漫画「特攻 最後のインタビュー」 女流漫画家が見た特攻隊員の素顔

銀幕裏の声
陸軍百式重爆撃機「呑龍」(中村真さん提供)

 第二次世界大戦から生還した元日本海軍、陸軍の特攻隊のパイロット3人の実話を描いた漫画「特攻 最後のインタビュー」(扶桑社)が刊行された。京都在住の女流漫画家、そやままい(本名・曽山舞)さんが、3人のパイロットを取材し、ストーリー漫画に仕上げた。そやまさんは今年3月まで運営されていた京都市の若手漫画家を支援する「トキワ荘プロジェクト」の“卒業生”で、記念すべき単行本デビュー作となった。                    (戸津井康之)

女流漫画家が描く特攻

 「女流漫画家による戦争漫画」といえば、その代表的存在としてすぐに思い浮かぶのが、昨年公開され、ロングランヒット中のアニメ映画「この世界の片隅に」の原作者、こうの史代さん。第二次世界大戦下、空襲に見舞われる広島・呉の市民の日常が淡々と描かれた名作だ。

 「これまでは戦記小説を読んだり、戦争映画を見たりして、その中に登場する俳優の軍服姿などが格好いいなと、ただ憧れていただけで、実際の戦争について何も知らないことを痛感しました」

 28歳のそやまさんは漫画を描くため3人の元パイロットに会いに行き、話を聞くうちに、こう思い始めたという。

特攻に懸けた青春とは

 漫画「特攻 最後のインタビュー」は編集者の神崎夢現さん、長尾栄治さんの原案を元に、そやまさんがストーリー漫画として構成。特攻に出撃する直前の特攻兵たちの心の葛藤などが繊細かつ臨場感豊かに描かれている。

 登場するのは3人。第一回神雷桜花特別攻撃隊で、特攻機の護衛任務に就いた海軍零式艦上戦闘機、通称「零戦」パイロット、野口剛さん。国分海軍航空隊で、出撃30分待機を命じられた九三式中間練習機、通称「赤とんぼ」のパイロット、粕井貫次さん。そして爆撃機などで編成された陸軍特別攻撃隊の百式重爆撃機「呑龍(どんりゅう)」パイロット、中村真さん。

 そやまさんは「この漫画の準備を始めるまで、戦争のことはほとんど知りませんでした」と打ち明ける。

 「それまでは、ただ軍服姿が格好いい。平和が一番。それぐらいしか考えていませんでしたが、3人に会って直接話を聞くうちに、戦争は理屈ではないのだなと分かり、さまざまな思いが浮かんできました」

 この真実を漫画で伝えたい…。そう自分を鼓舞しながら描き始めたという。

 「戦後、3人が特攻について語らなくなった経緯や、亡くなった同期の戦友についてこれまでずっと胸に秘めていた無念さなどを漫画で描くうちに、自然に涙が込み上げてきました」

大空への夢は尽きず

 3人のパイロットのなかの1人、野口さんは第一回神雷桜花特別攻撃隊で、特攻機「桜花」を搭載した一式陸上攻撃機(一式陸攻)の護衛をした零戦の操縦士だ。

 「自分の腕で護(まも)れなかったら、身をもって護れ!」

 出撃直前、野口さんたちは上官からこう檄(げき)を飛ばされたという。

 桜花を搭載した一式陸攻は速度が出ず、米艦隊に近づく前に敵機や艦砲射撃で撃墜されるケースが多かったという。そんな中、迎撃をかいくぐった桜花が米軍艦に体当たりしていった光景を野口さんは今も忘れないという。

 生還した野口さんは戦後、旅客機ダグラスDC9のパイロットになる。

 幼い頃、大空へ憧れた野口さんはパイロットになりたくて海軍へと進み零戦パイロットとなったのだ。

 定年の60歳までDC9の機長を務めた後も野口さんの大空への憧れは尽きることはなかった。民間航空会社で教官などを務め、83歳まで操縦桿(かん)を握ったのだ。

 「飛行機乗り一筋の野口さんが操縦技術について語るとき、まるで少年のようでした」。3人のパイロットに会いに行き、話を聞いたそやまさんはこう語った。

 「軍人としてのみならず、人としてとても尊敬できる人たちでした。戦後、3人がどうやって生きてきたかも描いています。今を生きる私たちに伝えたいメッセージをぜひ漫画を読んで確認してほしい」