製薬への信頼揺るがした「無届け中国製成分」混入問題…大手メーカーも被害、広がる波紋

衝撃事件の核心
報道陣の前で謝罪する山本隆造社長=和歌山市

 風邪のひき始めや発熱時に使うポピュラーな市販薬の成分が、必要な手続きを行うことなく無断で製造方法を変更されていたら…。今年6月、和歌山市の大手原薬メーカー「山本化学工業」(山本隆造社長)が製造していた解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン」(AA)に安価な中国製AAが無届けで混ぜられていたことが明らかになった。AAは、脳の中枢に作用して熱を下げるほか、痛みを和らげる効果があり、市販薬の成分に使用されるが、同社は中国製を混入した“水増しAA”を大手製薬会社にも出荷。さらに、行政の定期的な立ち入り検査に偽装した書類を提出し、不正を隠蔽(いんぺい)していたことも分かり、「性善説」で成り立つ製薬への信頼を根底から揺るがす事態となった。

質問を打ち切り

 「(中国製AAを混ぜた理由は)コストダウンといった…失礼します」。会見は途中で打ち切られた。

 一連の不祥事で山本化学工業には6月28日、和歌山県から22日間の業務停止命令と業務改善命令が出された。同日、県庁内の会議室で記者団に今回の不祥事への説明を求められた山本社長は「世間の皆さまをお騒がせし、大変申し訳ない」と深々と頭を下げ陳謝したものの、動機に関する質問になると説明をやめ、そのまま足早に部屋を立ち去った。

 記者らはあとを追って質問を続けた。

 --社長の指示はあったんですか

 山本社長「全て私の責任です」

 --国民に対してどう説明されるんですか

 山本社長「今後の業務改善を目指します」

 --書類の改竄(かいざん)は

 山本社長「報道された通りです」

 --安全だと思って中国製を混ぜていたんですか

 山本社長「えー、よく分かりません」

 しばらくやり取りが続いたが、最後は追及を振り切って県庁を去り、混入の動機などの説明責任を果たすことはなかった。

発覚した不正の数々

 和歌山県や厚生労働省によると、医薬品医療機器法(薬機法)では、薬を製造する場合、名称や成分、製法などを独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」に届け出る必要がある。登録内容を変更する場合も新たな届け出が必要だが、同社は平成21年からPMDAに届け出を行うことなく、自社工場で製造したAAに中国製AAを水増ししていた。ただ薬の品質に問題はなく、健康被害の恐れもないという。

 こうした不正が「いつ、誰」の指示があったのかは定かではないが、県によると、山本社長は「違反は知らなかった」と説明。製造部門の担当者は「自分が担当になったときにはすでに中国製を混ぜており、悪いことをしている認識はなかった」と話したという。

 また、AAだけでなく、27年からは抗てんかん薬の成分「ゾニサミド」の製造でも、使用する溶剤を無届けで変更していた。

 県は2年に1回、定期的な立ち入り検査を実施していたが、同社は提出する製造記録を偽造するなどして切り抜けており、内部からの情報提供を受け、今年5月に県と厚生労働省が合同で実施した抜き打ち検査でようやく実態が判明した。

 度重なる不正に同県の仁坂吉伸知事も怒りを隠さず、「嘘をついていただけでなく、(不正を)隠そうとした」と同社の対応を厳しく批判した。

広範囲に影響

 医療用AAだけで国内シェアの5割を占めるとされる同社の不正の余波は広範囲に及んだ。中でも影響が大きかったのは、AAの取引を行っていた各製薬会社だ。

 風邪薬のパブロンシリーズの一部に山本化学工業のAAを使用していた大正製薬には、「安全性は大丈夫か」「山本化学工業の薬は入っていないのか」といった問い合わせが相次いだ。事態の発覚後、山本化学工業のAAは使用中止にしたが、コーポレートコミュニケーション部の担当者は「驚きを禁じ得ない。今後の山本化学工業の対応を注視していく」と話す。

 同じく風邪薬のルルの一部に山本化学工業製を使っていた第一三共ヘルスケアも、他社製への移行を行った。経営企画部の担当者は、これまで販売した山本化学工業製を使用した市販薬について「品質に問題はなく、これまで通り使用できる」と説明するが、同社には一時、150件もの問い合わせがあったという。

 波紋は製薬業界だけに止まらない。同名の別会社で、水着やウエットスーツなどを製造する「山本化学工業」(大阪市生野区)には、勘違いによる苦情や批判が電話やメールで殺到。同社は緊急記者会見を開くなど誤解の払拭に追われ、担当者は「苦情への対応のために正式な業務が後回しという状態になった」と困惑する。

 こうした事態に厚生労働省は、今後、山本化学工業のような原薬メーカーを立ち入り検査する際には、原則的に無通告で実施するように各都道府県に通知。和歌山県はさらに踏み込み、抜き打ちの立ち入り検査を監督権限を持つ施設に対して実施できるように検討している。仁坂知事は「検査を見直す。こんなことが起こらないようにしたい」と強い口調でいう。

 信頼を揺るがす大きな騒動となった今回の事態。余波はまだ続いている。