「姿見せて」立ち尽くす弟 59歳の姉の安否いぜん不明

九州北部豪雨

 「もう一度姿を見たい」。真夏日の強い日差しの中、安否不明の姉(59)を捜し、ぼうぜんと立ち尽くす男性。視線の先では、自衛隊の重機2台がうなりを上げて土砂をかき分けていた。九州北部の豪雨で、連絡が取れない住民が最も多く、捜索が難航する福岡県朝倉市松末地区。豪雨から10日となった15日、地区内に点在する集落を徒歩で訪れた。

 松末地区は市東部の山あいに広がり、高齢者を中心に約680人が住んでいた。1本道が途中で崩落し、車が通れないため、奥の方に行くには歩くしかない。土砂やぬかるみに足を取られ、汗を拭きながら約2時間かけてたどり着くと、中村集落があった場所は土ぼこりが風に舞う荒れ地となっていた。

 道沿いを流れる幅数メートルの筑後川の支流が氾濫し、集落の15軒の多くが土砂にのみ込まれたという。川は消滅し集落のあちこちを水が流れている。

 「こっちに流されたのかも。川があった地点の方も捜していただけませんか」。同居していた姉和子さんを必死に捜す井手邦博さんが日焼けした顔で、捜索を続ける自衛隊員に頼み込んでいた。

 豪雨の時に和子さん1人でいたとみられる平屋は跡形もない。隊員らは迂回路を使って持ち込んだ重機やスコップで付近を掘り起こしていた。「何とか家族の思いに応えたい」と話す隊員の顔には汗が流れ、疲労の色も見えた。

 思うように捜索用の機材を運ぶことができず、崩落場所の道路の復旧もままならない。約10人いる市全体の安否不明者の大部分が松末地区に集中している。隊員は「捜索にも徒歩で向かわざるを得ない。難航している」と率直に認めた。

 松末地区入り口に近い立集落の周辺は、上流から土砂や濁流が流れ込み、住宅や田畑があった平地は、大きな川が干上がったかのような異様な光景となっていた。

 流木などをせき止めるように、壊れた農業用ビニールハウスが立っていた。流されてきた遺体も見つかることがあったといい、自衛隊員ら約100人が、流木を撤去するなどしていた。

 松末地区で被災した犠牲者が、筑後川下流の佐賀県の有明海で見つかったケースもある。ある隊員は「どこをどう捜索していくべきなのだろうか」と途方に暮れていた。