無言の「間」さえも感動的だった 浅田真央さん引退会見、行間に万感の思い

スポーツの言葉たち
引退会見終了のあいさつで、報道陣に背を向けて涙を拭う浅田真央選手=12日午後、東京都内のホテル

 「行間を読む」とは文章には書かれていない筆者の真意をくみ取ることだが、記者会見でも、そういった姿勢が発言者の胸の内を知る上で非常に大切な場合がある。人柄そのままの丁寧で真摯な受け答えが多くの人の共感を呼んだ浅田真央さんの現役引退会見にも、それが当てはまる気がする。

 例えば、会見の最後に浅田さんが述べた「スケート人生で経験したことを忘れずに、これから新たな目標を見つけて、笑顔で…前に、進んでいきたいと思っています」とのあいさつ。報道陣に背を向けて目元を拭い、詰まりながら発した言葉の「行間」には、浅田さんのフィギュアスケートに対する万感の思いがにじんでいた。

 「間」を辞書で調べると「あいだ」や「すきま」「その場の雰囲気」などのほかに「話の中にある無言の時間」との意味もある。前述の浅田さんのあいさつで言えば「…」の部分。「…」を省いて「笑顔で前に、進んでいきたいと思っています」と記すと、実際とはかなりニュアンスが異なるように思える。

 「…」は「間」を強調させるためにあえて挿入した記号だが、「、(読点)」にも意味がある。国語の授業で教科書を朗読する際に、「ちゃんと『、』で区切りなさい」とずいぶん注意された記憶があるが、浅田さんのあいさつから読点をなくして「笑顔で前に進んでいきたいと思っています」とすると、さらにあっさりとした感じになり、「間=場の雰囲気」がうまく伝わらない。

 ともあれ、スポーツ選手の引退会見に涙はつきものだ。詰めかけた報道陣も、会見の途中から“泣かせにかかる”のが一般的。「現在の心境は?」「引退を決めたのはいつ?」などお決まりの問いかけの後に「一番つらかったことは?」「自分に言葉をかけるとしたら?」といった感情に訴えかける質問を浴びせる。

 そう考えると、引退会見はある意味、スポーツ選手が直面する「最後の試練」なのではないか。海千山千のベテラン選手も対応を誤れば、イメージダウンは免れない。発した言葉や仕草(しぐさ)だけでなく、涙の後に自然と生まれた「間」さえも、浅田さんの会見は感動的だった。(北川信行)