米主力戦闘機をインドが生産…トランプ政権の静かな“対中包囲網”

軍事ワールド
インドでの生産が決まった米戦闘機「F-16」。写真は米太平洋空軍(PACAF)のアクロバットチームの機体で、青森県三沢基地の第35戦闘航空団(35FW)の所属(2017年5月、岡田俊彦撮影)

 インド製のF-16が誕生する-。米国は空軍の主力戦闘機のF-16をインドが生産することを許可、さらにインドが生産した機体を第三国へ輸出することも認めた。米で生産してきたのはロッキード・マーチン(LM)社、そして今回インドでの生産を受け持つのはタタ自動車で知られたインド最大財閥タタ社のグループ企業タタ・アドバンスド・システムズ社(TASL)。両社の提携合意の背景には、米国のグローバルな「武器外交」がある。(岡田敏彦)

 予算は120億ドル

 合意は6月19日にフランスで開催されていたパリ国際航空ショーでLMが発表した。

 米CNNテレビによると、既にインドは最大150機の最新鋭戦闘機を購入する計画を持っており、そのための予算は120億ドルと見積もられている。日本円にして約1兆3440億円で、これは2020年の東京五輪で政府や東京都などが負担する公費に相当する。

 今回、米国とLMが生産の権利を認めたことで、インドが購入予定の150機の多くはこのインド・TASL生産のF-16になりそうだという。

 インド国内での生産はLMとTASLが共同で行い、その生産数はロイター通信などによれば100~250機。インドから他国に輸出することも可能な契約としている。国内での産業活性化をめざし「メーク・イン・インディア」政策を進めるインドにとっては渡りに船の契約だ。

 「ソ連製」に見切り

 F-16は1974年に試作機が初飛行し、米空軍をはじめ北大西洋条約機構(NATO)各国、イスラエルやタイなど世界26カ国で約2600機が配備・運用される旧西側諸国のベストセラー機。イスラエルではイラク原子炉破壊を目的としたバビロン作戦(1981年)に投入され、湾岸戦争(1991年)では米空軍の主力として投入されている。実戦での有用性が証明されるにつれ、導入国も増えていった。

 しかし、開発から40年以上もの間、インドには1機も輸出されてこなかった。それが突然“国内生産”される背景には、複雑な国際関係がある。

 インドは第二次大戦後の独立以降、これまで旧ソ連・ロシア製の武器を主に用いてきた。フランス製の戦闘機のミラージュ2000や、英仏共同開発のジャギュア攻撃機も装備してはいるが、主力戦闘機については1960年代から長期にわたりミグ21を導入・運用(約950機)してきた。90年代後半にはスホーイSu-30(Su-27フランカーの派生型)を採用し、ライセンス生産も開始。最終的には200機を超えるとの報道もある。

 ところが、そのロシアもいまや戦闘機生産では米国と並ぶレベルから脱落したと見る向きは多い。特にレーダーや火器管制装置などの電子機器での性能差は見過ごせないものがあるようだ。実際、インドではSu-30戦闘機をライセンス生産したが、電子システムはイスラエル製のものを搭載した。ロシア製の早期警戒管制機A-50を導入した際も、心臓部といえるレーダーはイスラエル製のものを搭載している。

 ただ、こうした例から一概に「旧ソ連・ロシア製品は性能が低い」とは判断できない。というのも、旧ソ連とロシアには「高性能の兵器を開発できるのに、他国には性能をわざと落したものしか渡さない」という根強い悪評があるのだ。

 ロシアの凋落

 旧ソ連は、輸出用の兵器については意図的に性能を落した輸出専用タイプを生産・販売する“伝統”がある。いわゆる「モンキーモデル」で、輸出先の国との関係悪化や、あるいは輸出先の国が戦争の当事国となった場合に、第三国に兵器が鹵獲(ろかく)され性能が露呈することを想定した予防策だ。

 だが、この方針が祟った。中東戦争や湾岸戦争でこうしたモンキーモデルの戦車などを使った軍が惨敗し、旧ソ連製兵器の評価は下落した。

 さらに旧ソ連崩壊とロシア経済の悪化で兵器産業は弱体化。ガスなど天然資源も輸出では値下げ競争に巻き込まれて経済も振るわず、兵器産業への開発資金は不十分だ。このためロシアが開発中のステルス機「PAK FA」は試作機の初飛行から8年経っても実用化に至っていない。

 一方のインドは独立以来犬猿の仲のパキスタンをはさんで中国とも仲が悪い。パキスタンはイスラム国家だが、2000年の9・11同時多発テロに始まる米国の対テロ戦争に協力する姿勢を示したことから対米関係が改善。昨年2月には米国からF-16戦闘機8機の有償供与を受けている。

 非同盟からの脱皮?

 インドとしては、関係の良くない隣国が高性能機を保有しているのは脅威にあたる。もはやロシアに“お付き合い”して性能が今ひとつのロシア製戦闘機のモデファイ(改良)に苦労するより、生産のライセンスから各種パテント、レーダーやセンサーなどの最新鋭システムまでフルセットで契約できる米国とLMのオファーは魅力的なのだ。

 もちろん米国にとっても多大なメリットがある。今回のF-16生産許可により、インドの武器体系が旧西側標準(米国標準)への移行が望めるのだ。各種通信機器や搭載する各種誘導ミサイル、果ては艦船などとのデータリンクも将来的に導入される可能性がある。

 インドは伝統的に「非同盟」の外交路線を取っていて、特定の国との強い結びつきには慎重な面がある。しかし今回のF-16生産契約は、インドの兵器体系全体が旧ソ連式から米国式に変わる嚆矢(こうし)となる可能性がある。米国にとっては大きな利益となるが、こうした“商売上”のメリットより遙かに大きいのが、地球規模の戦略上のメリットだ。

 ダイヤのネックレス

 F-16は1970年代の開発で、米CNNテレビは「クラシックな戦闘機」と評しているが、LM社によるとインド生産分のF-16は最新型の「ブロック70」。新鋭のAESAレーダーに推力が増強された新型エンジン、赤外線照準システムなどが取り入れられている。外見上大きな変化は、背面の一体型増設燃料タンクしかないが、金属外皮の中身はほぼ全て最新機器に一新されており、1998年に初飛行した中国の最新鋭機「殲10」より性能は遙かに上とみられる。

 近年、中国は海軍を増強させシーレーン防衛に傾注し、インド洋沿岸国の港湾整備を支援する「真珠の首飾り戦略」を進めている。一方のインドはこれに対抗し、アフリカ東部から東南アジアまでに拠点を設け、真珠の首飾りのエリアをカバーする「ダイヤのネックレス」構想を持っている。

 いずれもペルシャ湾からの原油輸送ルートを確保するためのものだが、中国の東シナ海と南シナ海への覇権確立を危ぐする米国や日本はインドの構想を後押しする立場だ。

 

インドが最新鋭戦闘機を持って対中抑止力を高めるメリットは大きく、特に米国にしてみれば将来的に軍を派遣・駐留させる必要性が減少する。

 対中包囲網

 さらに6月末には、米国務省が台湾に対して約14億2千万ドル(約1590億円)相当の武器を売却する方針を決定し、議会に通知したと発表。防空用の対空ミサイルSM2のほか、コンクリートなどで防護された掩蔽壕(えんぺいごう)破壊用の有翼滑空爆弾AGM-154C「JSOW」56発など7品目が売却対象となっている。

 特に、敵の防空レーダー・迎撃ミサイルシステムを破壊する、レーダー電波探知ミサイルのAGM-88B「HARM」60発の売却は、直接的な自国防衛ではなく、敵の防空網の制圧を可能とするだけに注目される。これらの兵器はオバマ政権時代には台湾から売却の要請を受けつつも米国が頑なに断ってきたものだ。

 インドに台湾と、歴史的に中国と何度も紛争をしてきた両国への武器供与は、特に海洋において覇権を目指す中国に対し、トランプ政権は静かに「対中包囲網」を構築していく方針のようだ。