中国人組織の〝爆買い〟詐欺 アップルペイ悪用、留学生「買い子」グループが暗躍

衝撃事件の核心
アップルベイを悪用した詐欺事件の構図

 中国人らの犯罪組織が〝爆買い〟を装った詐欺事件を繰り返していた。米アップル社のiPhone(アイフォーン)向け電子決済サービス「アップルペイ」で、他人名義のクレジットカード情報を使って商品をだまし取ったとして、大阪府警が詐欺容疑などで中国籍の留学生の男2人を逮捕していたことが8月、明らかになった。男らはインターネット上で知り合った人物の指示を受け、家電量販店で2日間に高級腕時計やパソコンなど約730万円分を購入していた。埼玉県警も同様の容疑で中国籍の男女4人を逮捕しており、2つの「買い子」グループに同じ中国人組織が指示していたとみられる。警察当局は、カード自体を提示せずに済むアップルペイの決済の手軽さを悪用した新たな手口とみて警戒を強める。(井上浩平)

報酬は転売額の2~3%

 「今回は偽造カードではなく携帯電話を使った詐欺をやってくれ。報酬は大きい」

 府警に詐欺容疑などで逮捕された中国籍の留学生の男(23)ら2人に対し、中国人向けのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて指示があったのは、今年2月下旬のことだった。

 府警国際捜査課によると、2人に指示を出したのは、ネット上で知り合った中国人犯罪組織に所属するとみられる人物。2人は1月以降、SNSでの指示に従い、中国人観光客を装って偽造カードでたばこの爆買いを繰り返していたという。多額の報酬が得られる新たな指示を断る理由はなかった。

 2人は3月26、27両日、指示通り大阪市と京都市の家電量販店に足を運び、アップルペイを使ってロレックスの腕時計4点やデジタルカメラ、ノートパソコンなど17点(約730万円相当)を購入した。捜査関係者は「商品は換金性の高いものばかりだった」と振り返る。

 これらの商品は関東方面に発送された後に転売されたとみられ、転売額の2~3%を受け取っていたという。2人は逮捕後、「日にちや店舗、商品を指定され、アップルペイで決済するよう指示された」と供述。留学中の学費や生活費を稼ぐことが動機だった。

 埼玉県警も4~5月、大阪の事件と同じ3月26、27日にアップルペイを悪用してたばこを大量にだましとったとして、詐欺容疑で中国籍の男女4人を逮捕。両府県警は、同じ組織の指示を受け、同じタイミングで事件を起こしたとみている。

犯人側がバリアに守られ

 事件の鍵を握るアップルペイとは、アップル社のスマートフォン「iPhone」などを使った決済サービスだ。事前にクレジットカード情報を登録しておけば、店頭で読み取り機にスマホをかざすだけで買い物ができる。

 今回の犯行は、アップルペイの利用登録の際に、本来のカードの名義人でない他人がカード発行会社の認証コードを入手することが可能だったことが背景にあるようだ。

 府警によると、組織側がカードの名義人のさまざまなカード情報を把握した上でなりすまし、発行会社に「電話番号を変更した」などと連絡。発行会社から買い子のスマホに認証コードを送らせていたという。利用登録の際の本人確認が発行会社に任されていたことが「盲点」だった。商品の購入時に店側が見抜くことはまず不可能といえる。

 日本では昨年10月の導入以降、対応するカード発行会社が急増している。

 捜査関係者は「犯罪組織はアップルペイのセキュリティーの脆弱性につけ込んでいる。一度、カード情報が登録されてしまえば、犯人側は〝バリア〟に守られることになる」と指摘する。

 大阪の事件では日本人男女8人のカード情報が不正使用された。一体、情報はどこから流出したのか。

バイアグラ購入試み…

 府警によると、流出した可能性が高いとみられるのが、カード情報を盗み取る「フィッシングサイト」と呼ばれる偽サイトだ。

 被害者8人のうち数人は、未承認の医薬品を販売する2つの偽サイトで、バイアグラや育毛剤をカード決済で購入しようとしていた。捜査関係者は「特定のカード発行会社の情報が抜かれていた」と明かす。

 サイバー犯罪に詳しい摂南大の針尾大嗣准教授(情報学)によると、偽サイトの特徴としては、(1)不自然な日本語表記(2)会社の所在地が不明(3)商品の値段が安過ぎる(4)国際郵便で商品を発送することになっている-などがあるという。

 偽サイトだけではなく、中華料理店などでカード決済する際に個人情報を盗まれるケースもあるといい、針尾准教授は「身に覚えのない請求に早く気付けるよう、カードを使った買い物は少額でもしっかりと記録しておくべきだ。カード発行会社の保険サービスを確認するなど、被害を最小に抑えるための予防策を取ったほうがいい」と注意を呼びかける。

「事件は氷山の一角」

 アップルペイのセキュリティーの隙を突き、中国人観光客による爆買いを装った今回の詐欺事件。ただ、2人は偽造カードを使い、たばこを大量購入する事件を繰り返しており、アップルペイを使った犯行に及んだのは、3月下旬の2日間だけだったという。

 アップルペイ事件が発覚したのも、たばこの事件が端緒だった。大阪市阿倍野区のコンビニで3月、偽造カードを使ってたばこ20個(8800円相当)を買ったとして、2人は4月に詐欺容疑などで逮捕された。

 府警は押収した2人のスマホから「指示通りにアップルペイで商品を購入した」などと組織に報告していた形跡を発見。その後、大阪だけでなく埼玉でも同様の事件があったことが判明した。捜査関係者は「一連の事件の上部組織は同じだろう。買い子が離合集散しながら全国を行脚しているようだ」と指摘する。

 訪日観光客の拡大で、もはや不審がられることがほとんどなくなった中国人の爆買い。さらに、不正使用されにくいICカード型決済が日本で進んでいないこともあり、偽造カードを使った爆買い詐欺事件は全国各地で後を絶たないという。しかも、アップルペイを悪用すれば、爆買いに必要な大量の偽造カードを持ち歩く必要もないのだ。

 「今回の事件は氷山の一角に過ぎないだろう。アップルペイのような非接触型決済はさらに普及していくはずで、今後も同様の事件が起きるのではないか」と捜査幹部は厳しい表情で語る。警戒を強める府警では、爆買いした外国人らに対し、積極的に職務質問を進めている。