「犯人扱いするな!」ドンキ値札付け替え詐欺、捨てぜりふ夫婦の行状

衝撃事件の核心
50代くらいの男が商品のパンツの値札を付け替えた「ドン・キホーテパウ住之江公園店」。全国各地で同様の犯罪行為が横行している=大阪市住之江区新北島

 ディスカウントショップの「ドン・キホーテ」などで、商品の値札が安値のものに付け替えられる詐欺事件が相次いでいる。今年に入り、大阪や兵庫の店舗で被害が続発した。万引との最大の違いは、レジを通すこと-の一点に尽きる。仮に露見したとしても「わしらちゃう、店のミスやんけ!」と開き直られると、お客さま第一主義が浸透した商慣行上、犯罪だと告発しにくい背景があるのだ。より安い値札を求めてドンキ行脚を繰り返していたある夫婦の足跡を追った。

防犯カメラに不審な挙動

 「付け間違いやろ!」

 4月4日夜、大阪府箕面市の「MEGAドン・キホーテ箕面店」で、会社員の男(30)=兵庫県尼崎市=が店員にすごんだ。

 トラブルの原因は、男の妻(29)がレジに持ち込んだ野球帽だった。定価は4990円だったが、値札の表示は390円になっていた。店員が「間違っている」と気づき、そのことを指摘したところ、男が激高したというわけだ。

 「犯人扱いするな!」。そう捨てぜりふを残して、夫妻はその場を立ち去った。

 しかし、店側から通報を受けた大阪府警箕面署の捜査員が店内の防犯カメラを調べたところ、問題の野球帽を手元に引き寄せ、不審な挙動を見せる妻の姿が写っていた。こうした物証をもとに、夫妻は7月、詐欺未遂容疑で逮捕されることになった。

 手口はいたって原始的だ。値札は紙製。商品とはプラスチックの輪っかで連結されている。引っ張れば、輪っかを通す穴から、縦に破れた線ができる。狙いをつけた商品と安い商品のタグを入れ替え、線に沿って輪っかに戻せば一丁上がりだ。

 実行役は妻だった。同じフロアから手ごろなタグを見繕う間、夫は店員の動きを通路で見張っていたという。

 警察幹部は「1分以内の素早い犯行。防犯カメラに写った妻はきょろきょろするわけでもなく、慣れた手つきだった」と話す。

〝逆転〟の発想きっかけ

 捜査関係者によると、妻が値札詐欺に手を染めるようになったのは昨年6月ごろ。きっかけは大阪市内のドンキで買おうとした服に本来より高い値札が付いていたことだった。妻が店員に指摘して損をすることはなかったが、このとき“逆転”の発想が浮かんだのだという。

 夫は当初、妻の悪事を知らなかったが、ある日、妻が買って来る物が異常に安いことに気づき、「なんでや」と問いただした。そこで妻の告白を受けたが、夫は注意するどころか便乗を決意。自分が付け替えてほしい商品を、妻に頼むようになったという。

 2人がターゲットに選んだのは、茨木市や兵庫県西宮市などのドンキ5店舗。「ばれたら店のミスにしよう」と申し合わせていた。

 ただ購入の際には毎回ドンキの会員カードを使用。カードに残る購入履歴と店の在庫を照らし合わせるとあっさり余罪が明らかになった。

 だまし取ったのは、スマートフォンのケースやシャンプーなどの日用品のほか、花粉対策の空気清浄機といった家電もあった。ほとんどの商品は正規で購入し、その中に付け替え品を紛れ込ませる手口だった。

 同署はこれまでに詐欺容疑など3件を立件。被害額は5万円ほどだ。2人は共働きで、ある程度の収入があったというが「2人とも浪費が激しく、少しでも安く買いたかった」と供述している。

各地で値札詐欺横行

 値札詐欺は過去にも起きている。

 平成24年6月には神奈川県茅ケ崎市のホームセンターで、30代の兄弟がキャンプ用品など8点(計11万2000円)の値札を貼り替え、7300円でだまし取ったとして逮捕された。

 昨年5月にも神戸市西区の農産物直売所で、ブランド牛の値札を取りかえて精算したとして兵庫県警が飲食業の男を逮捕している。

 今回の夫婦がドンキに狙いをつけたのは、商品が所狭しと並べられた、そのレイアウトにあったと捜査幹部は指摘する。「店員の目が届きにくい所もあり、犯罪者からすれば、細かい作業がしやすいという気持ちになるのでは」

 今年9月には、大阪市住之江区の「ドン・キホーテパウ住之江公園店」で、パンツの値札を付け替えていた50代くらいの男を店員が発見。男は「わしら、何もしてないやないか」と言い訳をしながら、迎えにきた女の車で逃走した。この際、女に蹴られて店員がけがをしており、住之江署が強盗致傷容疑で2人の行方を追っている。

「万引より心理的ハードル低い」

 「値札付け替え犯はレジを通して一部代金を払うことで、罪悪感をごまかしている可能性がある」

 こう心理状況を分析するのは筑波大の原田隆之教授(犯罪心理学)だ。付け替え品とあわせて正規で商品を購入するケースも多く、原田教授は「万引よりも心理的ハードルは低い」とみる。

 「店側のミス」も犯人の常套(じょうとう)句。捜査関係者は防犯カメラの映像など確かな証拠があれば問題ないとしつつも、そうしたものがなければ「万引よりも、しっかりした証拠集めが必要になる」と明かす。

 さらに日本の「お客さま第一」の接客も、値札詐欺をする側にとっては有利に働く。怪しいと思っても、客に強く尋問することをためらわせるからだ。日本万引防止システム協会の稲本義範事務局次長は「お客さんを疑うのは、どの店も抵抗がある。泣き寝入りしている店もあるのではないか」としている。

「ダブルチェックを」

 商品を盗んで店外に出るとセンサーが反応して警報が鳴る防犯ゲートは、万引を防ぐには強力な武器となるが、商品をレジに通す値札付け替えには効果がない。

 総合情報サイト「オールアバウト」の防犯ガイド、佐伯幸子さんは「当たり前だが、タグを付け替えづらい素材にすべきだ」と呼びかける。値札シールは簡単に貼り替えが可能なため極力控えるべきだという。

 ただ、どんなにタグを頑丈にしても、やり方次第では付け替えられる可能性は残る。佐伯さんは「商品の内と外に値札を2つ取り付けるなど、ダブルチェックできるようにするのはどうか」と提案している。