和歌山の日本酒「高垣」偶然人気ゲームキャラと同名・同郷→ファン殺到で老舗酒屋大ブレーク、何が受けるかわからない

関西の議論
今秋、「高垣」「高垣楓」だけでなく、「喜楽里」「諸星きらり」も一角に加わった=10月、和歌山市

 和歌山市の老舗酒屋「松尾酒店」で今春発売された日本酒「高垣」が、人気ゲームに登場する「高垣楓(かえで)」という“和歌山出身”の女性キャラクターと同名ということでネット上で話題を呼び、飛ぶように売れている。店にはほかにも、このゲームのキャラクターと似た名前の日本酒が幾つかあり、多くのファンが来店。聖地巡礼ならぬ“清酒巡礼”として話題だ。店側はゲームのことは知らずに命名したといい、「偶然の一致」がネットを通じアニメファンを引き寄せた形だ。

「高垣」と「高垣楓」

 和歌山市のシンボル、和歌山城から西に歩いて20分ほどの閑静な住宅街。松尾酒店はその一角にあり、約25平方メートルの店内に酒類がところ狭しと並ぶ。「高垣」はレジ近くに、高垣楓のフィギュアとともに置かれている。

 「高垣」は、和歌山県有田川町の酒造メーカー「高垣酒造」と同店がコラボレーションしたプライベートブランド(PB)の日本酒として4月に発売。同店だけで売っており、一升瓶で税込み2592円。名前は高垣酒造から付けたもので、関係者はゲームやキャラクターのことは知らなかったという。

 このゲームは「アイドルマスターシンデレラガールズ」(通称デレマス)といい、アイドルの卵をトップアイドルに育てるシミュレーションゲーム。平成23年に配信が始まり、ダウンロード数は500万を超えた。そこに登場する「高垣楓」は「和歌山出身、日本酒好きの25歳」という女性キャラクターで、同ゲームのファンの人気投票でもトップだ。

 日本酒はその高垣楓と同名。しかも和歌山、日本酒というキーワードも重なり、インターネットやSNSを通じて注目され、全国のファンが続々と同店を訪れるようになった。店主の松尾全起(まさき)さん(58)は「なんでか知らんけどよう売れるなあ」と思っていたという。

 6月14日の高垣楓の誕生日を迎えると、「高垣」の人気はさらに加速。現在、店のネットショップでは出品から2、3時間以内に売り切れる状態。年間売り上げは当初90本の予定だったが、10月時点で約500本と驚異的なペースになっており、今年の製造分は残り100本程度という。

 松尾さんは「『よう売らんかったらどうしよう』と話していたのが、(売れすぎて)調整しないと在庫が足りない状態になるとは…」とうれしい悲鳴をあげる。

聖地ならぬ清酒巡礼

 同店では、「高垣」以外の日本酒もデレマスファンの注目を集める。その一つが高垣酒造が製造した甘口の日本酒「喜楽里(きらり)」。女性も飲みやすいようにサイダーなどで割って飲むことができる種類もある。

 同酒造9代目杜氏(とうじ)の高垣任世(ひでよ)さん(52)と夫で8代目杜氏の故・淳一さんとの結婚式で、「酒所として決して有名ではない和歌山で、小さくても『きらり』と光る酒蔵を目指してほしい」と話した仲人の言葉が名前の由来だ。

 しかしこちらも偶然の一致だが、デレマスの人気女性キャラクター「諸星(もろぼし)きらり」と同じ名前で、高垣人気とあいまって一緒に買い求める人が増加。店にはファンにより諸星きらりのフィギュアも置かれている。

 さらに、和歌山県海南市の酒造メーカー「名手(なて)酒造」が製造した日本酒「明光(めいこう)」も、デレマスの和歌山出身キャラクター「並木芽衣子(めいこ)」に名前の響きが似ているとファンの間で話題に。

 高垣酒造が作る電球型の瓶に日本酒が入った「電球のお酒 てんきゅう」も、ファンの間で高垣楓がだじゃれ好きと知られることから、「高垣」と合わせて購入する人が増えている。

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 店ではほかに、雑誌やアニメで人気のマンガ「もやしもん」で取り上げられた日本酒「龍神丸」も取り扱っている。

 こうした品を求めてファンが殺到する様子に、ネット上では「(アニメの)聖地巡礼ならぬ清酒巡礼か」とのコメントも。

店側も盛り上げ

 一方、店側もツイッターでファンとの交流も深めるなど、この“ブーム”を大切にしている。松尾さんの長女、悦代さん(29)が更新する同店のツイッターのフォロワー数は「高垣」が話題になるとともに増え続け、11月1日時点で2080を数える。「デレマスの情報も必然的に増えた」という。

 店に並ぶフィギュアのうち、高垣楓がおちょこを手に持ち、ほろ酔い気味の表情をしているものは悦代さんが購入した。「高垣が話題になり始めたころ、せっかくなので買ってみた」という。

 悦代さんはデレマスの音楽ゲームも始めてみたといい、「いつの間にか自分たちが興味を寄せてきている」と話す。

ほかの和歌山の地酒も

 店では、他府県ナンバーの車や“痛車”が来たり、ファンが「店内の写真を撮ってもいいですか」と声をかけてくるのもおなじみの光景に。リピーター客も多い。

 ファンらは「高垣」や「喜楽里」「明光」の写真を撮り、そのまま商品も購入。マンガやアニメ、ゲームをきっかけに日本酒が話題を集め、若者に関心を持ってもらうきっかけになったと店はみている。

 悦代さんは「デレマスのファンで、『何かおすすめのお酒はありませんか』と聞く方もいる」と、ほかの和歌山の地酒への関心も高まりつつあると実感している。

 松尾さんは「県内では地酒のイベントも増えてきて、認知度は高まっているが、全国的にはまだまだ」と言いつつも、「インターネットでは全国的に話題を集められる。『高垣』が全国に知られていく中で、そのほかの和歌山の地酒についても知ってもらいたい」と期待している。