大阪ベイ・ブルースの舞台がインスタ狂騒曲の聖地に…トラブル続出、悲しみの結末は

衝撃事件の核心
安全確保とマナーの問題から閉鎖されることが決まった「ナナガン」=11月28日、大阪市港区海岸通

 今年の新語・流行語大賞となった「インスタ映え」。会員制の写真共有サイト「インスタグラム」に投稿すれば、注目・称賛を浴びるであろう被写体のことだ。インスタユーザーの女性らを中心に使われるようになり、「カワイイ」「イケてる」といった意味合いも。そんなインスタ映えスポットとして人気のあった大阪の港湾(ベイ)エリアの一角が、閉鎖されることが決まった。理由は訪問客のマナー違反。写真に映り込まない部分では、騒音やごみのポイ捨てなど見栄えの悪い行為が横行していた。

車両続々と結集

 午後9時過ぎ、大阪市港区海岸通りの突堤。周囲には倉庫しかないようなこのエリアに、次から次へと車がやって来る。ざっと40台以上の車両が岸壁に並んでいた。

 通称ナナガン。検索大手グーグルの地図アプリで「第七岸壁」と表示されることから、略してこう呼ばれるようになった。正式名称は「大阪港第三突堤先端物揚場(ものあげば)」。大阪市が管理する船の荷揚げ場所だ。

 大阪湾の上を走る阪神高速湾岸線の真っ赤な橋梁や、その向こう側の工場地帯を一望できるスポットで、確かに景観はいい。だが、この眺望見たさに車が集まってきているかというと、どうも様子が違う。

 ナナガンを訪れる車は、どれも車体後部を海側に向けて駐車している。景色を眺めるためなら、正面を海側に向けそうなものなのに-。

 つまりナナガンとは「背景」なのだと気がついた。あくまでメインは自分の車。愛車を「インスタ映え」させるためのスポットがナナガンなのだ。

 インスタを見れば一目瞭然だ。

 「スイフト会」

 「ラパン会」

 「ホンダ会」

 ネットでつながった同じ趣味の人が、現実に顔を合わせる「オフ会」。ナナガンの場合は、車種やメーカーごとのオフ会が現地で開催され、その様子がアップされていることが分かった。

相次ぐマナー違反、摘発も

 ナナガンがSNS(会員制交流サイト)上で話題に上るようになったのは平成27年ごろから。今夏のピーク時には一晩で300台以上が集結した。中には熊本県内から訪れたドライバーもいたという。

 ナナガンには車愛好家だけでなく、カップルや釣り客も来る。大勢の人間が集まることの副作用と言うべきか、周辺ではマナー違反が次第に深刻化していった。

 マフラーを改造した車やバイクが夜間にエンジンをふかして騒音を響かせ、周辺道路では渋滞が発生。出入りする物流業者のトラックと乗用車が接触する物損事故も起き、近隣住民の苦情も相次いだ。

 こうした状況を受け、大阪府警は10月、ナナガンの周辺道路で大がかりな取り締まりを実施。道交法違反(消音器不備など)の疑いで20~50代のドライバー8人を摘発した。

 市港湾局によれば、ナナガンは「本来であれば関係者以外の立ち入りは遠慮してもらう場所だ」という。来訪者のマナーを信じて立ち入りを“黙認”していた部分もあったようだが、度重なるマナー違反に、ついに対応を取らざるを得なくなった。

 《12月8日をもって侵入防止柵を設置し、関係者以外の立ち入りを制限する》

 現場にはこんな看板が掲げられた。

 奈良市から恋人とドライブに訪れたという男子大学生(22)は「アクセスも良くてお気に入りのスポットだったのに」と残念そうだった。

 荷揚げ場ゆえに車止めがない場所もあり、海に転落する恐れもある。市の担当者は「何かあってからでは遅い。安全管理の観点からはやむを得ない」とした。

自己愛のエスカレート

 インスタ映えスポットでのこうしたトラブルは各地で相次いでいる。

 山口県下関市の絶景スポットとして有名な「角島(つのしま)大橋」。観光客が道路の真ん中に寝転って記念撮影に及び、車両通行の邪魔になっている。SNS上にアップされた画像や動画は、もちろん「いいね!」と言ってほしいのだろうが、「本当に迷惑」「ひかれて死にたいのか」と批判コメントが殺到している。

 今年6月には、見た目のかわいいソフトクリームが撮影後に捨てられている様子がツイッターに投稿されて物議を醸した。「食べ物を粗末にするな」「お金を出して買ったものだから、食べなくても人の勝手だ」「(インスタに)載せる写真はキレイでも心は汚いのか」とさまざまな議論を呼んだ。

 若い女性たちがインスタ映えを求めて奔走するのは、承認欲求や情報共有欲求のあらわれとみる識者もいる。インスタの画像を見てほしいのではなく、「私を見て」という欲求。その自己愛がエスカレートすると、周囲が見えなくなってしまうというのだ。

 もちろんナナガンを訪れる人の全てがインスタ映えを狙っているわけではない。ある男性(24)は「以前は車が好きな人たちがドライブの後にひっそり集まる場所だった。自分は夜明け前の風景を見るのが好きで、写真に興味はない」と話した。

 ナナガン閉鎖の報を受けて、ネット上にはこんなつぶやきが上がっていた。

 《閉鎖の前に、ナナガンでオフやろう!》

 大阪の海は、悲しい色をしている-。