国境離島の保全なるか 新たな交付金制度への期待高まる

 
対馬の観光名所、和多都美神社を訪れる韓国人観光客ら=7月8日、長崎県対馬市

 国境近くの離島の振興を図る「有人国境離島法」が今年4月に施行され、新たな交付金制度が始まった。国土交通省が平成23年にまとめた「国土の長期展望」中間とりまとめによると、振興対策が実施されている国内の離島約250のうち、2050年には1割が無人となる可能性があるという。韓国による竹島(島根県隠岐の島町)の不法占拠が続く中、同法は、離島に住む人が増えることで、悪化する国境付近の安全保障環境に対応し、領土を保全しようとする狙いがある。制度への期待は高まっている。(佐藤祐介)

■住民呼び込み効果は不透明?

 有人国境離島法による交付金制度で、島嶼(とうしょ)部では、ヒトやモノの交流が盛んになり、地域が活性化することに期待が集まる。ただ、補助対象者が島民にほぼ限定されたため、観光客で潤う島などからは効果への疑問や懸念の声もあがる。

 「島外の人にも交付金による割引が適用されれば良かったが…」。長崎県対馬市の担当者はこう話した。

 韓国との国境に接する対馬は、韓国・釜山港からわずか49・5キロしか離れておらず、高速船で最短約1時間10分と近く、「日帰りできる海外旅行先」として人気が高い。中心街の厳原(いづはら)町地区では、ホテルや免税店などが次々と開業し、観光需要に沸く。海中からそびえる鳥居が有名な和多都美(わたづみ)神社には観光バスが押し寄せている。

 対馬市によると、今年4~6月に国内から対馬に渡航した人は島民を含め約12万2千人。昨年度と比べると1カ月あたりの平均で約12%増えた。平成28年の韓国からの入国者数も約26万人で23年の約4万8千人の5倍を超えた。

 こうした外国人観光客と“共存”する島にとって、交付金がどの程度効果を発揮するのかは不透明だ。市内の旅館に勤める60代の男性は「安全保障も島が栄えてこそだ」とくぎを刺す。

 一方で、27年の国勢調査によると、対馬市の総人口3万1457人のうち20~24歳は572人。他の年代が約千人を超えている中で少なさが目立つ。大学や専門学校がなく、島内の若者の95%は高校卒業後に福岡や大阪、東京などに出て、多くはそのまま都市部で就職・定住し、島へは戻ってこない。

 観光客が増える中、若い世代の島外流出が続けば働き手は不足する。市の担当者は「観光と若者の呼び込みは同時並行でやらないといけない」と話している。

■事業者向け補助の拡充、期待高いが…

 有人国境離島法の対象となる15地域71島のうち、3地域40島を抱える長崎県では一部の事業への補助が始まっている。同県の島嶼部では若者の流出などの人口減少に苦しんでおり、離島法に伴う交付金制度による地域活性化への期待は高い。

 対馬市は農畜産業など島内の29事業に対し450万~1200万円を上限に補助することを決定。設備投資は1200万円、その他の事業には900万円を補助する。支給条件は、新規事業の場合は3年以内に、それ以外は事業を実施する年度内に従業員を雇用することとなっており、マリンレジャーやレンタカーなどの観光事業も対象となる。

 長崎の対馬、壱岐島ではすでに若者のUターンや都会からのIターンを積極的に受け入れるなど、雇用確保に取り組んでいる。

 横浜市から壱岐市に移住した海女、藤本彩子さん(32)はテレビで見た海女に魅了されてシステムエンジニア(SE)を辞め、昨年2月に壱岐島へ移住した。ウニやアワビを捕り、冬場は地元の漁協で水産品の加工を手伝う。収入は半分以下に減ったが、「好きなことを仕事にでき、毎日が楽しい」と話す。

 現在の主な収入源は漁師を目指す人を対象として国から3年を期限に支給される補助金約13万円(月額)。来年からは自力で生計を立てなければならない。それだけに今回の交付金制度で起業者向けの補助が拡充されたことへの期待も寄せている。

 一方、対馬の阿比留恭二さん(34)は、福岡県内の専門学校卒業後の平成20年に島へ戻り、地元のヒノキを使ってオーダーメードの家具を製作。事業は軌道に乗り始めている。阿比留さんは「今後は事業を拡大して、育ててくれた地元の雇用創出につなげたい。対馬でしかできない仕事はまだある」と話している。

有人国境離島法 今年4月に施行。長崎県や鹿児島県などの15地域71島を「特定有人国境離島地域」に指定。交付金制度によって離島の生活支援をする。具体的には、住民向け航路・航空路の運賃▽農水産物や原材料の輸送費▽旅行商品の宣伝や販売促進費▽民間企業の島内での設備投資資金-などの一部を補助する。

 例えば、本土から100キロの離島を距離換算の運賃でみると、現在のフェリー運賃は平均3500円前後。これをJRの同じ距離の運賃並みの2千円強まで引き下げる。空の便も同様の形で引き下げられる。物流も同様で、本土に農水産物を出荷する際の輸送費のうち80%を補填(ほてん)。島嶼部で起業する場合は事業拡大の際にかかる費用の4分の3を国や地元自治体で補助する。