堺”に、お宝を探しにやって来た古物商の小池則夫(中井)。落ちぶれた陶芸家、野田佐輔(佐々木)と出会い、意気投合した2人は、一攫千金を狙い、“一世一代の詐欺”を画策する。それは、幻の利休の茶器を仕立て上げ、オークションに持ち込もうという途方もない計画だった…》

堺ならではの映画

 “堺ならではの映画”にこだわる今井さんが構想していたのは、堺で生まれ育った先人、千利休の存在だった。

 ただ、利休を描いた歴史物の映画としては、すでに市川海老蔵が利休を演じた「利休にたずねよ」(25年)や、野村萬斎が華道家の池坊専好、佐藤浩市が利休を演じた「花戦さ」(29年)などがある。だが、いずれも堺市内で本格的なロケは行われておらず、今井さんは、「時代劇ではない現代もので、しかも堺で全編ロケができる作品にしたい」と考えた。

 そこで思いついたのが、過去と現代の堺を結びつける利休をめぐる壮大なストーリーだった。それも、これまで明かされていない“利休の謎”について描こうと考えたのだ。

明かされる利休の謎

 「今井さんから利休について詳しく知りたいと頼まれ、改めて利休について調べ直しました」。こう語るのは、室町以降の古文書研究を専門とする同市学芸員の矢内さん。

 「堺親善大使」も務めている今井さんは、同市主催の学術イベントなどで面識があった矢内さんに、利休をテーマにした映画化の構想を語り、脚本の相談をしていたのだ。

 矢内さんが文献などを徹底的に調査し、今井さんに紹介した、とっておきの利休の知られざるエピソードはこうだ。

 「かつて、利休は愛称で鴎(かもめ)と呼ばれていたことがあるのです。何ものにもとらわれない自由人の利休の生きざまと鴎とが似ているところから付けられた愛称とされています。港町の堺で生まれ育った利休は、自由な鴎に憧れていたことが想像されます…」

 矢内さんは、茶人・津田宗及の息子、江月宗玩の語録を集めた「欠伸稿」の中に出てくる利休が「鴎」と呼ばれていた記述を示しながら、こう説明する。

 今井さんはこのエピソードにヒントを得て脚本の構想をふくらませていく。

鍵は学芸員?!

 劇中、利休の茶器について調べるため、中井演じる則夫、佐々木演じる佐輔の2人が堺市博物館を訪れる場面が描かれる。

 2人を旧堺燈台へ案内し、海を眺めながら熱心に“利休とカモメの逸話”について説明する学芸員役を、お笑い芸人の塚地武雅が演じているが、この学芸員役は矢内さんをモデルに、物まねをして演じているのではないかと思えるほど雰囲気や話し方がそっくり。

 顔を上げて目をつぶり、あふれ出る知識を“速射砲”のように熱く語り続ける学芸員、田中の姿は、矢内さんそのものにしか見えなくなってくるぐらいだ。

 「撮影現場で塚地さんとすれ違ったのですが、お互いが振り返り、“よく似ているな”と感じとりましたね」と矢内さんは苦笑した。

 実は利休の幼少時の名前は「田中与四郎」。“矢内さんとしか思えない”塚地演じる学芸員の名は「田中四郎」である。

 「嘘か本当か分からない数々の仕掛けがあちこちに伏線として張り巡らされているのが、『嘘八百』の最大の魅力かもしれませんね」と矢内さんは笑った。

オール堺ロケ

 撮影はオール堺ロケを敢行。利休とカモメの接点を裏付ける重要な場所として同市堺区の旧堺燈台、則夫と佐輔が訪れる堺市博物館、利休の茶器のオークションが行われる同市内の旧家の屋敷などが登場する。

 「観光名所ではないですが、堺の歴史を伝える魅力的な場所が何カ所も出てきますので注目して見てほしいですね」と語るのは大阪フィルム・カウンシルの藤本美保子さん。撮影当時、藤本さんは堺フィルムオフィスに所属し、映画スタッフとともにロケ地を探し、エキストラを集めるなど撮影現場を裏で支えた1人だ。

 これまで堺フィルムオフィスが協力し、堺市でロケが行われた映画として、「寄生獣」(26~27年公開)で市役所庁舎、「ソロモンの偽証」(27年)で市立大浜中学校、「セトウツミ」(28年)では府立泉陽高校が使用されている。近年、同市が映画の舞台として登場する機会は増えたが、「いずれも具体的な地名は登場せず、オール堺で描かれた映画は『嘘八百』が初めて。それだけに感慨深いですね」と藤本さんは言う。

「嘘八百」の真意とは?

 「利休の生き方は、大海原を舞う鴎そのものでした。しかし、秀吉に近づくほど、利休はがんじがらめにされて身動きが取れなくなっていった。切腹によって秀吉の呪縛から解かれることになったとき、これで鴎になれると思ったのではないでしょうか…」

 利休の幻の茶器について、こう則夫がとうとうと語るシーンは印象的だ。

 その中井演じる則夫の姿と、「利休の魅力、利休の精神を育んだ堺の魅力を、堺の学芸員として多くの人に知ってほしい」と熱く語る矢内さんの姿とが重なる。

 いったい、「嘘八百」はどこまでが真実でどこからが嘘なのか?

 こう質問すると、今井さん、矢内さんは笑いながら声を揃えた。

 「だから言っているでしょう。タイトルが『嘘八百』なんですよ」と。