漂流する神戸山口組 暗殺失敗、本部事務所使用停止…六代目山口組が漁夫の利か

衝撃事件の核心
神戸山口組が新本部として使用する可能性が高い神戸市中央区の拠点ビル

 平成27年夏の指定暴力団六代目山口組の分裂に端を発した“三つどもえ”の抗争が新たな局面に移行した。年の瀬を目前に控え、六代目山口組と対峙(たいじ)する指定暴力団神戸山口組が苦境に立たされているのだ。半年ほど前、組を離脱した一部幹部らが「任侠(にんきょう)団体山口組」(任侠山口組に改称)を結成し、歯車が狂った。任侠側のたび重なる挑発に、神戸系組員が任侠トップの暗殺を試みたが失敗。さらに、兵庫県淡路市の本部が裁判所から使用禁止を命じられた。捜査関係者は「裏切り者は決して許さないという任侠道の筋目を通すことができなかった上に、事務所の使用停止で、警察の包囲網が強まったのではないか」とみる。警察当局は「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」事態が発生し、大規模抗争に発展する恐れもあるとみて、警戒を強めている。

「定例会」と言えず

 11月15日昼、神戸市中央区にある神戸山口組の4階建て拠点ビルの前に、続々と高級車が到着した。ノーネクタイにカラーシャツという異例のラフな格好で登場したのは神戸山口組の直系組長の面々。組員の出迎えを受け、次々と中に姿を消していった。

 県警によると、この日ビル内で開かれたのは月に1回のペースで直系組長らが集まる「定例会」だ。休日と重なるなど特別な理由がない限り、毎月8日に淡路市の本部事務所で開催されるはずだったが、10月に神戸地裁から使用禁止を命じる仮処分決定が出て本部事務所が使えなくなったため、日時と場所を移していた。

 組側は定例会開催によってビルが新たな「本部事務所」と認定され、再び使用禁止を命じられる可能性を懸念。とはいえ、組の重要行事である定例会を止めれば、組織の求心力が低下する恐れもある。捜査関係者は、「苦渋の策として、最高幹部が集う『執行部会』を15日に開き、その場にメンバー外の直系組長も、偶然ラフな格好で居合わせたという理屈を編み出したのではないか」とみる。

淡路島から“追放”

 仮処分は淡路市の地元住民の委託を受けた兵庫県の外郭団体「暴力団追放兵庫県民センター(暴追センター)」が10月2日に神戸地裁に申請し、同31日に認められた。

 本部の建物は平成22年ごろから、六代目山口組直系組織だった「侠友(きょうゆう)会」が使用。27年8月に六代目山口組から神戸山口組が分裂して以降は、侠友会の寺岡修会長(68)が神戸山口組ナンバー2の「若頭」に就任し神戸側の傘下に移り、本部事務所として提供することになった。

 組事務所はなぜ、使用停止になったのか。

 黒ずくめの暴力団幹部の車が定例会のたび、閑静な住宅街に大挙して現れるようになり、一目で分かる格好でうろつく暴力団組員の姿は、無言のうちに地元住民をおびえさせていた。

 さらに今年9月には神戸市長田区の路上で、神戸系組員の黒木こと菱川龍己容疑者(41)らが、対立する任侠山口組の金禎紀=通称・織田絆誠(よしのり)=代表(51)を襲撃し、ボディーガード役の男性を射殺する事件が発生。本部事務所が任侠側から報復を受けかねない状況となり、巻き添えを恐れた住民らが追放運動を加速させたのだ。

 神戸地裁は10月31日の決定で、住民らが「生命、身体を害されることなく平穏な生活を営む権利を侵害されている」と判断。建物を暴力団事務所として使用することを禁止し、暴力団員の立ち入りや暴力団を示す「代紋」を表示することも認めなかった。

 淡路島からの撤退は不可避と判断したのか、組側は地裁の決定に先立ち、10月25日付で本部事務所を自主的に閉鎖したことを関係組織に書面で通達。地裁にも暴追センターの申請内容を受け入れるとの答弁書を提出していた。

 組側はすでに組の物品を別の施設に移したとされるが、寺岡若頭は自宅として建物の使用継続を希望。捜査関係者は「自宅としての使用を禁止することは難しい」と説明するが、住民側の弁護団は「偽装閉鎖の可能性もあり、今後の組側の動向を見守る必要がある」としている。

街のど真ん中に新本部?

 捜査関係者によると、神戸山口組は次の本部の移転先を、11月15日に定例会が開かれた神戸市中央区の拠点ビルに定める公算が大きいとされる。

 拠点ビルがあるのは、JR三ノ宮駅の北約600メートルの商業系地域で、昨年5月に政治団体関係者の男性(66)が取得。今年3月には、平成31年3月を期限に管理を委託するという信託契約によって男性の知人だった寺岡若頭に所有権が移転した。

 今年8月に施行された兵庫県の改正暴力団排除条例は、組事務所新設の規制地域に都市計画法上の商業系地域を追加。暴力団の資金源とされる繁華街や交通の便に恵まれた市街地の大半で新たに事務所を構えることができなくなり、拠点ビルも対象エリア内だ。

 ところが、拠点ビルは4月から幹部会合が開催されるなど、組事務所としての運用がすでに始まっていたため、「既得権益」が認められて条例の規制外になるという。

 市街地のど真ん中にある拠点ビルの利便性については、県警も以前から目を光らせていた。たとえ条例の規制外だったとしても、組側への圧力が緩むことはない。

 県警は9月に今後暴力団との不動産取引を行わないよう政治団体関係者の男性に勧告。さらに翌10月には男性がビルを取得した当時から、組事務所として使用する意図があったとして、虚偽の信託の不動産登記をした疑いで男性と寺岡若頭を逮捕した。

 県警は今後、定例会の開催など拠点ビルの使用実態を調べた上で、本部事務所であることを示す暴力団対策法上の「主たる事務所」に認定できるかどうかを見極めるとみられる。

暗躍する六代目山口組

 神戸山口組の“弱体化”は、寺岡若頭に準ずる最高幹部の若頭代行だった織田代表を中心とする勢力が4月末に組を離脱し、トップに織田代表を据えた任侠団体山口組の結成で加速したとされる。

 任侠側は結成式の後に報道各社を組事務所に招き入れて記者会見を開催。8月にも同様に会見し、スポークスマン的な役割を担う任侠側ナンバー2の池田幸治本部長(50)らが、神戸山口組の井上邦雄組長(69)の人間性や組織運営の手法を繰り返し批判した。

 「ここまで一方的にやられたら、誰かが織田に仕返しせなあかんという雰囲気があったのだろう」(暴力団関係者)。9月の織田代表襲撃事件は神戸側を批判したことへの意趣返しと見る向きもあるが、県警は実行犯の神戸系組員の足取りをつかめておらず真相は藪の中だ。

 任侠トップ襲撃の代償として、本部事務所を失った神戸山口組。神戸側と任侠側の争いが過熱する中、三つどもえ抗争の一角を占める六代目山口組は力を温存し、漁夫の利を得ようと水面下で暗躍する。

 暴力団関係者によると、六代目山口組側は、神戸側の内紛とも言える争いの裏で、神戸系組員らに六代目山口組への復帰を働きかけ、優位な条件の下で“三国争覇”の時代を終結に導こうと画策しているというのだ。

 県警幹部は次のように説明する。

 「六代目山口組の独り勝ちともいえる状況が続いている。数年ほどは三つどもえの対立が続くだろうが、追い詰められた神戸山口組が暴発して一般人を巻き込む抗争が起きたり、活動を隠して地下に潜ったりする可能性も考えられる。警戒を最大限続ける」