マルチまがいも横行する中、ビットコイン・セミナーが犯人と被害女性を結びつけた…強殺事件の意外な接点

衝撃事件の核心
滋賀県多賀町の山林で、行方不明となった野田みゆきさんを捜索する捜査員ら=7月31日午後(本紙ヘリから)

 インターネット上の仮想通貨、ビットコインが関係した強盗殺人事件が起きた。名古屋市のパート従業員、野田みゆきさん(53)を殺害して現金などを奪い、遺体を山林に遺棄したとして、愛知、滋賀両県警は8月、強盗殺人と死体遺棄の疑いで岐阜県大垣市の土木作業員、西田市也容疑者(21)と共犯の滋賀県愛荘町のアルバイト少年(18)を逮捕した。親子ほど離れた野田さんと西田容疑者を結びつけたのはビットコインの取引セミナーで、ビットコインの投資ビジネスを手がける野田さんの資産に目をつけた犯行とみられる。市場が急拡大している仮想通貨の世界だが、マルチ商法まがいのネットワークビジネスに使われるなどしてトラブルも頻発している。事件の背景となった仮想通貨ビジネスの実態を探った。(三宅有)

取引セミナーが接点

 事件は、野田さんが6月18日に愛知県春日井市で開かれた化粧品などの販売セミナーに参加した後、行方不明になったのが発端。愛知、滋賀両県警はその日夕に野田さんが西田容疑者らと大垣市のJR大垣駅で待ち合わせ、西田容疑者の車に乗ったことを突き止め、2人を追及。西田容疑者の供述にもとづき野田さんの遺体を滋賀県多賀町の山林で発見し、8月1日に死体遺棄容疑で2人を逮捕。8月20日には、野田さんのスマートフォンや所持金を奪ったとして強盗殺人容疑で再逮捕した。2人は遺棄現場近くの山林で野田さんの首を絞めるなどして殺害した疑い。

 両県警は西田容疑者宅の捜索で野田さんのスマホを発見。通信記録などから、西田容疑者が7月に入り、野田さんのIDとパスワードを使い、野田さんのビットコインを自分の口座に移し、約30万円を現金化していたことが分かった。

 捜査関係者によると、西田容疑者は野田さんが関わるビットコインの取引セミナーで知り合ったという。野田さんが会員として勧誘していたとみられる。

仮想通貨バブル

 2009年に誕生したビットコインは、国の中央銀行が管理しないインターネット上の仮想通貨として商品購入などに使える。ネット環境があれば世界中で使え、送金手数料が金融機関より安く、スマホの専用アプリで買い物の決済も可能など利便性が高いことから利用者が増えている。

 また価格高騰から投資目的としても人気がある。国内の大手取引所では5月に1ビットコインが20万円を突破し、仮想通貨の取引所を登録制とすることを盛り込んだ資金決済法などの改正案が5月25日の参議院本会議で可決、成立した。これで「お墨付きを得た」としてさらに価格が高騰、8月に入り40万円を超えた。

 8月1日にはビットコインが規格をめぐって別の仮想通貨、ビットコインキャッシュとに分裂。取引所が入出金を一時停止するなどしたが、大きな混乱はなく、その後も価格上昇を続けた。ネット上にはこのほか、イーサリアムやリップルなど700種以上の通貨が存在し、仮想通貨バブルの状態を呈している。

 こうした中、仮想通貨を商品として投資グループの会員を募り、会員を増やして報酬を得るネットワークビジネスも増殖している。ネットワークビジネスは化粧品や健康食品などを対象に購買グループを作り、購入者を増やすごとに紹介者に紹介料としての報酬を上乗せする仕組みだが、話題の仮想通貨がいち早く取り入れられた格好だ。

トラブル続出、相談件数も急増

 「市場規模がどんどん大きくなっている今が波に乗るチャンス」

 東京都内の雑居ビルで8月上旬にあった仮想通貨の投資セミナー。値上がりを続ける仮想通貨の価格を示し、主催者は資産運用の魅力を説いた。参加者からも「投資先の通貨を選ぶ基準は?」などと熱心な質問が飛んでいた。

 こうしたセミナーは各地で開かれ、ビットコインの利用法や注目点、今後の見通しなど基礎知識が説明される。ビットコインを資産として捉え、その活用や増やし方に加え、勧誘した会員数に応じ利益も得られるネットワークビジネスの側面も強調されている。

 西田容疑者が参加したのもこうしたセミナーで、野田さんが司会を担当していた。大垣駅に野田さんを呼び出した際、西田容疑者は「少年がビットコインに関心を示している」と、会員の紹介を理由にしたとみられている。

 ネット上では、こうした投資グループが「半年で資産3倍増」などのキャッチコピーで出資を求めるサイトが増えている。ビットコインだけでなく、さまざまな仮想通貨を使ったネットワークビジネスとみられ、家計の足しにしたい主婦や副業を始めたい若者らを集め、セミナーで成功者の講演なども行って会員を増やしているという。

 しかし、出資金の返還に応じないなどのトラブルも頻発。「ITを駆使した仕組みが難しい」と他人に口座開設を任せたため、暗証番号を知られビットコインを奪われたケースもある。国民生活センターへの相談件数は平成26年度が194件、27年度が440件、28年度が634件と急増している。

 野田さんが拠点とした愛知県内でも仮想通貨への投資トラブルの相談は急増しており、県県民生活課の礒貝典子主査は「友人や知人の勧誘で知らないうちに被害に遭うことも多い。(ビジネスは)ネズミ講の形をとるものも多く、説明されても十分理解できなければ契約せず、不審に思ったら最寄りの消費生活相談窓口に相談してほしい」と話す。

仮装通貨ネズミ講か

 捜査関係者によると、野田さんは1人暮らしで、仕出し店のパートをしながら投資事業や知人を介して化粧品などを売るネットワークビジネスを手掛け、同僚にも参加を勧めていた。ビットコインの投資セミナーには最近、仲間とともに関わったといい、パート先の上司は「ここだけの収入では生活できないはずで、どこか別の勤め先か収入源があったのでは」と話していた。

 西田容疑者は高級車に乗っていたが、投資経験はほとんどなかったという。両県警は、ネットワークビジネスで野田さんが資産を持っていると思い込み、それを奪うため殺害に及んだとみて追及。事件の背景として分かった仮装通貨をめぐるネットワークビジネスが無限連鎖防止法違反や詐欺の罪に当たらないかどうかも含めて全容解明を進めている。