「横綱」は数百万円? 金品飛び交うメジロ鳴き声バトルのウラ 愛好家12人の自宅を捜索すると…

衝撃事件の核心
小鳥の鳴き声の美しさや回数の多さを競う「鳴き合わせ会」。高齢者を中心に愛好家は全国に約1万5千人いるとされる。番付が「横綱」のメジロなら数百万円で取引されることもあるという(一部画像は全国野鳥密猟対策連絡会提供)

 「チィチィチィチィ…」。かわいい鳴き声で人間を癒やしてくれるメジロ。その鳴き声の美しさや回数の多さを競う「鳴き合わせ会」というイベントをご存じだろうか。5年前から、国産メジロを新たに自宅で飼育することが禁じられたが、愛好家は高齢者を中心に約1万5千人いるとされ、中でも大阪は全国大会が開かれるほどの「本場」だ。優勝したメジロは数百万円の高額で取引され、暴力団の資金源となっていたこともあるという。そんなメジロをめぐる強制捜査が表面化した。国産メジロを自宅で違法に飼育している疑いがあるとして、大阪府警が5月、鳥獣保護法違反容疑で、府内の愛好家12人の自宅を捜索し、メジロ約170羽を押収したのだ。〝優秀〟なメジロを入手しようと密猟も横行し、「動物虐待」との声も聞こえる鳴き合わせ会の実態とは。(井上浩平)

元メンバーが情報提供

 「自分はやめたのに、今も鳴き合わせ会を楽しんでいる者がいる。不公平で腹が立つ。許せない」

 野鳥の密猟対策に取り組む京都市の市民団体「全国野鳥密猟対策連絡会」(密対連)に1月下旬、かつて鳴き合わせ会に参加していたという人物から匿名の情報が寄せられた。

 この人物が指摘する鳴き合わせ会は、毎年1~4月の日曜日、堺市西区の「浜寺船尾会館」で開催されていたものだ。鳴き合わせ会自体を取り締まる法令はないが、これほど怒りの声を上げるのは、競技で使われる国産メジロの飼育が原則、鳥獣保護法で禁じられているからだ。

 府警によると、国産メジロは平成24年3月までに市町村に登録していれば、1年ごとに登録を更新して1世帯1羽まで飼うことができる。同年4月以降は新たに飼うことが禁じられたが、多数の国産メジロを違法に飼育するケースが各地で横行していた。

 堺市の鳴き合わせ会をめぐっては、密対連が20年と25年の2回、中止するようメンバーに要請していた。情報を寄せた人物もかつては同会のメンバーだったが、密対連の要請などを受けて飼育の違法性を認識し、脱退したという。にもかかわらず、他のメンバーが相変わらず違法行為を続けていることが許せず、「告発」に至ったようだ。

 府警保安課は密対連を通じて通報を受け、2月下旬に内偵捜査に乗り出した。

「横綱」なら数百万円

 ある日曜日、捜査員が会場の浜寺船尾会館近くで張り込んでいると、布で覆った鳥かごを小脇に抱えた中高年の男性らが現れた。まさに「勝負師」といった表情で、次々と会館に吸い込まれていった。

 「チィチィチィチィ…」。男性らが会館に入ってしばらくすると、中からメジロと思われる小鳥の鳴き声が漏れ聞こえた。

 捜査関係者によると、鳴き合わせ会は、鳴き声の美しさや回数の多さを競うのが一般的なルール。3分間で400~600回さえずり、優勝する鳥は800回近く鳴くという。回数によって、大相撲のように鳥を「横綱」「大関」などと格付けして楽しむグループもあるとされる。

 密対連などによると、通常はメジロ1羽が1万~2万円で密売されるが、好成績を収めた「横綱」なら数百万円で取引されることもあった。少しでもよく鳴く一羽を見つけだそうと、密猟する愛好家もいる。

 過去には、密猟したメジロを愛好者に販売していた暴力団関係者もいたという。ただ、ある捜査関係者は「最近は暴力団がシノギ(資金獲得源)にしているような話は聞かない。かなり昔のことではないか」と指摘する。

 府警は約2カ月半の捜査で、会場近くに停車していた乗用車の持ち主を割り出すなどし、50代後半~80代の府内に住む男性12人を特定。「愛鳥週間」初日の5月10日に合わせ、違法飼育の鳥獣保護法違反容疑で12人の自宅を家宅捜索した。

放鳥に向けリハビリ必要

 12人は4月、市町村の登録を得ずに、国産メジロを自宅で飼育した疑いが持たれている。

 「法律で禁じられているとは知っていたが、鳴き合わせ会に出すために飼育していた」。捜索を受けた男性らは任意の事情聴取に対し、いずれも素直に容疑を認めた。

 府警が押収したのはメジロ168羽と、国産の飼育が禁じられているオオルリ2羽とウグイス1羽の計171羽。1人でメジロ47羽を飼っていた愛好家もいた。トリモチなどの捕獲用具も押収し、密猟を行っていた形跡がうかがえたという。

 メジロなどは府動物愛護畜産課が鑑定し、くちばしや脚の長さ、体毛の色などからすべて国産とすでに特定。府警は近く書類送検する方針だ。鑑定を終えた鳥は「元々は野生のものだからどこかで放すことになる」(捜査関係者)が、当面は〝リハビリ〟が必要なため、保管を続けるとみられる。

 捜査幹部は「鳴き合わせ会では、鳥かごを布で覆うなどして事前に周囲が暗い状態を作る。いきなり明るい場所に出すことでメジロを驚かせて鳴かすが、体力を使うので弱ってしまう」と説明する。さらに「狭いかごの中で飼育して羽が傷ついたり、逃げ出さないようにするためか、羽が部分的に切られたりしている鳥もいた」とも明かす。

「本当はバクチでは…」

 一部の愛好家が、違法に飼育しながら執着を見せる鳴き合わせ会。その実態はどのようなものか。

 府警の調べに対し、ある愛好家は「参加者から1人当たり数千円の参加料を取り、成績上位者から順番に米や食用油などの食品や日用品を全員に渡していた。現金のやり取りは一切していない」と説明した。

 一方、平成4年の設立以来、鳴き合わせ会の中止を求め続け、全国の警察とも連携してきた密対連の関係者は異を唱える。

 密対連の中村桂子事務局長は「九州などでは日用品を賞品にすることもあるが、鳴き合わせ会の〝本場〟といわれる大阪で日用品が賞品に並ぶのを見たことがない。実際はお金を賭けるばくちを行っていたのでは」と指摘する。

 密対連の調べでは、鳴き合わせ会の愛好家は全国に約1万5千人いるとみられ、そのうち約950人が活動している大阪は一大勢力と目されている。

 鳴き合わせ会に詳しい関係者によると、鳴き声の回数をカウントする特殊な計測器を開発したのも大阪の関係者といい、販売価格は1台約250万円。開発者らは全国の愛好家にリースすることで巨利を得ているともささやかれる。

 この関係者は「普段の鳴き合わせ会は地域ごとに行われているが、『われこそは』という愛好家が自慢のメジロを持ち寄って競う『納会』と呼ばれる全国大会が、大阪で毎年のように行われている」と明かす。

 ただ、今回捜索を受けた12人を含め、愛好家の高齢化が進んでいる。

 中村事務局長は「メジロを飼育しても問題のなかった時代もあり、昔取った杵柄(きねづか)で年配の人を中心に楽しんでいるのだろうが、密猟して羽を切るなどの行為は動物虐待でしかない。こんな遊びはいい加減にやめるべきだ」と訴えている。