「やってることはさべつやで」会社に資料請求すると「日本国籍が条件」で門前払い…トルコ人男性“正義”の法廷闘争

衝撃事件の核心
加盟店を募集していた自動車販売会社に資料を請求したトルコ人男性。「日本国籍が条件」として門前払いされたことに激しく抗議し、「差別だ」として提訴に踏み切ったが…

 「こんなん、さべつやん!」。トルコから来日してもう15年近く。永住者としての在留資格を持つ男性は心の底から憤慨した。加盟店を募集していた自動車販売会社に資料請求したところ、「日本国籍が条件」と何の確認もなく門前払いされたのだ。抗議のメールを送ったが、納得いく説明はない。意を決した男性は自ら訴状を書き、弁護士を立てない「本人訴訟」に打って出た。孤高の法廷闘争に司法はどう応えたか。

「外国人お断り」

 大阪市在住のイエネルさん(40)は約14年前に来日。ITエンジニアなどとして働き、永住資格も取得している。

 ある日のこと、中古車オークションに関心を持ったイエネルさんは、市内の自動車販売会社のホームページ(HP)にアクセス。そこで加盟店募集を行っていることを知り、さっそく資料請求することに。HP上の入力フォームに氏名など必要事項を書き込み、送信した。

 ところが翌日、予想もしなかったようなメールが返ってきた。

 《大変申し訳ございませんが、当社では日本国籍保有者の方を対象としておりますので、外国人の方には資料の送信を見合わせています》

 入力フォームに国籍を記載する欄はなかったが、名前から外国人だと判断されたようだ。メールには続けてこうあった。

 《日本国籍をお持ちであっても、日本語能力に問題がないと弊社が判断した場合にのみ、加盟契約が可能となります。日本国籍をお持ちであり、日本語能力もネーティブと遜色がないという場合には、再度ご連絡いただけば資料を送らせてもらいますが、日本語能力については、最終的には弊社が判断し、不十分な場合には加盟契約を受け付けておりませんので、あらかじめご了承ください》

 「上から目線」を感じたイエネルさんは怒った。何の確認もせずに、自分が培ってきた語学の能力を疑われたのだ。震える手で、さっそくメールを返信した。

 《何言うてるの?そんなあほ見たに話しするな。やってることはさべつやで》(原文ママ)

慰謝料100万円の支払い求めて提訴

 イエネルさんは知人女性に依頼して、さらに詳細な抗議文を会社に送った。

 《御社では特別永住権を保有する在日韓国人とも加盟契約を結んだことがないということでしょうか。また加盟契約を結ぶ際、明らかに日本人であると判断できる顧客にも、日本国籍を有する旨の証明書の提出を義務づけていらっしゃるのでしょうか》

 すると、別の担当者から回答がきた。

 《帰化されて国籍をとられた方であれば、以前の国籍を問わず契約可能ですが、日本国籍の方でも加盟前のヒアリングおよび質疑応答、メールやりとり等にて、契約内容が履行されない可能性があると判断された方、および弊社理念を共有できないと判断された方などの場合は、加盟契約をお断りする場合がございます》

 きっちりと日本語能力を確認し、最終的に会社の裁量で判断する-。そう言っているわけだが、やっていることとは違うと感じたイエネルさんは「今回の差別を放置すると、日本にいる他の外国人のためにならない」として今年3月、会社に慰謝料100万円を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

「自分が正しい」確信して本人訴訟

 イエネルさんは弁護士に依頼しない本人訴訟で訴訟に臨んだ。

 「自分が正しい」という確信があったのだという。訴状も自ら記載した。一般的には十数ページ、大きな訴訟では何十枚、何百枚にも及ぶことがある訴状だが、イエネルさん自作の訴状はA4版1枚の極めてシンプルなものだった。

 「担当者から『外国人に対してサービスしません』と言われました。その原因で会社に100万円を請求します。精神的苦痛に対する慰謝料を請求します」

 訴訟では、会社側の資料送付の拒否が外国人差別に当たるかどうかが最大の争点となった。

 イエネルさんは「資料送付拒否は、メールの文面からも明らかなように、外国人であるという理由だけでされた。憲法14条(平等権)や人種差別撤廃条約に違反する外国人差別だ」と主張した。

 一方の会社側は「差別ではなく入力内容に不備があったからだ」と反論した。イエネルさんが住所欄に「大阪市」までしか記入していなかったことなど、そもそもの内容がずさんだったというのだ。

 その上で、加盟店希望者の事業遂行能力や経営理念の共有可能性について、資料送付の段階から審査を行っていると主張。イエネルさんの入力内容に不備があったことも踏まえ、契約締結の自由の観点から資料送付に応じなかっただけであり、「人種差別を行う意図はない」と差別性を否定した。

「差別」認定、堂々の勝訴

 大阪地裁は8月に判決を言い渡した。結果は20万円の賠償命令。イエネルさんの勝利だった。

 まず判決は、会社側がHPで「必見の資料を無料でお届けしています!」と記載している点に着目。資料請求者は、請求しさえすれば基本的には誰でも資料送付を受けられるとの期待を抱いているとし「特段の事情のない限り、誠実にこれに応じるのが取引通念上の信義だ」と述べた。

 その上で、イエネルさんが受け取った断りのメールに、会社側が訴訟で主張したような内容がない点を重視。資料送付拒否は結局のところ「原告が外国人であることのみを理由とするものだと認められる」と判断した。

 さらに同社の加盟店契約に基づく事業は、日本人でなければ行えないとの事情はなく、日本語能力が必要だとしても日本国籍とは関係がないから、加盟店希望者が日本国籍を持たないことが支障になるとは認められないとも指摘。「日本人と外国人とを合理的な根拠なく、差別的に取り扱ったものにほかならない」として資料送付拒否の差別性を認定した。

 ただ、資料が送付されていてもイエネルさんと会社側で加盟店契約が成立するかは不確定であること、資料送付は会社が無料で行うサービスの提供に過ぎない点を考慮して、慰謝料額については20万円と算定した。

 イエネルさんは取材に対し「私は100%正しい側なので負けるとは思っていなかったが、判決はめちゃくちゃうれしい。私たち外国人は差別されることがあっても諦めることが多かったが、声を上げてよかった」と話した。

 会社側は「専門性の高い事業を行っているため、日本語能力を資料請求時から判断しており、本件においてはずさんな内容から基準以下と判断した」と説明。

 「外国人には資料を送付しない」旨のメールを送った点については「長文読解が不可能と考えて、そのような記載をしたことを担当者は反省している」としながらも、「判決内容は契約の自由および企業活動におけるコンプライアンス上の合理的判断を否定するものであり、控訴を含め検討している」とコメントした。