泥棒アウトロー人生どっぷり 生活保護受給の83歳が信金強盗を強行したワケ

衝撃事件の核心
刃渡り9センチのはさみを手に信用金庫に押し入り、暴力行為処罰法違反の罪で起訴された83歳の男。刑事裁判の法廷に車いす姿で出廷し、血気盛んな犯行動機を語った

 金融機関を襲うことで「一攫千金」を狙いました-。大阪地裁の法廷で血気盛んな犯行動機を述べたのは、83歳のおじいちゃんだった。言語は極めて明瞭だが、かなり耳が遠い。裁判官の質問にも「聞こえません!」「分かりません!」とよく通る声で応じ、ちぐはぐなやり取りに傍聴席からは失笑が漏れた。前科22犯。生活保護を受けての暮らしに行き詰まりを感じ、はさみを手に信用金庫に乗り込んだ。昭和一ケタ世代の男が大金を求めた理由もまた単純ではあった。「もっとおいしいものを食べ、もっと女の子と遊びたい」

あえなく御用

 6月13日朝、被告は電車に乗って大阪市内の信用金庫支店に向かっていた。

 「失敗したら捕まると思ってドキドキした。到着すると、もうやるしかないと決意した」

 午前9時27分。被告は支店に入るなり、かばんから刃渡り9センチのはさみを取り出した。近くに案内係の女性職員が立っていた。被告は女性の腹部にはさみを突きつけ、「金を出せ」とすごんだ。

 柄の部分をタオルで隠しナイフや包丁に見えるように被告なりの工夫はしていた。ただ、やせ形で色白のおじいちゃんの脅しに、取り乱す職員はいなかった。女性は落ち着いて周囲に状況を伝えた。「支店長を呼んで。刃物を持っている」

 連絡を受け、支店長がやって来て被告に尋ねた。

 支店長「どうされましたか」

 被告「金を出せ」

 支店長「口座はお持ちですか。お話があるなら、あちらへどうぞ」

 冷静に奧の応接コーナーへ誘おうとする支店長。被告は脅しを重ねる。「金を出せ、信用金庫やからあるやろう」

 支店長「話を聞きますので、こちらにどうぞ」

 さあ、さあとばかり、応接コーナーへと連れて行かれる被告。ここに来てもまだ、金が出てくると思っていたようだ。ただ目の前に現れたのは警察官だった。あっけなく、被告は逮捕された。

月11万円の生活保護費受給

 暴力行為処罰法違反の罪で起訴された被告の初公判は8月3日、大阪地裁で開かれた。

 被告は緑色の半袖シャツに紺色のズボン姿。頭髪は薄く、無精(ぶしょう)ひげを生やしていた。信金に押し入ったときは、まだ自力歩行ができていたというが、この日は車いすで出廷した。証言台へと促され、立ち上がろうとしたが、足はプルプルと震え、歩けなかった。そしていきなり、こう話した。

 「歳(とし)いっているので、大きな声でお願いします。83なんで。耳が遠いんです」

 被告は昭和8年生まれ、堺市出身。「まともに仕事しているより、泥棒で生計を立てていた期間の方が多いです」と自ら語ったように、犯罪を繰り返すアウトローだった。

 本人いわく中学中退。工務店の手伝いやパン屋のアルバイト、日雇いの建設作業員など職を転々とし、いずれも長続きしなかった。金がほしくなると空き巣に入り、家人に見つかって包丁で切りつけたこともあるという。

 再犯を重ねてきた被告だが、5年前に大阪刑務所を出所してからは、大阪市西成区のアパートでまっとうに生活していたようだ。

 管理人に生活保護の申請をしてもらい、西成区役所から月11万円の保護費を受け取っていた。うち家賃が4万円余り、さらに身の回りの世話をするヘルパー代金と昼食代として1万~2万円を徴収されていた。

 そして残りの約4万円を日割りにして、1日に1200~1300円を管理人からもらっていた。保護費を管理人が預かり、さまざまな名目をつけて天引きするのは、一時問題になった「貧困ビジネス」でよく見られた手口だ。

 だが大阪市の担当者によると、金銭管理ができない受給者のために、本人とケースワーカーの同意で管理人に任せるケースもあり、一概に違法とはいえない。

保護費をためて…「楽しみは風俗」

 被告が不満を募らせたのは、やはり手元資金の心許なさだったようだ。被告人質問でこう語った。

 「1日1200円ではとても無理です。追いつかん。金たまらん」

 「朝、晩(食事を)買っていたら、行き詰まった」

 とはいえ自炊、節約をすれば、1人暮らしであればやりくりできそうにも思える。足りないという渇望は別の欲求から生じていた。

 供述調書にはこんなことが書かれている。

 《楽しみは、風俗店に行くこと》

 保護費を少しずつ浮かせて、それを原資に風俗に通っていたのだという。ただその欲求をかなえるには、何カ月もの「貯金」が必要だった。

 《こんな生活が続くなら、いちかばちか、強盗して大金を手にいれよう》

 そして計画したのが信金強盗だった。銀行よりは従業員が少なく、狙いやすいと思ったという。

 被告人質問では、検察官から「女性を脅して、本当にお金を取れると思ったのか」と半ばあきれたように問われたが、「80%ぐらい成功すると思っていた」となぜか自信満々に答えた。

 一方で「もう二度としません。(刑務所を出所したら)またマンションに引き取ってもらいます。頼れる親類もないんです」と反省の弁も口にした。

求刑懲役1年に「ありがとうございます!」

 論告で検察側は「動機は金銭目的か刑務所志願なのか、やや判然としないが、身勝手な動機に酌量の余地はない」と指摘した。そして「被告は高齢で運動能力は低下しているが、犯行は悪質。身寄りもなく、再犯に及ぶ可能性は高い」として懲役1年を求刑した。

 弁護側は「保護費をアパートの管理人に握られ、生活に窮していた」と背景事情を説明。「生活保護ビジネスの被害者であった側面も考慮されるべきである」と寛大な判決を求めた。

 被告はといえば、求刑が聞こえなかったようで「何年ですか? 懲役2年?」と聞き返した。付き添いの刑務官から「懲役1年だ」と教えてもらうと、予想外だったのか、検察官に向かって頭を下げ、叫んだ。

「ありがとうございました!」

 8月10日の判決公判で、大阪地裁は懲役8月を言い渡した。補聴器を付けていた被告は「1年ですね?」と主文を確認。裁判官がもう一度、「8月です」と告げた。被告は控訴はしなかった。