「なぜ1匹にできないんや」「命だからです」 マンションのペット“定員オーバー”…住人vs管理組合の法廷バトル

衝撃事件の核心
ペットは1匹までならOK、2匹目はダメ。そんな管理規約が定められた分譲マンションで、ある入居男性が犬2匹を飼い、再三の注意にも従わなかったことでトラブルに発展した。管理組合側は男性を提訴したが…

 ペットは1匹まで。大阪市内のあるマンションは、管理規約で飼育匹数を制限していた。ところが住民の1人が〝定員オーバー〟の犬2匹を飼育。管理組合の再三の注意にも従わなかったことから、トラブルに発展した。管理組合は飼育差し止めを求めて大阪地裁に提訴したが、住民側は「命をあげたり、もらったりは簡単にはできない」と、生命の尊厳を前面に押し出して反論を展開した。激しい攻防の末に、地裁が導いた結論は-。

注意され「1匹にした」

 舞台は大阪市内の11階建て分譲マンション。入居者の山本一平さん(仮名)は平成24年ごろから、1匹目のペットとして犬を飼い始め、遅くとも昨年には2匹目も家族に加わっていた。

 このマンションはペット飼育可の物件だが、管理規約の細則には「飼育する動物の頭羽数は、一の占有部分につき1頭羽を限度とする。ただし、小鳥(4羽以内)および観賞用魚類はこの限りではない」との規定が設けられている。

 つまり1部屋につき犬や猫なら1匹までしか許されておらず、男性の2匹目の犬は規約違反ということになるのだ。

 ところで、同マンションにはペットの飼い主らで構成する「ペットクラブ」という組織が存在する。ペットがいる住民の加入が義務づけられ、飼育マナーの向上や、他の住民とのペットをめぐるトラブルを防止する目的がある。

 万一、問題が起きたときも、クラブが対応に当たることが管理規約で定められている。近年ペット可のマンションの増加に伴い、「飼い主の会」という名称でも設置が一般的になっている組織がこれだ。

 さて、山本さんの2匹目が周辺に知れるようになって、まずはペットクラブ会長が山本さんに注意して対処を要請した。山本さんは改める様子を見せなかったため、28年5月にはペットクラブ会長と管理組合理事、山本さんとの間で面談の機会が設けられた。

 「管理規約を順守してほしい」との理事らの求めに、山本さんはこう返答した。「6月末までに1匹にします」

 ところが期限になっても山本さんは約束を守らない。改めてペットクラブ会長が注意すると、山本さんから、今度は「里親捜し中」との回答があった。

 理事らは里親が見つかるまでの猶予期間として、改めて期限を1カ月後に先延ばしした。そして2度目の期限が過ぎた8月30日、ペットクラブ会長が山本さん宅を訪問すると、山本さんはついに「1匹にした」と答えた。

防犯カメラには…

 やっと約束が果たされたと、管理組合理事やペットクラブ会長らが胸をなで下ろしたのもつかの間、9月になってマンションの防犯カメラを確認すると、山本さんやその家族がこれまで通り、犬2匹を連れて歩いている姿が写っていた。

 さかのぼって調べると、別の日の映像でも山本さんが2匹を連れている様子が確認できた。「1匹にした」という言葉は言い逃れの嘘だったのだ。

 管理組合は再び山本さんに規約順守を要請。今度は10月15日までに犬を1匹にするよう求め、これについては山本さんも了承した。

 だが今度の約束も、守られることはなかった。

 そうした中、山本さんは10月開催のペットクラブ臨時総会で、2匹飼育を容認するよう規約変更を提案する。だが出席者からは鳴き声など騒音の観点から、2匹飼い世帯の増加は容認できないとの指摘があり、結局、山本さんの提案は否決された。

 しかし、山本さんは諦めない。今度は11月の管理組合理事会への出席を要望。山本さん側の主張によると当日はこんなやりとりが交わされた。

 組合理事「なぜ1匹にできないんや」

 山本さん「命だからです」

 理事「わしは物やと思っとる。犬を車ではねても器物破損にしかならんのや。法律でもそうなっとる」

 確かに民法上は動産扱いだ。だが山本さんはこの発言に憤った。犬を家族の一員と考えている人にとっては、看過できない言いぐさだというわけだ。

 山本さんと組合側の交渉は物別れに終わり、管理組合は今年に入って、大阪地裁に山本さんを提訴。ペットトラブルはついに法廷闘争に突入した。

「命の尊厳」反論も一蹴

 組合側は訴訟で、山本さんに対し、2匹飼育のみならず、すべてのペットの飼育差し止めを請求。さらに弁護士費用など約90万円の損害賠償も求めた。

 一方、山本さん側は「1匹飼育を認めているのに、1匹にしないからと言っていきなり全面禁止にするのはおかしい」と反論。「命をあげます、もらいますとは簡単にはできない」と生命を軽んじるような組合の姿勢に抵抗した。さらに、同じマンションで、以前は犬と猫の2匹を飼育する住民も許容されていたとして自分だけが問題にされるのは不公平だと訴えた。

 大阪地裁の判決言い渡しは今年8月。山本さんに対し、犬の飼育を全面的に禁止することを言い渡し、組合側に損害賠償40万円を支払うよう命じた。組合側の完全勝訴だった。

 裁判所は管理規約の細則規定に着目。飼育者が勧告に従わない場合、ペットの全面的な飼育禁止を可能にしていることを挙げ、「(山本さんは)2匹以上のペット飼育が細則違反だと知った後、違反状態を是正すると述べながら犬2匹の飼育を続けたため、原告は訴訟を起こさざるを得なくなった。(山本さんの)2匹飼育は不法行為を構成する」とした。

 さらに山本さんが主張した他の住民の複数飼育については、現在の細則が制定された段階で、すでに複数飼育していた背景があり、そのときのペットが死ぬまでの猶予措置だったとして、これをもって不平等とはいえないと判断した。

「ルール順守を」

 ペット関連法に詳しい吉田真澄弁護士(京都弁護士会)によると、最近は殺処分ゼロを目指す自治体が多く、飼えなくなったからといっても、すぐに引き取ってくれないケースが多い。

 それゆえ「飼育が問題になれば新たな譲渡先を探すか、別の物件に移るしか方法がなく、ハードルが高い」と指摘。最近のペット問題はこじれやすい背景事情があるという。

 吉田弁護士は「当たり前だが、最初からルールを守って飼育することが非常に大事」と話した。