運送業界〝闇制度〟のカラクリ 「運転すればするほど収入に」過労運転、重大事故の温床に捜査のメス

衝撃事件の核心
「個人償却制」と呼ばれる仕組み。運転手が売り上げからあらゆる経費を自己負担する代わりに、客から支払われる運送料の大半が収入となる

 経営する運送会社で運送業の許可がない個人運転手に車両を貸与したなどとして、大阪府警は7月初め、貨物自動車運送事業法違反の疑いで、府内の運送会社を摘発したと明らかにした。この会社で導入されていたのは、運転手が売り上げから車両代や諸経費を負担する「個人償却制」と呼ばれるシステム。同社の運転手15人は表向き社員と扱われながら、実質的には運送業の許可を得ていない個人ドライバーとみなされたのだ。会社側、運転手側の双方に〝メリット〟があるとされ、業界では以前からみられた仕組みだが、警察当局は「過労運転や事故につながりかねない」と警鐘を鳴らす。

正社員の2倍の収入も

 府警に貨物自動車運送事業法違反(無許可経営)幇助(ほうじょ)容疑で逮捕されたのは、大阪府吹田市などで運送会社3社を経営する男性社長(58)=同法違反罪で起訴。社長は「個人償却制」で契約した運転手15人=同法違反容疑で書類送検=を事実上の下請けとして働かせる見返りに、仕事を仲介した手数料を受け取っていたとされる。

 捜査関係者によると、社長は吹田市、大阪府摂津市などで運送会社を経営するほか、九州でも事業を展開。熊本県内に営業所を設け、主に事業者間で機械部品や化学薬品などを運搬していた。

 これらの運送会社でとられていた「個人償却制」の仕組みはこうだ。

 運転手は、通常の社員と同様に会社がローン契約で購入したトラックを運転する。ただ、運転手らは、トラックのローンから運送にかかる高速代、ガソリン代や保険料など、あらゆる経費を自己負担する。その分、客から支払われる運送料の大半が運転手の収入となる、という仕組みだ。

 社長の会社では、運送料の18%が手数料として会社に入り、残りの全額が運転手側に支払われていた。諸経費を差し引いても通常の社員として働くより高額の収入が得られていたといい、月額で正社員の2倍以上の給料が支払われていたケースもあった。

 平成21年ごろから個人償却制での契約を行っていたとみられる。押収した資料を解析した結果、個人償却制の運転手だけで24年7月~今年3月、約8億3千万円の売り上げを計上。このうち約1億5千万円が会社側の利益となっていた。

違法もメリットあれば…

 「運送業界では、以前からあった雇用形態だ」

 個人償却制について業界関係者はこう明かす。

 今回のように、個人償却制は無許可経営のいわゆる〝白トラ〟とみなされ、違法となる可能性もある。それでも形態として長年残ってきたのは、経営者側と運転手側の双方にメリットがあるからだ。

 経営者側としては、ほとんど経費を掛けることなく、受注した仕事をさばくことができる。今回の事件では、トラックのローンも運転手が負担しており、会社側が運転手に掛ける費用は、事実上0円だった。

 一方、運転手側としても走れば走るだけ自身の収入につながる上、会社側とのやり取りを通じて仕事の量やペースをコントロールできる。また、事実上の個人事業主となっているが、1台数千万円の大型トラックは、収入が安定しにくい個人で購入するのは難しい。ローン返済は自己負担であっても、会社名義で契約できるというのは大きな利点といえる。

 業界関係者は「雇う側も運転手側もこんな大きなメリットを見過ごすことはできず、個人償却制が事実上の〝白トラ〟であるという認識があっても続けてしまっている」と打ち明ける。

 個人償却制による仕事を求める運転手は少なくないようだ。今回の事件でも、インターネット上で「個人償却制」をうたった求人広告を堂々と出していたことが、発覚の端緒となった。

長時間運転、過労の恐れ

 警察当局が危機感を強めるのには理由がある。

 個人償却制を採用することで、運転手は自身の裁量で仕事量を調整できることになり、会社側の労務管理の対象から事実上外れることになる。つまり、働けば働くほど収入になるという背景から、過労運転を招きやすく、大事故につながりかねないというわけだ。

 長時間勤務に起因するとみられる過労運転による事故は、全国で後を絶たない。

 昨年3月、広島県東広島市の山陽自動車道下り線のトンネル内で渋滞の列にトラックが追突し、2人が死亡、60人以上が救急搬送された事故では、広島県警が運転手に過労運転をさせた道交法違反(過労運転下命)容疑で、埼玉県の運送会社の40代男性役員を逮捕した。神奈川県の運送会社の大阪営業所のトラックが平成27年8月、浜松市で車列に突っ込み6人が死傷した事故でも、大阪西労働基準監督署が、運転手に違法な長時間労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで運送会社の50代社長らを書類送検している。

 今回のケースでも、1日に12時間以上運転している運転手がいたという。捜査幹部は「重大な事故を起こしてからでは遅い」と危機感を強める。

業界の「闇」徹底追及

 実は大阪府警は今年2月にも、個人償却制を悪用して会社名義のトラックを運転手に貸与し、無許可で運送業を営んだとして、大阪府泉佐野市の運送会社を摘発している。これに続く今回の事件着手で、府警は運送業界に蔓延する「闇」をあぶりだそうとしているのだ。

 さらに府警は今回の摘発を発表した直後の7月上旬、大阪運輸支局と大阪府トラック協会に、問題の是正を訴える異例の要請に踏み切った。運輸支局は業界全体へ指導強化する方針を明らかにし、トラック協会も「会員に周知徹底を図りたい」としている。

 大型のトラックを扱う運送業は、運転手のわずかなミスや気の緩みが、大事故につながりかねない。

 捜査幹部は「運転すればするほど収入につながるとなれば、過労運転が常態化することになる。重大事故の温床となってしまう危険をはらんでいることを認識してほしい」と訴えている。