飛田、松島…風俗店なのに警察が「掃討作戦」を実行しないワケ スカウトマンが語るウラ

衝撃事件の核心
昔ながらの日本家屋が建ち並ぶ松島新地。あちこちで「そこのお兄さ~ん、いらっしゃーい」と「やり手婆」の声が飛ぶ=2月21日夜、大阪市西区

 飛田新地、松島新地といえば、聞いたことのある人も少なくないだろう。かつては華やかな遊郭だった赤線(公認の売春地帯)地域だ。今も日本有数の「ちょんの間」街、つまり風俗街である。客が店に金を支払い、女の子と本番行為を行う性風俗店が乱立するが、不思議なのはどの店も「料理店」として営業許可を出していること。菓子などを〝料理〟として提供し、「店員と客の自由恋愛」という体裁で売春が行われる。実態と明らかに異なる届け出なのに、なぜかほとんどの店舗が警察当局の摘発から逃れている印象が強い。当局は本気を出せばできそうな「掃討作戦」をなぜ実行しないのか。その背景を探った。(桑村朋)

「売春供述」が決め手

 「はい、そこのお兄さ~ん、いらっしゃ~い」

 大阪市西区の市営地下鉄中央線、阪神なんば線の九条駅からほど近くにある松島新地。市民が憩う商店街「ナインモール九条」を抜けると突如、昔ながらの日本を感じさせる建物が現れ、あちこちから「やり手婆」と呼ばれる客引きの高齢女性の声が聞こえる。こちらに向けて手招きし、中では化粧をした20~30代の女性が手を振って客を今か今かと待っていた。

 何とも異様な光景。地元の人たちが自転車に乗って普通に通り、地域に溶け込むようにたたずんでいるのも驚きだ。現在営業しているのは約90店舗。約160店舗を構える飛田新地(同市西成区)に次いで国内2番目の規模とみられるが、飛田より金額は比較的安く、愛好家も多い。そんな一大風俗エリアで先日、警察による店舗の摘発があった。

 大阪府警西署は1月、売春防止法違反容疑で、松島新地の料理店「恋心(ここ)」の経営者の女と引き子役にあたる「やり手婆」の女の計2人を逮捕。逮捕容疑は共謀し、昨年11月6日と25日の夜、店内で20代と30代の女性に男性客2人を売春相手として引き合わせたとしている。同署の調べに、2人は「料理を出すことはありません」と容疑を認めた。

 同署などによると、店は少なくとも平成25年1月から料理店の許可を取って営業。20分1万円で、10分増えるごとに5千円が加算されていくシステムだった。同署は実際に性的サービスを受けた帰りの男性客から「売春営業を受けた」との話を聞いて捜査を始め、逮捕にこぎ着けたようだ。

 ただ、男性客の話を聞くだけで逮捕できるなら、もうすでに新地が壊滅していてもおかしくはない。どの店舗も実質、「性風俗店」なのは明らかだが、なぜか警察による摘発は少ないのが現状だ。

 松島新地では4年前、店舗の経営者や、店に女性を送り込んだスカウトグループの関係者らを一斉逮捕。暴力団関係者を通じてグループと知り合い、性接待などを受けた男性警部補が処分される事態にまで発展した過去がある。ただ、それ以降は大規模な「掃討作戦」はみられない。

売春防止法施行で「料理店」に…

 そもそも松島新地はいつの時代に誕生し、なぜ「自由恋愛」の営業スタイルになったのか。

 昭和33年発行の「松島新地誌」(松島新地組合)によると、かつては「松島遊郭」と呼ばれ、今から約150年前の明治元年に設置許可が下り、翌年に開設された。「松島」という地名は寺島という地域に松の大木があったことが由来といわれているそうだ。今とは別の場所にあったが、先の大戦中の大阪大空襲で大半が焼失。現在の場所に移ったのは戦後のことだ。

 しかし、昭和33年に売春防止法が施行。売春行為そのものが法律に禁止と明記され、遊郭などの流れをくむ売春の実質的公認地帯だった〝赤線〟が消滅した。松島の各店舗の存続も危うくなり、各店舗は届け出上は「料理店」として営業許可を取得するという〝抜け道〟を考案。「店員と客による自由恋愛」という名目で性的サービスを提供するようになり、当局側が黙認する形で続いてきたとされている。

 飛田新地など他の遊郭も同じ理由から同様の営業手法になったというのが通説で、現在も「~新地」などの呼び名で性風俗店の名残が残っている。今でも店に行けば、まずはじめに茶や菓子がふるまわれる。これも「料理店」としての体裁を保つため。当時の営業許可の名残のようなものだ。

 ただ、やはりどうしても気になるのは、明らかな売春行為なのに、なぜ警察は「料理店」としての営業許可を認めているのか、そして積極摘発をしないのか、だ。

警察も「グレーゾーン」黙認?

 「警察はグレーゾーンだと認識しながらも、店がなくなったときの社会のリスクを考えて料理店の営業許可を出しているはずだ」

 そう語るのは、飛田新地の内情を描いた「飛田で生きる」(徳間書店)の著書で知られる杉坂圭介氏。飛田新地で約10年の店舗経営経験があり、今はスカウトマンとして活動する杉坂氏は「世の中から性風俗店がなくなれば性犯罪が増えかねない。そうした社会的リスクを考え、グレーゾーンの料理店を黙認して営業許可を出しているのでは」と指摘する。

 摘発件数が少ない背景については、「街を取り仕切る料理組合の存在が大きい」とみる。

 新地で店を新規に構える場合、料理組合の許可を得なければならないが、そこでは厳しいチェックが行われるという。「組合は暴力団の徹底排除など、安心安全でクリーンな街にするよう努めている。もし、暴力団とつながりのある店が見つかれば、組合で自主廃業を促すこともある。警察も営業許可を出す際、『ちゃんと組合の許可は下りるんだろうね』と新規参入者に話すようだ。暗黙の協力関係があるのかもしれない」と話す。

 飛田新地では、組合を挙げて定期的な清掃活動を行うほか、街の防火のために水の備蓄を行うなど、「きれいな街」を常に心がけている。松島新地でもいたる場所に「麻薬撲滅」や「暴力追放の街」などと書かれた看板が掲げられ、飛田と同様、街を取り仕切る料理組合がクリーンな街を意識しているようだ。

「警察も組合を信頼」

 「過去の摘発店舗は、店員が覚醒剤をやっていたり、暴力団とつながりがあったりしたところが多い。売春行為は別の事件から波及する形で問われることがほとんど」と杉坂氏。警察も数カ月に1回、住民票の確認など各店舗の名簿チェックを行うが、組合が犯罪の芽を事前に見つけて対処していることも多く、「組合の活動が摘発数を必然的に少なくしているのだろう。警察もある意味、組合を信頼している」とする。

 とはいえ、松島関係者の関係者は「最近は摘発がなかったから本当に怖い。一斉摘発なんてあったらどうしよう」と戦々恐々としている。

 「料理店内で何が行われているかという事実関係は確認しづらいが、売春行為を見つければ逮捕する。それだけだ」と捜査関係者は語る。

 「何でも透明に」との考えが強い現代社会で、なおも残るグレーゾーンの世界・新地。料理組合が自警団的な役割を続ける限り、警察は店舗の積極摘発に動かない方針なのか。犯罪を抑止し、健全な社会を保つため、グレーゾーンを見て見ぬふりをする…。暴力団を「必要悪」とする一つの価値観とどこか通じるものがあるのかもしれない。