「猜疑心の塊」「女々しい嘘」仁義なき〝血の報復〟導火線は組長個人攻撃…分裂山口組、ついに任侠VS神戸の銃撃事件

衝撃事件の核心
射殺事件の現場で線香を上げ、手を合わせる「任侠山口組」の織田絆誠代表(中央)。報復の連鎖へと発展するのか=9月15日午後2時40分、神戸市長田区五番町

 「ついに音が鳴った」。〝3つの山口組〟による抗争を警戒し続けてきた兵庫県警の捜査員はこう表現した。指定暴力団神戸山口組から離脱した新組織「任侠(にんきょう)山口組」の結成表明から4カ月半。神戸市長田区で9月12日、任侠山口組の金禎紀=通称・織田絆誠(よしのり)=代表(50)の車列が襲撃され、織田代表の警護役が射殺される事件が発生した。射殺の実行役として殺人容疑で指名手配されたのは、神戸山口組系組員。結成以降、同組の井上邦雄組長(69)をこきおろし続けた任侠山口組に、神戸山口組側が仁義なき報復を企てた構図が浮かび上がる。白昼に市街地で起きた銃撃事件に市民らは戦慄。報復の連鎖を防ぐべく、警察当局は威信をかけた警戒強化に乗り出している。

手向けた花束に「絆」

 9月15日午後2時半ごろ、長田区五番町の事件現場に、黒い上下のスーツに黒ネクタイを締めた織田代表が姿を現した。黒塗りの十数台の車に分乗し、配下の組員ら約40人を従えていた。

 事件で死亡した警護役の楠本勇浩(ゆうひろ)さん(44)を弔うつもりなのだろう。織田代表は献花台の前に膝をついて線香を上げると、数珠を手に黙とう。ぐるりと取り囲む組員らもそれにならった。織田代表の表情は終始、感情を押し殺すかのように変わらない。献花台には、「絆」と書かれた紙を添えた花束が供えられていた。

犯行、わずか1分で

 「撃ってみんかい!」

 現場に怒声が響き渡ったのは3日前の12日午前10時過ぎのことだった。

 捜査本部によると、直後に神戸山口組直系「山健組」傘下組員、菱川龍己容疑者(41)=殺人容疑で指名手配=が発砲。楠本さんは右目の下に銃弾を受けてあおむけに倒れた。ほぼ即死だった。

 織田代表と楠本さんらはその直前、現場の北約100メートルにある織田代表宅を車3台に分乗して出発。細い路地から幹線道路に出ようとしたところ、突然、菱川容疑者に襲撃された。

 菱川容疑者は車を織田代表が乗っていたとみられる先頭車両にぶつけた後、車を降りて先頭車両に近づいた。だが、車列の2台目から飛び出した楠本さんともみ合いになり、拳銃を取り出して発砲。1発外した後、さらに近距離から銃弾を撃ち込んで楠本さんを殺害したとみられる。

 もみ合いの最中に織田代表らの車列は路地をバックして現場から退避し、菱川容疑者もまもなく逃走した。この間、わずか1分あまりだった。

「さらなる悪事」公表と警告

 事件の引き金の一つとみられているのは、任侠山口組が、神戸山口組と山健組の組長を兼任する井上組長に対して続けてきた挑発的な言動だ。

 8月27日、任侠山口組は傘下の真鍋組事務所(兵庫県尼崎市)の2階大広間に約40人の報道陣を集め、記者会見を開いた。織田代表は出席しないまま、正午ごろにスタート。ずらりと並んだ6人の幹部らは冒頭から、井上組長の批判をぶちまけ始めた。

 「(織田代表に)嫉妬し焼きもちを焼き、猜疑心(さいぎしん)の塊となるのが井上組長の隠された本性」

 「だらだらといつものように優柔不断」

 「井上組長の口から信じがたい言葉の数々が次々と発信され、裏の人間性を再確認した」

 執拗(しつよう)に個人攻撃を繰り返し、平成27年8月末の指定暴力団山口組の分裂騒動は、井上組長を首謀者とする「大型分裂詐欺事件」だったと指弾。次に会見を開く際にはほかの「悪事」も公表する準備があるとして、井上組長に「陰湿で姑息(こそく)な女々しい嘘、捏造(ねつぞう)、作り話の発信」を今後一切止めるように要求した。

 実は任侠山口組は今年4月末の結成直後にも会見を開き、同様に井上組長を批判。当時は、「神戸山口組の現実は山口組にも劣る」「金を搾り取るだけ搾り取る」などと井上組長の組織運営や集金方法を批判していた。

 これに対し、神戸山口組側は、結成表明後にすぐさま、山健組の副組長だった織田代表らを絶縁処分。5月には、山健組幹部ら3人が神戸市中央区で任侠山口組組員を襲い、後に傷害罪で起訴される事件も発生した。しかし、この事件以降は新たな衝突はなく、神戸山口組は会見に対しても表向き静観する態度を取っていた。

 繰り返される組長批判に、兵庫県警の捜査員は以前から、「任侠道に生きると自称するヤクザがやることとは思えない。やり過ぎだ」と懸念を示していた。会見を機に山健組内で任侠山口組への怒りが沸騰し、事件が起きたとするのが捜査関係者のおおかたの見方となっている。

銃撃役は2人?「なぜ仕留めなかった」

 果たして兵庫県警は射殺事件当日の12日、神戸山口組と任侠山口組による抗争事件とみて、長田署に約90人態勢の捜査本部を設置した。

 16日には菱川容疑者を指名手配し、さらには20、22日に神戸山口組の本部事務所(同県淡路市)と山健組事務所(神戸市中央区)、菱川容疑者の所属組事務所(岡山市北区)を矢継ぎ早に家宅捜索。井上組長ら組上層部が事件に関与した疑いがないか、慎重に捜査している。

 捜査の過程で浮かび上がってきたのは、神戸山口組側の襲撃計画の周到さだ。近くの防犯カメラには菱川容疑者とは別に、車列を後ろから挟み撃ちにし、拳銃のようなものを構える不審な男の姿が写っていた。ほかに織田代表宅の見張り役などもいたとみられ、神戸山口組側は事前に織田代表の行動を把握し、組員らを配置していたとみられる。

 ただ、結局のところ、不審な男は発砲することなく逃走。織田代表の車列には一発も銃が発射された形跡がなく、捜査本部の中には「なぜ織田代表を仕留めようとしなかったのか」という疑問もくすぶっている。

 16日には神戸市北区のバス停近くの歩道で、回転式拳銃2丁と菱川容疑者の身分証が入ったかばんが見つかった。捜査本部は、2丁のいずれかが事件に使用された拳銃の可能性があるとみて、楠本さんの後頭部に残っていた銃弾との照合を進めるとともに、事件の背景を詳しく調べている。

「山一抗争」のトラウマ

 事件を受け、警察庁は対立抗争や内部対立が激化する恐れがあるとして、全国の警察本部に取り締まりや警戒強化を指示。兵庫県警も県内の組事務所の警戒要員を増やすなど厳戒態勢を敷いている。衝突が続けば、暴力団対策法に基づく事務所の使用制限や、組事務所への立ち入りや組員の集合が厳しく規制される「特定抗争指定暴力団」に神戸山口組を指定することも視野に入れる。

 だが、約100人の死傷者を出し、最悪の暴力団抗争ともいわれる「山一抗争」(昭和59年~平成元年)の記憶が色濃く残る神戸の街では、市民らの不安感は増すばかり。19日に開かれた兵庫県議会の警察常任委員会では、委員の県議から県警に任侠山口組側の報復の可能性に関する質問が相次ぎ、「兵庫県民、神戸市民には山一抗争のトラウマがある。なんとしても安全を守ってほしい」という要望も出た。

 県警幹部は「織田代表の盾になって警護役が殺された以上、任侠山口組側の報復は当然考えられる。状況は予断を許さない」と指摘。県警は犯行グループの逮捕に全力を注ぐとともに、〝3つの山口組〟の動向に最大限の警戒を続ける方針だ。