映画「ライトスタッフ」に憧れ、大空への夢を模型に乗せたミノルタα7000の開発責任者 超絶技法でF104精巧模型を完成

銀幕裏の声
バルカン砲の内部まで精密に再現されたF104の模型

 米有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」をテーマにした映画「ドリーム」が29日封切られる。同計画の功労者である黒人女性数学者を描いた話題作。同計画を題材にした映画は他にもあるが、欠かせない1本が「ライトスタッフ」(1984年)。「ドリーム」にも登場する“マーキュリー・セブン”と呼ばれた7人の宇宙飛行士らを描いた傑作だ。空、宇宙に懸ける人類の夢を追う映画は繰り返し作られる。そんな航空宇宙映画に魅せられ、飛行機模型を作り続けているモデラーがいる。元ミノルタ(現コニカミノルタ)のエンジニア、葛城(かつらぎ)衛(まもる)さん。模型製作の第一人者で国内最大級の模型見本市「静岡ホビーショー」(5月開催)に、「ライトスタッフ」に登場した米戦闘機F104の塗装を忠実に再現した精密模型を出展、会場に詰めかけた模型ファンを魅了した。(戸津井康之)

「ライトスタッフ」に憧れて…

 マーキュリー・セブンには米海・空軍パイロットらが抜擢(ばってき)され、宇宙飛行士になるための厳しい訓練が行われた。一方、“生涯戦闘機乗り”にこだわったテストパイロット、チャック・イェーガーは高高度試験に挑むためF104を命懸けで操縦する。7月に死去した名優で劇作家、サム・シェパードがイェーガーを演じた。

 公開当時、葛城さんは映画館で「ライトスタッフ」を見て感動。映画の中で登場したF104の模型をいつか製作しようと決意した。

 「静岡ホビーショー」のブースに出展された葛城さん製作のF104の周りには多くの模型ファンが集まり、驚愕の声をあげていた。「ライトスタッフ」に登場したF104の塗装を忠実に再現した銀色に輝く20分の1の大迫力の模型は今にも飛び立ちそうだった。

零戦設計の技術を継承

 葛城さんが実機の設計図や米軍の操縦・整備マニュアル、資料写真などから模型用の設計図を作り直し、木や金属板などを加工、一からフルスクラッチで組み上げた20分の1の模型は圧巻だ。

 開閉式のキャノピー(風防)を開けると計器板や操縦桿、射出式シートなどが実機そのままに忠実に再現。機体のハッチを開けるとバルカン砲の内部まで作り込まれている。

 製作期間約4年をかけ、たった1人で完成させた超絶模型のシャープなフォルムには息をのむ。

 実は葛城さんは、宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬ」(2013年)の主人公のモデルとなった零戦設計者、堀越二郎の防衛大学教授時代の“最後の教え子”だ。

 葛城さんは昭和18年、大阪府生まれ。幼い頃から零戦など戦闘機の模型作りを始め、戦闘機パイロットになろうと決意。防衛大に進学し、航空工学を専攻。そこで堀越教授のゼミに入り、軽飛行機の設計などを学んだ。

米軍傑作機のランデブー

 葛城さんは防衛大卒業後、ミノルタ(現コニカミノルタ)にエンジニアとして入社。世界初のオートフォーカス一眼レフカメラα7000の開発責任者などを務めた。

 長年、エンジニアとして忙殺される生活が続いたが、葛城さんは帰宅後、深夜にかけて大好きな模型飛行機を作り続け、これまで数々の大スケールの精密模型を完成させている。

 そんな数あるコレクションの中の一機が、F104と同じ縮尺20分の1の米戦闘機F86セイバー。

 1952年の朝鮮動乱での空中戦をテーマにした米映画「追撃機」(1958年)に登場する当時の最新鋭機だ。名優ロバート・ミッチャムがF86のエースパイロットとして活躍。現在の大阪・伊丹空港にミッチャムの操縦するF86が着陸するシーンも登場する。

 「映画を見た当時、この銀色の機体が格好良くて、いつか模型で作ろうと考えていたのです」と葛城さんは振り返る。

 20分の1サイズというビッグスケールモデルのF86とF104。米空軍機を代表する2機種が並んだ光景は壮観だ。

零戦からジェット戦闘機へ…大空への夢は続く

 葛城さんの超精密模型飛行機コレクションはいずれも模型の域を超えた傑作揃い。

 F104、F86を完成させる前には日本の名戦闘機「零戦」の20分の1の模型も製作している。

 「零戦の座席はパイロットの身長に合わせて上下に可動します。パイロットがコックピットに上るため、機体の数カ所からステップが飛び出てくるんですよ…」

 実際に動かしながら説明してくれたが、もはや模型の域を超えていた。

 「堀越先生から徹底して言われたのは『過去に学びながらも常にアイデアを凝らし、オリジナリティーを持て』でした」

 航空機の設計開発を通じ、防衛大で堀越から受け継いだ設計思想、その教えは、ミノルタでのカメラの研究開発、そして模型作りにおいても連綿と引き継がれている。