「直ちに廃止」先鋭化した〝脱原発〟 「政治でなく法的スキームの問題」…科学、国益考慮せず

弁護士会 政治闘争(5)
日弁連が平成23年7月に表明した「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」(複写)。「直ちに廃止」などと原発に対する厳しい表現が並ぶ

▼(4)証拠なしに「慰安婦強制連行」「性的奴隷」…から続く

 東京電力福島第1原発の事故を引き起こした東日本大震災の大津波から2週間。平成23年3月25日、民主党政権の官房長官(当時)、枝野幸男(52)が記者会見で同原発から30キロ圏外への自主避難を促し、混乱は収まるどころか拡大の気配が漂っていた。この日、日本弁護士連合会(日弁連)は会長(当時)の宇都宮健児(70)が会長声明を出した。

 《原発の新増設を停止し、既存の原発については電力需給を勘案しつつ、危険性の高いものから段階的に停止すること》

 折しも同日、東電は夏場の電力需給予測を発表。福島第1、2原発などの停止で、850万キロワットもの深刻な電力不足になることが予測された。元経済産業省幹部(61)は振り返る。

 「《電力需給を勘案しつつ》は、むしろ常識的な線。電力不足で国民が困っていなかったら、『即時停止』の主張があったのかもしれない」

 しかしその後、短期間に繰り出された日弁連の意見は、原発に対する厳しい姿勢を急速に強めていく。同年5月6日付の「エネルギー政策の根本的な転換に向けた意見書」では「電力需給を勘案しつつ」の文言は消え、運転開始後30年を経過した原発や、付近で巨大地震が予見されている原発の「運転停止」を求めた。

 さらに5月27日付の宣言では「速やかに運転を停止」に変わり、7月15日付の意見書は、前記の原発については「直ちに廃止」、その他の原発も「10年以内にすべて廃止」と、表現を先鋭化させた。

法律家集団がなぜ

 実は日弁連は約40年前、昭和51年10月の人権擁護大会で既に原子力の利用を問題視する決議をしている。ただ、日弁連関係者によると、原発への姿勢を強めた契機は、平成12年の人権擁護大会で採択された「エネルギー政策の転換を求める決議」だという。

 日弁連はここで原発の新増設の停止や既存原発の段階的廃止を明記。現在まで続く意見の土台となり、たびたび引用もされている。

 同決議は11年に発生した福井の日本原電敦賀2号機での1次冷却水漏れや、作業員2人が死亡した茨城・東海村JCO臨界事故が背景にあった。福島第1原発事故は、さらに厳しく「脱原発」を求める第2の転換点となった。

 なぜ弁護士組織が、純然たる法律問題とはいえない「原発」の是非に踏み込むのか。ある弁護士は「12年決議の題名『エネルギー政策の-』は、原発が極めて政策的・政治的案件だということを図らずも認めている」と指摘する。

結論ありき

 原発問題の多くは、日弁連の公害対策・環境保全委員会にあるエネルギー・原子力部会で議論される。同部会に数年前から携わる弁護士、浅岡美恵(69)は京都大を卒業後に弁護士登録。京都弁護士会長、日弁連副会長を歴任し、消費者保護や地球温暖化などの環境問題に関わってきた。

 浅岡にとって、原発は環境問題の延長線上にあるという。「私たちにとって原発は政治的な話ではない。例えば規制基準はどうあるべきかといった法的なスキームの問題だ。法的な問題に意見を言わないということはあり得ない」

 安全保障関連法案への反対運動を展開する日弁連が主張した「憲法論に立った行動」と同様、すべて法的問題に結びつける趣旨の主張だろう。こうした論法には「我田引水」や「論点すり替え」も透けて見える。

 北海道大の特任教授、奈良林直(ただし)(原子炉工学)は、かねて日弁連の意見に疑問を感じていた。「少なくとも原子炉の仕組みを知っている人の意見ではない。『反対』の意見ばかりではなく、科学や技術の進歩の話も聞いてもらいたい」

 国のエネルギー政策は、最新の科学・技術的知見を踏まえ、国益や国民生活への影響を含め総合的な政治判断で決められるものだ。原発の運転を止めた一部地裁の仮処分決定にも色濃くにじむ「絶対的な安全」という不可能なゼロリスクを求め、「直ちに廃止」と踏み込む“脱原発”は結論ありきではないか-。ただ、こうした異論も「私たちは科学者ではない。法的観点からの意見だ」と断じられると、永遠に議論はかみ合わない。(敬称略)  =(6)に続く

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 【用語解説】国のエネルギー政策

 日本の中長期的なエネルギー政策の指針となっているのは「エネルギー基本計画」。ほぼ3年ごとに改定され、前回は平成26年4月に閣議決定されている。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発の活用方針を明記。原子力規制委員会が規制基準に適合すると認めれば、「その判断を尊重し原発の再稼働を進める」としている。今年はこの基本計画の改定時期に当たる。