偽装結婚フィリピン人女性の「出稼ぎ哀史」 パブ摘発で暴かれた現実

衝撃事件の核心
フィリピン人女性を来日させ、日本人と偽装結婚させた男が経営していたパブ「クラブ マリポサ」のあった建物。ホステスとして働いた女性の労働環境は劣悪だった=大阪府泉佐野市

 「ジャパゆきさん」。バブルに踊った1980年代の日本で、フィリピンから出稼ぎにやってきた女性労働者はこんな名で呼ばれ、風俗業を中心とした違法就労が社会問題になったことがある。「日本は豊かな国」。日本に来て働けば幸せになれる-という幻想はなお、海の向こうでは消えていないようだ。パブでホステスとして働かせるためフィリピン人の女を来日させ、日本人と偽装結婚させたとして、大阪府警が経営者の男(59)=大阪府泉佐野市=を逮捕した。出稼ぎのホステスにとっては夢にまで見たニッポン。いざ来てみればピンハネのひどさに不満が続出、脱走が相次いでいた。彼女たちが豊かな国のウラで直面した現実とは-。

「情が厚く、人懐っこい」

 「本日のコスプレは、前回大好評だった体操服です」

 男が泉佐野市内で経営していたパブ「クラブ マリポサ」のものとみられるフェイスブック。薄暗い店内で、ブルマー姿の女性らが開脚したり、バレーボールに興じたりしている画像がアップされ、来店を呼びかける言葉が並ぶ。男は同じ市内で「BARベイウォッチ」という店も営業。いずれも酒席でのフィリピン女性による接客を売りにしていた。

 フィリピンパブと呼ばれる業態で、バブル期は地方を中心に各地に店があり、盛況だった。女性たちは主にダンスや芸能活動を行うための「興行」の在留資格で来日していたが、実態はホステス。売春など違法な風俗産業への流出も問題になり、平成17(2005)年の入管難民法改正で対策が強化されてからは外国人パブは下火になった。

 ただ、一定数の店舗は存続している。ネット上では「日本人のキャバクラよりも安く楽しめる」「フィリピン人のパブ嬢は情が厚く、人懐っこい」といった好意的な意見も多く、人気は根強いようだ。

 そして2店舗のオーナーだった男が、人材確保のために行っていたのが偽装結婚。「日本人配偶者」という安定した在留資格を得させるのが目的だった。

自らも比人女性と…

 ただ、フィリピン女性なら誰でもいい、というわけではなかった。

 捜査関係者によると、男は自らフィリピンに渡り、パブやカラオケバーなどで気に入った20~30代女性をピックアップ。容姿や日本語能力などをA・B・Cの3段階で評価し、めぼしい女性を採用するスカウト活動を行っていた。

 「来日して3年間、うちの店で働いてくれ。その後は自由にしていい」。男は女性たちとこんな約束を交わし、邦人男性と偽装結婚させたうえで日本に呼び寄せていた。あくまで自分の店で働かせるためで、他店舗などに紹介した形跡はなかった。

 スカウト活動のための渡航歴は、23年1月からの5年間で実に36回。ホステス候補の物色に精を出す一方で、自らは現地で出会った20代のフィリピン人女性と偽装ではなく実際に結婚していたという。

〝誓い〟のキス写真

 あるときはパブ経営者、あるときはスカウトマン。そんな男が持つもう一つの顔が、ヤミ金業者だった。

 府警によると、男は知人名義で貸金業を営み、近年は無登録のヤミ金に移行。120~130人の固定客がおり、そのうち約50人に常時、計約1千万円を貸し付けていた。利息は1カ月に貸付額の1割という超高金利で、取り立ては息子(33)=貸金業法違反容疑で逮捕=が担当していたという。

 「借金を帳消しにする」「3年間、毎月5万円が入ってくる儲け話がある」。男は、ヤミ金で借金を抱えたりパブでの飲み代を返せなかったりした人たちに偽装結婚の夫役になるよう提案。話がまとまれば旅費を渡し、フィリピンに渡航させた。

 夫役は異国で初めて会った「妻」と小規模な結婚式を挙げ、結婚の証拠とするためか、指輪を交換し、誓いのキスも写真撮影。妻役と一緒に帰国して、泉佐野市などに虚偽の婚姻届を提出していた。

 こうして縁組させた偽りの「夫婦」は、少なくとも10組以上に及ぶという。

手元に金残らず…過酷な労働環境

 「ヤミ金業者が、自分が経営するパブで働かせるため偽装結婚をさせているようだ」。27年12月に泉佐野署に匿名の通報があり、内偵捜査が始まった。

 ただ立件まで一筋縄ではいかなかった。事情を知るはずのホステスの多くが短期間で店を去り、行方不明になっていたのだ。

 相次ぐ脱走は、男の金払いの悪さが一因とみられる。

 現地でスカウトした女らの時給は1500円。給料からは毎月、夫役への報酬として5万円を差し引かれた上に「食費などよく分からない費用」(捜査関係者)として、さらに5万円以上が天引きされていたという。

 捜査関係者は「営業時間も長くなく、女らの手元には、ほとんど金が残らない状況だった」と明かす。

「在留資格を取るための割り切った関係」

 府警は今年4月以降、偽装結婚させた電磁的公正証書原本不実記録・同供用などの疑いで男を逮捕。10月までに、ほかに偽装に関わった計12人を逮捕、書類送検した。

 フィリピン人の女らは「日本で長く働いて稼ぎたかった」と供述。夫役らは「借金があって断れなかった」と説明した。一方、男は「引き合わせたのは間違いないが、結婚は本人たちの意思」と容疑を否認している。

 捜査の過程では、大半の「夫婦」が同居していなかったことも判明した。ある捜査関係者は「摘発した偽装夫婦の間には肉体関係はなかったとみている。あくまで在留資格を取るための割り切った関係だったようだ」と語った。

 摘発された女らの大半がすでに強制送還された。日本で得たものはあったのだろうか。