ドス黒過ぎる!スター教授「裏の顔」 耐震建築〝権威〟、女性にモテモテ「遊び好き」…ふっかけた賄賂1300万円

衝撃事件の核心
耐震技術研究をめぐる大阪大大学院教授の汚職事件の構図

 人の足元を見て値段をふっかけるのは何も商売人に限ったことではない。大阪大と中堅ゼネコンなどが共同実施した耐震技術研究をめぐり、阪大大学院工学研究科教授の倉本洋(ひろし)被告(57)=収賄と背任の罪で起訴、休職中=が摘発された汚職事件。「産学連携」の名の下にエリート教授の地位を利用し、4社から総額1300万円近くの賄賂をせしめていた。「自分の利益になる人には丁寧だが、そうでない人には対応が変わる」。不正のぬかるみにはまり込んだ倉本被告の「裏の顔」は事件を機に露呈し、耐震建築分野で築いた名声はあえなく崩れ去った。(吉国在)

「授業は面白くて丁寧」

 「研究も後輩の指導も妥協しない。間違いなく、コンクリート耐震分野のスペシャリストだ」

 倉本被告がかつて在籍した豊橋技術科学大大学院(愛知県豊橋市)でともに勤務した男性准教授はこう評価する。

 倉本被告が名声を得るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

 昭和61年3月に大阪工業大工学研究科を修了。中堅ゼネコン「鴻池組」の研究員として下積みを経験し、平成4年7月に東京大工学研究科で博士号(工学)を取得した。その後、国土交通省国土技術政策総合研究所(当時)の研究室長などを歴任。20年4月には現職の阪大院工学研究科教授へとステップアップした。

 複数の論文が日本建築学会などで表彰され、建築耐震工学の権威としての地位を徐々に固めた倉本被告。教鞭をとる姿も、スター教授らしく他の教員にはない魅力にあふれていた。

 阪大工学部3年の女子学生(22)は「授業が面白くて丁寧に教えてくれる優しい先生だった」と人気ぶりを力説する。

昼は研究、夜は北新地

 自らの研究には人一倍熱心だったが、いわゆる真面目だけが取り柄のつまらない男ではなかったようだ。

 知人の大学教授によると、倉本被告は「明るい性格で遊び好き」。女性にもモテたといい、夜な夜な大阪有数の歓楽街・北新地で飲み歩いた。

 休日は得意のゴルフに明け暮れた。金やプラチナの先物取引にも造詣が深かったようで、これらマネーゲームには少なくとも3千万円を費やしていた。

 「自分の利益になる人には丁寧だが、そうではない人には対応が変わる」と、倉本被告を評するのは元同僚の男性。捜査関係者も、ここ数年の倉本被告は「遊ぶカネほしさに共同研究の相手先企業に現金を要求することが常態化していた」とみる。

 地位、名誉、そして多額のカネ。これらを手に入れた男は明らかに調子に乗っていたが、捜査が身に及んだことで人生は暗転した。

4社に次々と賄賂要求

 大阪府警は昨年11月、東京都内の中堅ゼネコン「東亜建設工業」、同「飛島建設」側からの収賄容疑で倉本被告を逮捕。2社と共同で実施した鉄筋コンクリートの耐震性能に関する研究で得たデータなどを提供する謝礼として、26、27年度に「指導料」名目などで、計約210万円の賄賂を受け取った容疑だった。

 賄賂の要求先は2社にとどまらなかった。

 ほぼ同様の手口で鉄鋼大手「JFEスチール」(東京都)の子会社で鋼線メーカーの「JFEテクノワイヤ」(千葉市)と、中堅ゼネコン「名工建設」(名古屋市)からも賄賂を受け取ったことが発覚し、府警が今年1月に両社側からの収賄容疑を立件。口座間のカネの動きなど不正の洗い出しを丹念に進めた結果、24年度以降に倉本被告が受け取った4社側からの賄賂総額は1288万円に上ることが判明した。

 なぜ長年、不正が見逃され続けたのか。そのワケは阪大が日本有数の巨大研究機関であるが故の、個々の研究に対するチェック体制の甘さにあった。

経費の「二重取り」も

 阪大では、研究室が企業と共同研究を実施する際、担当教授が大学側に申請書を提出し、大学が主体となって企業と契約を結ぶよう定めている。

 ところが、倉本被告は25年度以降、共同研究の実施を届け出ず、大学に無断で4社との研究を続けていたのだ。

 阪大関係者はいう。

 「大学では日々、それぞれの研究室が企業とさまざまな共同研究を行っている。学外関係者の出入りは日常茶飯事で、個々の研究が無断で行われたかどうか大学側が見つけるのは非常に難しい」

 研究の必要経費は、企業側が負担し大学の法人口座に入金しなければならないが、申請のなかった今回は研究自体、大学側にとって預かり知らぬ話だ。倉本被告は、贈賄側企業の担当者と結託した上で、研究経費を大学の法人口座ではなく、妻が代表で自らも役員を務める「CES構造研究所」(愛知県豊橋市)の口座に入金するよう指示。賄賂も同じ口座に振り込ませていた。

 同研究所は倉本被告が自らの特許などを管理するための私設の会社で、口座には4社のうち3社から少なくとも計2325万円が「無断研究」の経費として入金されていた。ところが倉本被告は、正規の研究を装って大学側にも1573万円の研究経費を請求し、「二重取り」で多額の現金を懐に入れていたのだ。

 逮捕後、倉本被告は自らの〝錬金術〟を捜査員に素直に告白した。ただ、一連の犯行を主導したのが倉本被告だったにせよ、企業側にも不正の片棒を担ぐメリットは存在していた。

「嫌われる」は御法度

 贈賄側企業が共同研究を行う狙いは、最終的には自社製品の開発など社益のためだ。倉本被告の要求に応えることで、企業側は学内の施設を使ったり、学生を社益にかなう研究に従事させたりすることができた。倉本被告が勤務する阪大吹田キャンパス(大阪府吹田市)には、ジャッキの圧力で柱や梁の強度を調べる高性能の「載荷装置」が配備され、研究で得たデータは企業側にも提供された。

 さらに、倉本被告は「無断研究」の論文を正規の研究論文に紛れ込ませる形でたびたび発表。贈賄側企業の担当者も執筆者として論文に名を連ねた。

 ゼネコン関係者は「自社の技法に、業界の権威である教授の『お墨付き』を得られれば自社製品の宣伝効果はぐんと高まる」と贈賄側企業の本音を推し量った上で、こう続ける。

 「倉本被告と共同研究を望む企業は数多い。倉本被告の歓心を買うためには、不正であっても意向に従わざるを得なかったのではないか」

 倉本被告に「嫌われる」ことは、贈賄側企業の担当者にとって御法度だったのだ。

相次ぐ不正…決別道半ば

 実は阪大では、倉本被告が摘発される約1年前にあたる27年12月、大学院情報科学研究科の男性教授らによる研究費の不正経理問題が発覚していた。

 阪大の調査によると、男性教授らは少なくとも14年度から26年度にかけ、業者に研究資材を架空発注したり、高価な物品を発注しながら実際は安いものを納入させたりする手口で差額分を業者にプールし、研究室の設備費などに流用。不正経理の総額は最大で約2億7400万円に上った。

 〝対岸の火事〟に恐れをなしたのか、倉本被告は28年7月、贈賄側企業と実施していた「無断研究」を大学に届け出て、正規研究への切り替えを進めた。しかし、巧妙に見えた隠蔽工作も捜査当局の目をごまかすことはできなかった。

 相次ぐ不正の発覚で、阪大にとってコンプライアンスの強化は喫緊の課題だ。研究室への立ち入り調査や学外の企業関係者の出入りチェックなど〝清浄化〟を進めつつあるが、阪大の鬼沢(きざわ)佳弘理事は、大学組織が抱える葛藤をこう漏らした。

 「大学は自由な研究活動が大前提で、教員らの活動は性善説に基づいている。大学側が研究の全てを把握することはできないし、かといって企業側に門戸を閉ざすわけにもいかない」