連続青酸死公判きょう中間論告・弁論 法廷で浮かんだ〝背徳二股愛〟 結婚1カ月で見合い→クリスマスデート→夫葬儀翌日に初詣…被告本人「覚えてない」

衝撃事件の核心
黙秘宣言を一転させて饒舌に語り始めた筧千佐子被告。まもなく4事件のうち夫の勇夫さんを殺害したとされる事件で中間論告・中間弁論を迎える

 全面否認から黙秘を宣言したかと思うと、一転、能弁に-。京都、大阪、兵庫の3府県で起きた連続青酸死事件で、夫や内縁関係の男性ら4人に青酸化合物を飲ませ殺害したなどとして、3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪に問われた筧(かけひ)千佐子被告(70)の京都地裁(中川綾子裁判長)での裁判員裁判は、めまぐるしい展開を見せながら審理の4分の1を終えようとしている。4事件のうち、夫の勇夫さん=当時(75)=を殺害したとされる事件で18日、検察・弁護側双方が中間論告・中間弁論を行う。この間、被告人質問が行われたほか、警察官や遺族、鍵の業者に解剖医、筧被告が勇夫さんと婚姻中に交際していた男性が証人として出廷した。雄弁に語られたのは、筧被告にまつわる「毒」と「金」だった。

黙秘宣言から一転

 連続青酸死の公判は、6月26日の初公判から7月12日の被告人質問までで計9回を数えた。

 筧被告は初公判で「弁護士に任せる」と述べ、弁護側は全面無罪を主張。認知症だとして責任能力や訴訟能力も争う姿勢をみせた。しかし、弁護側から始まった被告人質問で筧被告は当初、検察や裁判官、裁判員からの質問に「黙秘します」と宣言しながら、実際に検察側の質問に移ると、勇夫さんの殺害を「間違いない」と認めるなど一転して冗舌に語り始めた。

 さらに「(弁護人に)黙秘をしなさいと言われた」とも打ち明け、法廷では今後も波乱含みの展開が予想される。

 一方、これまでの審理では、勇夫さんを殺害したとされる事件の前後の状況が、複数の証拠や証人によって語られてきた。

「愛する夫さま」のはずが…

 「2人でこれから楽しい人生を送りましょう。頼りがいのある心優しい勇夫さんに出会えて、私は幸せものです」(平成25年11月24日)

 法廷では検察官が、筧被告が勇夫さんと見合い(同年6月)をした後に送っていたメールの内容を読み上げた。

 「会えば会うほどあなたのことが好きになる」「2人で楽しい新婚生活をしましょう」(同年8月4日)

 「きょうだいの呪縛から解放されて2人で楽しく生きていきましょう。私はどこまでもついて行きます。愛する夫さまへ」(同年10月8日)

 2人の仲むつまじい様子がうかがえる。そして同年11月、筧被告と勇夫さんは結婚する。だが、そのわずか1カ月後、筧被告は別の男性と見合いをしていたというのだ。

 「平成25年12月15日に見合いをした」

 兵庫県内の男性は法廷でこう証言した。筧被告は最初の夫の姓を名乗っていたという。筧被告の印象は「非常に良かった」といい、この年のクリスマスには大阪でデートをしていた。

 勇夫さんは同年12月28日に死亡するが、葬儀翌日の1月4日には神戸・生田神社に一緒に初詣に行っていた。

 筧被告はこの男性について被告人質問で「まったく記憶がよみがえってこない」「覚えてない」と述べている。

落ち着いて119番

 「すみません、こちら…あの…えっと…ごめんなさい、いいですか」

 平成25年12月28日夜、消防にかかってきた119番の音声が、法廷に流れた。電話の声は筧被告だ。勇夫さんの状態を尋ねる消防に対し、筧被告は「床で転んでいます。仰向けです。滑ったような感じで、後ろを打ったみたい」と答えていた。

 到着した救急隊員は証人尋問で、当時の筧被告を「落ち着いていたという印象。気が動転したりした様子はなかった」と証言した。高齢夫婦の事案では、ままあることで違和感は感じなかったというが、後に「青酸死」と聞いて「(違和感がなかったのと)結びついた」と語った。

 勇夫さんは同日死亡した。検察側の証拠によると、筧被告はその8分後、早くも葬儀会社に電話をかけていた。

「(金庫)壊してでも開けて」

 せきを切ったようにしゃべり始めた筧被告は犯行動機について、遺産などではなく「殺したいという憎しみが増長していた」と供述している。だが、法廷では検察側の証人から金への執着がうかがえるエピソードが披露された。

 検察側によると、勇夫さんが亡くなった2日後の12月30日、筧被告は鍵の開錠業者に電話している。

 「金庫なんやけど、開けへんねん。早く来られへん? 別料金払っていいので、特急料金払うから…」

 かなり焦った様子の筧被告。自宅を訪れた業者の男性は法廷で「とにかく急いでいるという感じだった。『壊してもいいので開けてほしい』ということだった」と振り返った。

 一方、筧被告は被告人質問で「だってね、私はお金、何ももらってないから。余分なお金がないから葬式を出せなかった。(電話をしたことは)正々堂々と言えます」とし、やましいことはないと言い切った。

 だが、検察側は筧被告がその後も勇夫さんの遺産について、銀行に対し「なんとか自分の分だけでも引き出せないか」「預金を担保に金を貸してもらえないか」と持ちかけていたことを明らかにした。

「塩が一番近い」

 7月5日に検察側証人として出廷した大阪府警の捜査員が証言したのは、筧被告が青酸化合物の扱いに手慣れている様子だった。

 (1)新聞紙の上におわんを置き、健康食品のカプセルの隙間につまようじを入れて接着面を外して分解し、中身をおわんに移す。

 (2)耳かきで塩をすくっておわんに入れ、かき混ぜる。

 (3)かき混ぜたものを耳かきでカプセル内に入れる。

 捜査段階で筧被告が「毒カプセル」の作成を再現したとされる手順だ。

 捜査員によると、再現実験では青酸化合物の代用品として塩、グラニュー糖、風邪薬の3種類を用意。筧被告に見せたところ「一番近いもの」として塩を選んだという。カプセルに入れた量は「耳かき1、2杯」だったといい、出来上がったカプセルを見た捜査員は「(分解前と見た目に)違いはなかった」と感想を述べた。

 こうした行動に符合するように、勇夫さんを司法解剖した医師は法廷で、勇夫さんの口や食道に毒物を摂取した痕跡がない一方、胃にはただれが確認できたとし「何かに詰めたり、包んだりした青酸化合物を摂取したとみられる」と証言していた。

 青酸化合物は筧被告にとって〝身近〟だったようで、被告人質問では「最初の夫とともに営んでいた工場の出入り業者から入手していた」と述べた。「使用すればTシャツのプリントを消すことができる」と説明されたという。

認知症の度合いは?

 筧被告は被告人質問で「私は老人性痴呆症(老人性認知症)。1週間前のことも覚えていない」としながらも、質問によっては「そこまでぼけてません」と反論している。

 具体的なことは「覚えていない」と繰り返すが、「詳しく覚えていないから、詳しく(法廷で)言うたら嘘になるから、書いてあるの(調書)を読んで」と言い放つ。

 記憶力などにあいまいな部分があることをうかがわせるが、話の趣旨は一貫している印象だ。勇夫さんの殺害も被告人質問では繰り返し認めている。

 果たして公判はどう進展していくのか。審理は裁判員裁判としては過去2番目に長い135日間、48回が設定されており、先はまだ長い。