禁断の「援助交際」出産 別の男性と築いた家庭はDNA鑑定で暗転した

衝撃事件の核心
愛する夫とかわいい子供。ある女性が築いた幸せな家庭は、長男の父親がかつての「援助交際」相手の男性であることがDNA鑑定で判明した。親子関係の確認を求めて男性が訴訟を提起し、女性のささやかな日常は暗転した

 これは関西地方のある家族に起こった出来事だ。愛する夫と、かわいい子供たち。妻が感じていたささやかで幸せな日常はある日、根底から揺らぐ。一生隠しておきたい秘密が現代の科学技術に暴かれてしまったのだ。長男は夫の子ではなく、妻が独身時代から援助交際をしていた年上の男性との子であることがDNA鑑定で明らかになった。結婚の事実すら知らなかったその男性は、自分の息子であることを法的に確認するため、女性の長男と夫との親子関係の取り消しを求める訴えを家庭裁判所に起こしたのだ。家族はどうなったのか。

援助交際、そして妊娠

 訴訟の記録から経緯をたどっていく。

 今から十数年前のこと。当時30代のA子は、50代の井上修さん=仮名=と出会った。A子は風俗店でアルバイトをしていた。本業だけでは、やっていけなかったからだ。井上さんは客としてそこに来た。

 「こういう店はやめた方がいいよ」

 A子の証言によれば、井上さんにそう諭された。確かに、店を介さずに個人的に会ったほうが、取り分は多くなる。A子は井上さんと連絡先を交換した。

 演劇鑑賞、服やアクセサリーのプレゼント、店での食事、そしてラブホテル。2人は月数回のペースで密会するようになった。井上さんからは別れ際に、現金の入った銀行の封筒をもらった。

 《もらう金額は月に10万円はありました》

 A子が振り返るように、井上さんの羽振りは悪くなかった。一緒に旅行にも行く関係になった。井上さんの親族が亡くなったときは通夜にも参列する間柄だった。

 最初の出会いから数年が経ち、A子は結婚した。相手は井上さんではなく、40代の誠さん=仮名。しかしその後も、井上さんとの関係は続いた。誠さんが疑うことはなかった。女友達と遊んでいると思っているようだった。

 A子は妊娠した。どちらの子供かはっきり分からなかった。だが当然ながら、夫との子として届け出た。

 --妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する(民法772条1項)

 A子はようやく、井上さんとの関係を断ち切ろうと決意した。

非情なDNA鑑定

 井上さんは妊娠していることを知って、「だれの子なの」と何度も尋ねた。A子は答えず、曖昧にしていた。出産後は携帯電話の番号を変え、自然消滅を図ろうとした。およそ1年、音信不通の状態になった。

 ある日、A子の実家にベビー用品のプレゼントが届けられた。井上さんからだった。A子はつい「ありがとう」とメールを送ってしまう。そして再び、2人のやり取りが始まった。

 井上さんは1年間の不義理を責め立てたりはしなかった。それが好印象に映った。また会ってもいいな-。そう思った。

 A子は井上さんとのデートに長男を連れて行った。別れ際にはいつものように現金入りの封筒をもらった。

 しばらくして井上さんは「(子供を)認知したい」「結婚したい」と言うようになった。A子のことは、シングルマザーだと思い込んでいたという。井上さんなりに、誠意を示そうという気持ちがあったのかもしれない。もちろんA子はその申し出を拒否していた。

 それから次男も生まれたが、A子はずるずると井上さんとの関係を継続した。ヒーローショーに4人で行ったこともあるという。

 ただ子供も成長し物心がついてくる。「おじさん」との不思議な関係に、立ち止まる日が来る。A子はついに「もう会わない」と井上さんに告げた。それから徐々に連絡を減らし、長きにわたった交際に終止符を打った。

 しばらくは平穏な日が続いた。だがある日、井上さんの弁護士から連絡が来た。長男についてA子にDNA鑑定に応じるよう求めてきたのだ。

 そして結果が出た。「井上さんとの生物学的な父子関係が強く推定される」。その確率は99・9999…%。長男は井上さんの子、次男は誠さんの子だった。

 井上さんはA子が結婚していることも知り、裁判所に夫の誠さんと長男の親子関係の取り消しを求める訴えを起こした。あわせてこれまでA子に渡してきた金銭の損害賠償をA子と誠さんに請求した。

家族の行方

 迎えた判決。親子関係については婚姻中の「嫡出推定」にのっとり、井上さんの訴えは全面的に退けられた。

 今回と同じようにDNA鑑定上の親子関係が問題になった訴訟で最高裁が平成26年に示した判断を踏襲。「生物学上の父子関係がないことが科学的証拠から明らかでも、子の身分の法的安定を保つ必要性はなくならない」とした。

 一方で井上さんの損害賠償請求についてはA子に支払いを命じる判決が出た。シングルマザーであるとの井上さんの誤解に乗じて、金品を得られるように振る舞っていたと判断された。夫の誠さんについては「家計は妻任せだった」として賠償責任を否定した。

 一連の訴訟で、もっとも心をかき乱されたのは誠さんだっただろう。誠さんは訴訟でこう語っている。

 「長男を自分の子と信じて育ててきた。真実を知っても変わらない。子供に罪はない」