「私には6つの人格がある」多重人格“和製ビリー・ミリガン”の法廷告白 交際女性を殺害したのは誰だ?

衝撃事件の核心

 「私には6つの人格がある」と主張し、法廷に立っている自分を「道徳的でない彼」と呼んだ。交際相手の女性を刺殺したとして殺人罪に問われた大阪市旭区の無職、隅田龍馬(りょうま)被告(27)。10~11月に大阪地裁で開かれた裁判員裁判で、解離性同一性障害(多重人格)だと述べ、被告人質問では犯行時とは別の「自分」が事件の流れを“自白”した。弁護側は「現在と犯行時では人格が異なる」として心神喪失による無罪を主張し、検察側は「多重人格ではない」と真っ向から反論。精神科医2人による鑑定も多重人格か否かで割れた。本当に複数の人格が存在するのか、単なる演技なのか。難しい判断を迫られた裁判員の結論は-。

別れ話のもつれから

 隅田被告は平成27年7月11日、大阪市中央区の当時の自宅マンションで、交際女性=当時(21)=の首などを包丁で多数回切りつけ、殺害したとして起訴された。

 公判資料などによると、2人の出会いは26年10月。女性が隅田被告の勤めていた大阪市内の飲食店で働き始めた。当時は互いに別の彼氏彼女がいて、特に隅田被告は約5年間同居していた婚約者がいた。しかし、隅田被告は次第に女性に好意を抱くようになり、出会って約2カ月の同年末には2人は恋愛関係となった。

 しばらく婚約者と女性との二股状態だった隅田被告。27年5月ごろに婚約者と別れて女性と同居を開始した。現場となったマンションには事件の約10日前に引っ越してきたばかりだった。

 だが、順調な交際と思っていた隅田被告に対し、女性は周囲に「束縛される。別れるつもり」などと漏らすようになっていた。

 そして事件当日。前日から外出していた女性は帰宅すると、隅田被告に別れを切り出した。2人の関係が終わったことを悟った隅田被告は、室内にあった包丁で女性の首を多数回切りつけた。

 こうした事実関係について、弁護側はおおむね争いがない。問題としたのは、事件当時の隅田被告は法廷の証言台に立つ男とは“別の隅田被告”だった-ということだった。

犯行時の人格は「恭」

 弁護側によると、隅田被告には、少なくとも6つの人格がある。

 たとえば法廷に出ている「道徳的でない彼」。彼はは高校時代、不良の生徒に絡まれることが多々あり、不良の攻撃から身を守るために形成されたという。

 犯行時は「恭(きょう)」だった。殺害された女性と交際中に形成されていった人格だ。

 一方、元婚約者の前では「にゃーにゃさん」と呼ばれる人格が表に出ていた。

 このうち「彼」は「恭」と“記憶の共有”ができるといい、法廷では「彼」が、「『恭』の裏側で見ていた」とする事件の概要を語った。

 「彼」の説明では、「恭」と被害女性は、ある音楽グループのファン。そのグループの曲の歌詞に感化され、「別れるときは互いを殺し合う」という約束をしていた。だから、女性から別れ話を切り出された「恭」はこの約束に基づいて女性を殺害した。女性は襲われながら「恭」に向かって「大好き」「あなたは生きて幸せになって」と話したという。

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異なる人格の取り調べ映像

 法廷では、3回分の取り調べの録音録画の映像が、裁判員らの前で流された。

 弁護側によると、それぞれ異なる人格が現れているといい、最初に流れた映像では、消え入りそうな声で事件について「やっと(女性は)生きることの呪縛から解放された」と供述。このときは「恭」の人格らしい。

 次の映像では丁寧で物腰の柔らかい口調で「事件のことは自分自身すごく知りたいのに覚えていない」と述べた。「恭」や「彼」でもなく、全く別の人格のようだ。

 最後の取り調べ映像に出てきたのは「にゃーにゃさん」だった。事件のことは知らないとし、捜査員から「●●さん(被害者)って知っているやろ。その人を殺害したという事実で逮捕されている」と言われても、「…。僕がですか? えっ本当に? さっ殺害? えっ殺したってことですか? 絶対にやっていません」と否認していた。

 6人の人格が存在するというのは、真実なのか。法廷で証言した精神科医2人の判断も分かれた。

 いずれも精神科医として20年前後の経験があるベテラン。起訴前後に2回、隅田被告を精神鑑定した医師は「被告が訴える症状は文献の症状と合致する。内容も具体的で、本や他人の体験談を聞いただけでは到底できない説明をしている」として、病気に罹患(りかん)していると断言した。

 一方、もう1人の医師は「面接でも『詐病(さびょう)ではない』と発言するなど診断に不満を抱く態度は不自然」などとし、人格が交代したとの隅田被告の主張は虚偽だと断じた。

多重人格を認めたものの…

 「キャラクターの使い分けをしていただけで病気ではない」。検察側は「残虐性が際立つ極めて悪質な犯行」として懲役18年を求刑した。

 迎えた11月2日の判決公判で飯島健太郎裁判長は懲役16年を言い渡した。隅田被告の主張は、虚偽と判断されたということなのか。

 判決で示されたのは「解離性同一性障害に罹患しているものの、完全責任能力が認められる」というものだった。

 隅田被告を多重人格とした精神科医について、複数回面接していることや、隅田被告が他人に見られることを想定していないメモ帳に多重人格を思わせる記載をしていたことなどから判断していた点を踏まえ、「判断の根拠は説得的」として精神科医の証言の信用性が高いと認定した。

 その上で判決は、「人格同士の解離の程度は不十分で、犯行時も周囲の状況に応じて合理的な行動をとっており、行動制御能力に問題はなかった」とし、動機は単なる「別れ話を切り出された絶望や怒りの感情」と指摘。「被害者に殺されるような落ち度はなく、身勝手な犯行」と断じた。

 被告人質問で反省の気持ちを問われて「意識はしているがそこまでたどり着けない」と答え、女性の遺族について「できれば遺族の望む判決にしてほしい。下された判決に従うのが償い」と答えていた隅田被告。最終意見陳述では「私自身(法廷での人格)が殺していない証を、心神耗弱として残していただければ、(遺族が望む)無期懲役でも構いません」と述べていた。

 判決は、望み通り多重人格が認められる結果となったが、弁護側は判決を不服として控訴した。