圧倒的物量のわいせつDVD工場摘発 ダウンロード全盛時代なのに…日本だけの特殊な裏ビジネスモデル

衝撃事件の核心
「過去最大級の製造拠点」(捜査員)から大阪府警が押収したわいせつDVDや複製機など。ダウンロード全盛時代の今、なぜDVDなどの記録媒体を販売するビジネスモデルが根強く残っているのか…=9月、大阪市中央区

 コンテンツはフリー(無料)が主流の時代。有料のものであっても、国際的にはダウンロード配信が全盛だが、日本ではいまだ「物」に対する愛着、信仰が根強いようだ。「過去最大級の製造拠点だった」。大阪府警の捜査関係者がそう振り返るのは、6月に摘発されたわいせつDVDの販売工場のこと。無修正品、海賊版の複製など、ここから押収されたパッケージ製品は、実に21万枚の多数に及んだ。ネット上にフリーポルノがあふれ返る現代にあって、それに抗(あらが)うような圧倒的な物量。その背景を調べると、販売側と顧客の思惑が一致した特殊なビジネスモデルが見えてきた。

壁一面にDVD、うなるマシン

 工場は、大阪市港区のテナントビル5階にあった。9月20日午後1時ごろ、ここに大阪府警保安課の捜査員らが捜索に入った。

 フロアに入ってすぐ目に飛び込んできたのは、壁一面を埋め尽くしたわいせつDVDのパッケージ。そして「デュプリケーター」と呼ばれるDVDの複製機39台が、稼働音のうなりを上げていた。府警はその場にいた男女5人を摘発。DVDと複製機をすべて押収した。

 デュプリケーターは、パソコンを介さずに短時間でDVDやCDを複製できるマシン。一度に数枚コピーできるものもあり、1台3万円ほどで市販されている。一般的に正規品にはコピーガード機能があり、複製できない仕組みになっているが、デュプリケーターの機種によっては、ガード機能を無効化できる。

 府警によると、押収された21万枚のうち、モザイク処理がされていない無修正DVDは5万枚程度で、残り約16万枚はアダルト映像メーカーから正規に発売された作品の海賊版だった。

 府警は10月12日、違法DVDの販売統括役として、住所不定、職業不詳の男(27)を、わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持容疑で逮捕。男は「俺が経営者だ」と供述した。

薄利多売モデル

 捜査関係者によると、男らは計5つの違法DVD販売サイトを運営していたという。サイトを通して客から注文が入るとDVDを複製して郵送。全て代金引換で取引していた。

 サイトの一つをのぞくと、客に対する細やかな〝気遣い〟が目を引く。業者名ではなく、個人の名義で発送し、商品欄には「PCパーツ」と記載。外からは中身が見えないよう厳重に梱包(こんぽう)していた。いったん岡山県内の集配所を経由し、別の配送業者を利用して客に届けていたという。

 DVDは1枚150~250円で、正規品の1割にも満たないような激安ぶりだ。男らは徹底した薄利多売モデルで、昨年3月から今年8月までに1億3千万円を売り上げていた。

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 DVDの盤面に画像を焼き付けたり、パッケージに入れてもらったりするには追加のオプション料金が必要で、購入する側も違法DVDという認識があったとみられる。

ガラパゴス市場…「コレクター願望」が背景?

 ところで、DVDを含む映像市場を国内外で概観してみると、〝ガラパゴス的〟ともいえる日本の特殊性が垣間見える。

 映画やアニメの製作会社が加入し、作品の著作権管理などを担当する「日本映像ソフト協会」の調査によると、2016年の北米での市場規模は配信が1兆1224億円、セル・レンタルが8663億円で、配信形態での販売が市場の過半数(56%)を占めていた。

 一方、同年の国内の市場規模は計5258億円で、内訳はセル2171億円、レンタル1831億円、配信はそれを下回る1256億円だった。

 配信は前年の961億円から約30%増えているが、セル・レンタル形式が根強く市場を支えているところが海外との違いだ。同協会の広報担当者は「国内ユーザーは、作品を手元に置いておきたいというコレクター願望が強い傾向にある」と分析する。

売る側・買う側、持ちつ持たれつ

 こうした国内消費者の心理傾向に加えて、違法なわいせつ商品をめぐる犯罪形態に「そもそも配信で売る発想がないのでは」と捜査関係者は指摘する。

 男らが運営していたとみられる販売サイトでは、客は注文の際、入力フォームに住所や名前、電話番号、メールアドレスなどの個人情報を記載しなければならないシステムになっていた。

 サイバー犯罪に詳しい摂南大の針尾大嗣准教授(情報学)は、こうした個人情報の入手も犯罪グループの目的の一つだ、とみる。「入力した内容がやがてヤミ業者に売られ、特殊詐欺など別の犯罪に悪用される恐れがある」というのだ。

 名前や電話番号は偽っても、届け先の住所については事実を書かなければならない。そのリスクがあるのに、違法DVDの購入客が一定数存在するのはなぜなのか。

 客側のメリットはデータ容量の節約だというのが針尾氏の見方だ。スマートフォンが普及し、映像の視聴環境もテレビやパソコンからスマホに移行しているが、配信形式をとった場合、客側は膨大なデータ通信料や、保存容量を気にしながら視聴しなければならなくなる。ユーザーにとっては、DVDなど記録媒体に保存された状態で購入した方が都合が良いというわけだ。

 今回の事件で、男らが個人情報の悪用まで考えていたかは明らかになっていないが、針尾氏は「違法DVDは売る側と買う側の利害が一致した販売形態ともいえる」と話す。

 ただ、違法動画が蔓延(まんえん)すれば、作品が売れないアダルト映像メーカーは廃業せざるを得なくなり、業界全体の荒廃につながる。メーカー210社が加盟し、海賊版の撲滅に取り組む「知的財産振興協会」(東京都)の担当者は、違法DVDビジネスについて「ネット上にころがる違法動画をコピーするだけで手軽に売り上げが見込める。犯罪に対する罪の意識が低い」と嘆く。

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