イレブンスリー暴走車両ゼロ、今年は警察が完封 それでも「何となく」集まるやじ馬

衝撃事件の核心
国道26号線を規制する警察官と迂回する自動車 。恒例のイレブンスリー暴走は今回、大阪府警が暴走車両をゼロに抑える「完封勝利」を挙げたが…=11月2日夜、大阪府岸和田市(志儀駒貴撮影)

 大阪・岸和田と聞けば、まず思い浮かぶのは勇壮なだんじりのやりまわしのシーン。あるいは不世出のバッター・清原和博氏の出身地ということかもしれない。ところが近年、ある〝イベント〟の存在により、不名誉な形で岸和田の名前がとどろいてしまった。通称・イレブンスリー暴走-。毎年11月3日未明に起きる集団暴走行為だ。大阪府警は昨年に続き、700人以上の警察官を動員する一大封鎖作戦を実施。暴走車両をゼロに抑える「完封勝利」を挙げたが、当日の現場には期待族、ナンパ目的、果ては警察車両マニアに至るまで、さまざまな見物人が集まった。市民にとって迷惑極まりないイレブンスリーには、実は大きな謎がある。「そもそも何で岸和田でやるねん!?」

コンビニなど続々閉店

 「今年こそやってくれると信じたい」

 11月2日午後8時、国道26号の総合体育館前交差点(岸和田市小松里町)。近くのコンビニエンスストアに車を止めた大阪府内の20代男性は、祈るような思いで道路を見つめた。

 この時点で数十人のやじ馬が集まっていた昨年と比べると、自分も入れて数人程度しかいない閑散とした雰囲気。昨年来の警察の封じ込め作戦の効果だが、男性は「ツイッターでは『復活させようや』というつぶやきもあった」と〝祭り〟の再現に期待を寄せた。

 午後9時10分、うなるようなエンジン音が響いた。

 「キターッッ!」。期待族の表情に高揚が走る。

 やってきたのは堺ナンバーの車2台。うち1台はナンバープレートを上向きに変形させている。

 しかし、2台はまるで状況を偵察するかのように交差点を右折すると、もと来た道路をおとなしく引き返していった。

 「コンビニに車を止めている人、周辺道路を閉鎖するので車を移動させてくださーい」

 午後10時、警察官が赤いコーン標識を立て、国道26号を封鎖し始めた。交差点には府警の大型バスが横断する形で停車され、上下線を完全に遮断。直後に府警から事前要請を受けていたコンビニやカラオケ店、ラーメン店などが次々と電気を落として店を閉め、国道は暗闇に包まれた。

 近くに住む高校2年の女子生徒(17)はおもしろくない様子。彼女はイレブンスリーのピークだった平成27年の暴走も見物したという。「アホなことやって、警察とゴタゴタする姿が見たくて来たのに。何もないなら、帰るわ」と冷めた表情で語った。

多様な期待族

 府警によると、2日夜から3日未明にかけての暴走車両はゼロ。見物人も昨年と比べて約330人減の約40人に抑えこんだ。

 周辺検問では、堺市西区の国道26号で無免許でバイクを運転したとして、道交法違反容疑で大阪府羽曳野市の建設作業員の少年(19)が逮捕された。少年は「イレブンスリーを見に行こうと思った」と供述したという。

 改造車が好きで、同府八尾市内から恋人の女性と車で来た会社員男性(36)は「今年もハズレか」と残念そう。それでも「見られるまでは、来年も再来年も、また来てしまうと思う」と話した。

 現場に集まったのは、こうした期待族ばかりではなかった。奈良県から訪れた私立大3年の男子学生(21)は、パトカーや大型バスといった警察車両の撮影が目的だった。周辺で警戒にあたる車両に熱心に一眼レフを向け、「いろんな車が一度に撮影できた」と充実した表情を見せた。

 「昨年は人が少なくて失敗したが、今年こそ女の子をナンパしたい」。こんな〝不純〟な動機を持っていたのは岸和田市内の20代の男性会社員。閑散とした側道を見るとがっくり肩を落とし、とぼとぼと帰路についた。

岸和田に暴走族なし

 イレブンスリー暴走は、10年ほど前からツイッターをはじめとしたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて有名になり、各地から見物人が集まるようになった。

 ギャラリーが暴走車両を呼び、さらにギャラリーを呼ぶという悪循環が生じ、27年にはバイクなど約50台が集結。期待族も約2500人という一大イベントになってしまった。

 こうした状況を打開しようと、府警は昨年初めて約930人の警察官を投入し、総合体育館前交差点を中心に、暴走の舞台となる国道26号を南北約2キロにわたって通行止めにした。その甲斐あって、車両は20台に抑えられ、見物人も約370人と大幅に減った。

 以上がイレブンスリー暴走をめぐる経過だが、そもそもなぜ、岸和田市内で行われるようになったのか。

 由来は(1)死亡した暴走族メンバーの命日の追悼集会(2)近隣の堺市で結成された暴走族「イレブンスリー連合」の名前にちなむ-など諸説あるが、真相は定かではない。インターネット上には、和歌山県が発祥で、国道26号を北上する形で岸和田市内まで波及したとする説もある。

 ここで重要なのは「岸和田では現在、暴走族グループの存在は確認されていない」(捜査関係者)ということだ。イレブンスリーで暴走するのは「岸和田以外から集まった少年らが大半だ」という。

 府警は「発祥も主導者も分からない悪習だが、毎年誰かがSNSで話題にすることで『何となく』の期待族が集まるのが現状だ」と説明する。

住民「迷惑千万」

 SNSなどに詳しい近畿大総合社会学部の辻竜平教授(社会ネットワーク分析)は、ネット上では真偽不明の情報に尾ひれがつき、さも真実であるかのように拡散されてしまうケースがあると指摘する。

 辻氏によると、イレブンスリーの情報をつぶやく人の多くは「開催されてほしい」という期待から検索している可能性がある。「言及者の数やリツイート(拡散)数が多い情報を見たネットユーザーは『これだけの人が言っているから、きっとあるはずだ』と根拠なく信じ込んでしまい、現場を訪れてしまうのではないか」

 「何となく」で岸和田に集まって行われる暴走を、地元住民はどう思っているのだろう。

 近くの斎場で知人の通夜に参列していた岸和田市内の男性(75)は警察の取り締まりには理解を示したうえで「幹線道路をふさがれ、周辺が混雑する。迷惑な話」と憤った。

 見物人による被害も無視できない。近くの喫茶店の女性従業員によると、27年の暴走の翌日は、店舗前に空き缶やレジ袋などのごみが散乱。店ののぼりも何者かに盗まれ、被害届を出したほどだという。

 女性は「店が潤うわけでもなく、ただうるさいだけだった」と振り返り、「しょうもないことで岸和田が有名になってほしくない」と嘆いた。