リケジョ必見! 映画「トリガール!」原作者、中村航さんが愛する鳥人間コンテストの魅力とは…

銀幕裏の声
土屋太鳳が、パイロットを目指すゆきなを熱演する (C)2017「トリガール!」製作委員会

 今や琵琶湖の夏の風物詩となった「鳥人間コンテスト」。先月、第40回の記念大会が開催され、9月1日から同大会をテーマにした映画「トリガール!」が公開される。「体育会系でも文化系でもない。鳥人間コンテストは“エンジニアリング・スポーツ”という新たなジャンルを切り開いたのです」。“鳥人間”をこよなく愛してきた原作小説の作者、中村航(こう)さんはこう強調する。原作のスピンオフ作品を収録した短編集「恋を積分すると愛」を上梓(じょうし)したばかりの中村さんは今年の夏も鳥人間たちを応援するため、琵琶湖へやって来た。鳥人間の魅力とは何なのか? 中村さんに聞いた。          (戸津井康之)

鳥人間に憧れて

 一浪の末、雄飛工業大学へ入学した“リケジョ(理系女子)”の鳥山ゆきな(土屋太鳳)は、数少ない女子の同級生、和美(池田エライザ)に誘われるまま、人力飛行サークル「TBT(チーム・バードマン・トライアル)」に入部する。TBTは全国でも珍しい2人乗りの機体で鳥人間コンテストでの優勝を目指すサークルだった。体力を買われたゆきなは人力飛行機のパイロットに抜(ばっ)擢(てき)されるが…。

 2人乗りの機体で鳥人間コンテストに挑む雄飛大学にはモデルがある。

 原作者である小説家、中村さんの母校、芝浦工業大学(東京都)だ。

 現在、部員約100人が所属する芝浦工大TBTは鳥人間コンテストの常連チーム。平成10年以来、毎年、2人乗り人力飛行機で大会に出場し、20年の第32回大会「人力プロペラ機ディスタンス部門」では2位の記録を達成している。

過酷な世界

 中村さんは幼い頃から鳥人間コンテストをテレビで見ていたというが、強く興味を持ったのは約8年前。

 「作家となり母校に招かれ、学生たちを対象に文章講座などを行っていたのですが、あるとき、TBTの学生が鳥人間コンテストの話について書き、この文章を読んで以来、人力飛行機の世界に惹(ひ)かれたんです。いつか必ず小説で書こうと決めました」と中村さんは振り返る。

 小説を書くため、中村さんは何度も母校を訪れ、TBTを取材。学生から話を聞いたり、鳥人間コンテストが開かれる琵琶湖の会場にも通った。「こんな過酷な競技はないと思いました。たった1度の飛行のために、学生たちは1年を費やすのです」

 《「プロペラってのは、風そのものだと思うんだ。風の起点になるわけだから。完璧な風がないように、プロペラにも完璧はない。このサークルでは、毎年、理想の風を追い求めているんだ…」》

 ひたすらプロペラだけを製作するTBTプロペラ班のOB、通称“ペラ夫”のこの言葉に、部員たちが青春を懸ける理由、その意義が凝縮されているようだ。

パイロットはエンジン!?

 TBTにはプロペラ班のほか、翼班、フェアリング(操縦席のカバー)班など計7班あり、ゆきなはパイロット班に入る。

 人力飛行機は、パイロットがペダルをこいでプロペラを回し、機体の推進力を生み出す。つまり、TBTでは2人のパイロットがエンジンの役割を担っている。

 《「パイロットは設計段階で体重と出力を指定されるんだ」

 「僕と先輩で合わせて体重は125キロ、出力は530ワット。これが今年の機体の仕様だ」

 「制限体重をオーバーしたら、墜落し目標距離は飛べない」

 「750ワットで1馬力…」》

 ゆきなにパイロットの役割について説明する先輩パイロットの言葉には、理系作家である中村さんならではのテクニカルな描写がちりばめられており、人力飛行機や鳥人間コンテストへの興味を沸かせてくれる。

 「パイロットに関しては体育会系の競技といえますが、機体やプロペラなどの設計は文化系の競技。こんな競技は珍しく、私はこれを“エンジニアリング・スポーツ”と名付けています」

女性パイロット誕生!?

 ゆきなを演じた女優、土屋は現役の体育大学の学生でもあり、高い身体能力を持つことで知られるが、今作でTBTのパイロット役を演じるため、自転車ロードレーサーの練習を積むなど、さらに身体を鍛え、撮影に臨んでいる。

 1年かけて部員全員で作り上げた機体を1メートルでも遠くへ運ぼうと、必死でペダルを踏み込む姿は感動的だ。一方、男子学生ばかりの理系大学での女子学生の苦労の様子もおもしろおかしく描かれる。

 「私が通っていた頃、芝浦工大に女子学生は全体の1~2割ほどしかいませんでした。でも、小説の中でも描いていますが、女子学生は真面目で優秀なんです。ゆきなのような理系の女子学生は今後、増えていくと思います。TBTでも将来、ゆきなのような女性パイロットが登場するかもしれませんね」

「来たれ、未来の鳥人間」

 《「権力でもクレジットカードでも人力飛行機には乗れない…」》

 ゆきなの先輩がパイロットの資格について語る名セリフだ。

 近年、TBTに入るために、芝浦工大への進学を志望する学生は少なくなく、小説や映画化で、その人気にさらに拍車がかかりそうだ。

 「ゆきなを主人公にした『トリガール!』では、パイロットに焦点を当てて書きましたが、TBTにはパイロット班を含め7班あり、それぞれが大空への夢を懸けて日々、切磋琢磨(せっさたくま)しています。鳥人間については実はまだまだ書きたいテーマがあります」と中村さんは語る。

 その言葉通り、新刊「恋を積分すると愛」では、プロペラ班やフェアリング班の部員たちが登場する短編「トリボーイ!」などが収録されており、今後の展開が楽しみだ。