神鋼不正問題 解体的出直しの覚悟を見せよ

西論
独自路線を進む神戸製鋼の東京本社。データ不正問題の出口は見えない中、次の動きが注目される=東京都品川区

 あまりの品質軽視に言葉も出ない。関西発祥の名門企業、神戸製鋼所による検査データの改竄(かいざん)問題のことだ。最初の公表(10月8日)から1カ月がたつが、新たな不正が次々と明らかになり、事態収拾のめどは全くたっていない。最初に結論めいたことを書けば、この泥沼化した問題が収束するのには相当の時間を要し、最終的には「神鋼解体」にまで行きつくのではないか。それほど問題は根深い。

 ◆日本製品への信頼失墜

 「神戸製鋼の信頼度がゼロに落ちた」。川崎博也会長兼社長は10月12日、こう述べたが、この問題は神鋼という一企業にとどまらず、日本の製造業に対する信頼を失墜させる重大事案に発展するかもしれない。製造業の生命線である「品質」で国内外の顧客を欺いたからだ。米紙ニューヨーク・タイムズは10月11日付の1面で「日本のイメージに打撃」との見出しを掲げて同問題を取り上げ、日本の製造業に対する高い評価が損なわれると報じている。

 クルマ、新幹線、航空機、ロケット、原子力発電所、自衛隊の防衛装備品…。今回、強度などの検査データが改竄されていた製品が納められていた分野は広く、日本国内のメーカーだけでなく、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米ボーイングといった海外大手にも大量の製品が供給されている。

 深刻なのは製造現場が改竄に直接関与し、品質をゆがめていたことだ。「カイゼン」で知られ、世界の製造業が手本とするトヨタ自動車の生産方式に代表されるように、「日本製品」の品質は現場が支えてきたといっても過言ではない。神鋼の不正では顧客と契約した製品の強度やサイズが条件を満たしていないにもかかわらず、現場の判断で「適正」として顧客の了承なしに出荷していた。

 なぜ、現場が不正に手を染めたのか。

 一連の報道によると、長年の取引関係で顧客に対して生まれた一方的ななれ合いが、納期を前に「これぐらいの強度不足なら」となり、品質を改竄していたという。そこには納期厳守というプレッシャーとともに、安全性、耐久性など必要水準をはるかに上回る日本特有の「過剰品質」に対する安心感もあったのだろう。

 また神鋼では専門性を高めるため、工場間の異動が少なく、同じ部署で10年、20年と働き続けるという閉鎖的な環境に置かれていたことも改竄が繰り返し続けられていた原因といわれている。

 ◆トップの認識に甘さ

 ただ、不正の背景にバブル崩壊後の経済停滞と、人口減少の影響があったことも見落としてはならない。1980年代後半の円高不況以降、製造業は生き残るため省力化と自動化を進め、人員を絞り込むという効率化の追求に傾斜した。しかも、製造業の就業者数は約1千万人とピーク時(平成4年)から500万人以上減っており、この「失われた20年」で現場は疲弊し、製造力が弱体化していったことも、不正の遠因となっていたはずだ。

 とはいえ、大多数の製造業が厳しい環境下でも健全な経営を行ってきたことを考えると、神鋼問題は「現場の暴走」だけでは片付けられない。見過ごせないのは会社の危機において、経営トップが情報を正確に把握できておらず、認識に甘さが目立つことだ。

 川崎社長は会見で説明した内容を少なくとも2度にわたって撤回している。鉄鋼事業について「不正はない」と述べ、さらに最終製品を販売する機械事業でも「問題は見つかっていない」と話した直後に不正が判明。日本電産の永守重信会長兼社長は「トップが現場で何が起きているか知らないことが問題だ」と指摘する。

 また問題発覚後、工場の管理職などが不正を隠蔽(いんぺい)する行為が見つかったが、会見で当該社員の行動を「妨害」と説明。「(現場に責任を)決して押しつける意図はない」(梅原尚人・神鋼副社長)と釈明したが、この言葉を平然と発するあたりに経営陣の当事者意識の薄さが見え隠れする。

 ◆関西経済への波及は

 神鋼は不正製品の処分などにより、今期は経常利益で100億円のマイナス影響があると説明する。現時点で影響の大きさが読めないこともあるが、部品交換などの動きが広がれば、費用負担は一気に膨らみ、さらに米司法省が多額の制裁金を科せば、影響額のケタが変わってくる。

 何より取引先が今後も神鋼製品を採用し続けるのだろうか。不正行為を繰り返してきた神鋼との取引そのものを「リスク」と考える企業が今後相次いでも不思議ではない。

 気になるのは6千社以上におよぶ神鋼の国内取引先の約半数が中小企業で、関西に集中していることだ。神鋼の業績が傾けば、同社に原材料や部品を納めている中小・零細の下請け先の死活問題に直結し、関西経済にも少なからず影響をおよぼすことになる。

 トップが責任をとって辞任しても、外部調査委員会が再発防止策を打ち出しても、いずれまた神鋼は新たな不祥事を起こすだろう。製造業でありながら長年にわたって品質をごまかして利益を追求してきた企業がそう簡単に変われるはずがないからだ。会見で頭を下げる経営陣からも解体的な出直しにむけた覚悟の言葉は発せられていない。信頼失墜で業績不振に陥り、東芝のように主要事業部門を売却せざるを得ない状況に追い込まれない限り、神鋼が変わることはない。   (編集長・島田耕)