藤井フィーバー 将棋復権、ブームで終わらせるな

西論
銀河戦予選で平藤真吾七段(手前)に勝利した藤井聡太四段=7月27日、大阪市福島区

 今、日本は空前の将棋ブームだ。テレビではほぼ毎日、将棋の話題が放送され、書店に行っても、将棋関連本の特設コーナーがある。このブームの立役者は、公式戦29連勝の連勝新記録を樹立した最年少棋士、藤井聡太四段(15)である。

 ◆救世主、現る

 もともと将棋は国民的な娯楽だったが、近年は人気が低迷していたといっていい。レジャー白書によると、将棋人口は、昭和57(1982)年にピークで2260万人だったのが、レジャーの多様化を時代背景にその後は1千万人を割り、平成27(2015)年には530万人に落ち込んだ。

 そこに追い打ちをかけたのが昨年10月に持ち上がった将棋ソフトの不正使用疑惑騒動だ。竜王戦七番勝負の挑戦者に決まっていた三浦弘行九段に、対局中のソフト不正使用の疑いが浮上、日本将棋連盟から出場停止処分を科せられた。しかし2カ月後、第三者調査委員会が不正を裏付ける証拠はなかったと結論づけて連盟が謝罪し、谷川浩司前会長ら執行部が責任をとって辞任した。当時、連盟は大きな打撃を受けた。

 どん底にあった連盟を、まさに救世主のごとく救ったのが、昨年9月に史上最年少となる14歳2カ月でのプロ入りを決めた藤井四段だった。

 ただ、今の将棋ブームは一人の天才中学生棋士の力だけで作り上げたわけでもない。環境を変えてしまうような3つの要素による土壌がすでにあったのだ。

 1つ目は、スポーツ界で藤井四段と同世代の中高生選手が大活躍し注目を集めていること。卓球の平野美宇選手(17)は4月のアジア選手権女子シングルスで、世界ランキング上位の中国選手を次々と撃破、最年少で日本勢として21年ぶりの優勝を成し遂げ、6月には世界選手権で48年ぶりに日本にメダルをもたらした。他の競技でも「若い」を通り越して「まだ子供」の中高生が世界の強豪相手に渡り合う姿は、大人も子供も熱狂させる。“藤井フィーバー”もその延長線上にある。

 2つ目は、昨年から今年にかけ、将棋をテーマにした話題の映画2本が公開されたことだ。難病と闘いながら将棋に人生を懸け、29歳の若さでこの世を去った故・村山聖(さとし)九段の生涯を描いた映画『聖の青春』が昨年11月に、今年3月には、中学生でプロになった天才棋士を描いた人気漫画『3月のライオン』の実写映画が公開された。勝負の世界の厳しさ、濃い人間模様は、将棋を知らない人たちにも感動を与えた。

 藤井四段は昨年12月にデビューしたが、その相手は、当時現役最高齢で、それまでの最年少記録保持者だった加藤一二三九段(77)。連勝街道の出発点が“新旧天才対決”という、絵に描いたようなドラマチックな舞台回し。映画の主人公と藤井四段を重ねる人も多かっただろう。

 ◆環境、タイミングそろう

 そして3つ目の要素がインターネットによる生中継である。

 将棋は密室の対局室で行われるため、かつてはサッカーや野球などのスポーツと違って観戦しづらかった。対局は朝から深夜にまで及ぶこともあり、テレビで最初から最後まで中継するわけにもいかなかった。

 それが今はネット中継が盛んだ。今や、対局の模様はネット放送局「AbemaTV」や「ニコニコ生放送」などでライブ中継され、棋士による解説も同時に行われている。スマートフォンが普及した今は外出先でも気軽に見ることができる。

 ネット上では、棋士の食事やおやつが「将棋めし」と呼ばれて話題になり、盤外の楽しさも一般に広がっている。「将棋はよく知らなくても中継は観る」という“観る将”と呼ばれるファン層も生まれた。

 ひとたび注目の棋士が現れれば、爆発的に人気が高まる環境は整っていた。

 ◆分かりやすい解説を

 そこへ、藤井四段はタイミングよく現れ、連勝ドラマを繰り広げた。今年4月、デビューから11連勝の新記録達成のころから報道陣の数は雪だるま式に増えていった。現役最高齢だった加藤九段の引退と藤井四段の連勝記録達成が前後したことも「縁」や「ドラマ」を醸し出した。「僥倖(ぎょうこう)としか言いようがない」などという中学生らしからぬコメントや、昼食のメニューも大きく取り上げられ、あどけないルックスとのギャップも魅力となった。テレビやネット中継の解説者やコメンテーターとしてほかの棋士たちの露出も多くなった。その結果、各地の将棋教室には、入門する子供が殺到したり、将棋関連グッズがそれまで将棋に関心がなかった層にも売れたり、という好循環が生まれている。

 勢いを持ったこの将棋ブームを一過性の「バブル景気」のように終わらせてはならない。この盛り上がりをいかに持続させるか、引き寄せた“ファンの卵”を大切にできるのか。それは連盟が抱えた大きな課題であり、各棋戦を主催する新聞社の役割でもある。

 一番に求められるのは、将棋を知らない人にも理解できるような分かりやすい解説だろう。過去の将棋離れの原因には、「分かる人にしか分からない」という取っつきにくさがあった。

 タイトル戦とはどういった勝負か、段位はどうやって上がっていくのか。新聞ではそうした記事も必要だ。他のニュース同様に分かりやすく、読者に伝えることができるか。そのことを常に心がけていきたい。    (文化部・中島高幸)